第101話 わたしは子供だ
斬った。
斬ってしまった。
わかってた。こうするしか無かったって。
そしてこうなる事も。
心が昂る。震える手は筋肉を硬直させるのではなく、次の動きへの身体の運びを滑らかにする。
「……ふふっ。…いや、次」
意思とは裏腹に漏れたものを抑えて、次に倒すべきものを探す。
周りをみる。
ロリアンさんはノーマンとは違い地に足をつけた剣術。
堅実、正確、地味。
努力で身につけた剣。たぶん、戦場で一番信頼できるタイプ。デヴォアインプは逃げるので精一杯だ。
ディアさんは、ちょっとなんて言ったらいいかわかんない。
お茶会の準備をしているかのように歩いたと思えば、スカートが突然翻って黒光りする円が月明りに映る。
その度にデヴォアインプは吹っ飛び、魔石に変わる。
こぉらぁ!村の男衆!しゃがむな、働け!ディアさんはペチコート履いてるから見えないぞ!
そして、ディアさんにもデヴォアインプは近寄ることはない。
少し不安に思っていることがあったんだ。
デヴォアインプは大人からは逃げる。
だから駆除するのが大変だった。
でも、子供を襲う。
わたしは、10歳。この歳では背が高い。
子供か大人か、どっちに見られるのだろうと。
答えは今、目の前にある。
次々と襲いかかってくるデヴォアインプ。
わたしは子供として見なされているらしい。
今、自分の中に見え隠れしてる衝動のことは考えない。
向かってくるデヴォアインプを斬る、そして、斬る。
横から向かってくるデヴォアインプの方を向こうとした時、矢が刺さる音とともに、魔石に変わる。
パパ。矢羽根でわかる。
視線を戻して、正面から来る魔獣を斬り上げる。魔獣じゃない、猿のような獣、目の前に血が広がる。
生き物を斬った。
「ふはっ!」
飛び散った血がわたしの身体に纏わりついていく。
魔獣とは違うんだね、獣は。
ファングボアの時はいっぱいいっぱいでわかんなかったけど、切ってる感覚!
「あは!あははははは!」
わたしは、こんなに、強いの?!
もう、全部、片付けちゃおう!
だいぶ数を減らしたけど、まとまってる群れの中に飛び込む。
「うるぅあぁぁぁぁぁぁあ!」
おまえら!覚悟しろぁあああ?!
目の前のデヴォアインプが消え去る。
胸に、誰かの指先。動けない。
誰だ?邪魔をするな。
「ルナさん?淑女としては下品な声を出してましたよ?」
ディアさん?
後ろから足を刈られる。
地面に叩きつけられる。背中に衝撃。
肺の中の空気が、押し出される
わけがわからない!そんな場合じゃ!!
「お父様の声、聞こえてますか?」
パパの声?
「ルナ!囲まれてる!下がりなさい!!」
頭が冷える。
周りはディアさんのいるところを除いて、全てデヴォアインプ。
狩りのときに、絶対に陥ってはいけない状況。パパがずっと言ってたのに。
いつの間に?
「あなたはまだ、子供です。頼れる大人は信用して、任せて、心に余裕を持っておくこと。それを憶えておくことを、お勧めします」
「ディアさん……」
わたし、子供でいいの?
涙が溢れる。
前世含めて27歳になるよ?もう、アラサーだよ?
今まで、過度に期待されてたのに。
走馬灯チートなのに。
子供でいいの?
アラサーの10歳としては、気恥ずかしいけど、これ以上、迷惑をかけちゃだめだ。
「ごめんなさい、ディアさん!前に出過ぎちゃった!」
池田屋事件から引き戻してくれて、ありがとう。
あとで叱ってください!!
ロリアンさんのほっとした顔が見える。
パパの安堵した表情も。
もう、心配はさせない。
わたし一人で背負わなくてもいい。
今は、目の前の状況と自分の内にある衝動と向き合おう。
加州清光を構え直した時、やっと、頭の上の方から、アマテラスの鳴き声が耳に入ってきた。




