第100話 人の形をなす異形
この季節、暗くなるのは早い。
パパは村の男衆に説明しつつ、魔石をかき集めていく。本来ならば、被害を受けた農作物を補填する収入を得るための魔石が、躊躇いもなく、供出されていく。
それだけ、深刻なのか、パパが信用されているのか。駆け回って、頭を下げるパパはかっこよかった。
ロリアンさんとディアさんは、戦場の場所を思案している。魔物があらわれる場所、魔石を置く場所、そして最適な戦力配置を。
わたしは子供達を一次的に、村長の家に避難させるべく、各家を回っては子供を連れ出し、村長の家に宿泊している、クラリッサ様に預けていく。
これで最後。
ルカとレナを連れて行った時、ルカが細い声で話始めた。
「作者のお姉ちゃん…。大丈夫なのかな…。こんなの初めてだよ……。」
怖いよね。
大人達が殺気立って、いつもと違う避難させられて。わかってないレナよりも、理解しつつあるルカの方が、不安なのだろう。
「大丈夫だよ、ルカ。子供達は、皆で守るからね。それに……」
ルカ、そんな怖そうな顔見ちゃったら、お姉ちゃん、頑張っちゃうから。
「実はね、内緒なんだけど……。仮面ソルジャーダブルのロリが、今お忍びで来てるんだよ。だから大丈夫!皆がいい子にしてる間に、やっつけてくれるから!だから、いい子で村長の家で待ってるんだよ?」
最低な嘘だ。でも、子供達が少しでも安心してくれるなら。
嘘の帳尻はわたしが合わせる。
そして、いいタイミングでくるじゃないの、ロリさん!読み聞かせの題材にしちゃったって、暴露した時も笑って許してくれた。
すごい速さで、駆け寄ってくる。
「少年!もう、大丈夫だ!なぜなら……、私が来たから!」
うん、それ、ワン・フォー・オールの人ね、仮面ソルジャーにそんなセリフはない。
何だろう、ヒーローのセリフは異世界も共通なのかな?
でも、ルカが喜んでる。
笑顔がみえる。
ロリアンさん、ありがとう。やっぱり、ヒーローって大事だね!皆を安心させてくれる。
その分、背負う責任も大きくなるけど。
それは、わたしが背負っちゃおうじゃないの。
姉として、娘として。
ロリアンさんとディアさんが選んだ場所は村の門と、農地の境目辺り。
農具を格納する小屋が道を挟んで並んでいる場所。
その挟まれた位置に、魔石が積まれている。
この周辺の農地は、既にかなり荒らされてしまっているから、これからの農地への被害は気にしなくていい。
小屋の上には、パパを含めて三人の弓使いが待機している。
村の男衆で囲むから誤射しないようにだ。
そして、囲んだ内側に飛び込むのが、わたしとロリアンさんとディアさん。
物陰に隠れて、その時を待つ。
アマテラスは、フードの中にはいない。
さっき、屋根の上を歩いているのが見えたから、多分、特等席を確保したのだろう。
息を潜める。
集中しすぎて、視野の端にノイズが混じり、視界が狭窄していく。
その度に、深呼吸をして、力を緩める。
こんな事を、ここ一カ月の間、パパは毎日していたのだ。今夜で終わりにしてあげたい。
何度目かの深呼吸で、遠くの影が形を変える。
次々と、現れる影が不規則に動いている。
近付いてくる。
月明かりに照らされた影は、人の形をしていた。
そして、人とは違う異形。
角、紫がかった肌の色、そして牙。
加工された道具を使っている。
これが、デヴォアインプなのか。
もっと、醜悪なモノを想像していた。
目の当たりにすると、一見は、村を襲うような凶暴さは見て取れない。
畑を気にしつつ、近付いてくる集団。
一匹が魔石を見つけ、駆け寄ってくる。
それにつられ、二匹、三匹と。
罠がないということも、わかっているのだろう。
大人の男衆が姿が見えないこともあり、大胆に魔石に群がっていく。
建物に囲まれた区域に集団が入った。
パパの合図。
建物の隙間を埋め、囲む村人。
一斉に飛び込む、わたしとロリアンさんとディアさん。
魔物が異変に気づく。
咆哮。
わたしの前に、月を背にした魔物。
影だけ見れば、人とそんなに変わらない。
鯉口が切れない。
威嚇から、力の行使に、魔獣の行動が変化する。
吠えた口から飛び出す涎が、水玉となり、散らばっていく。
襲われる。
震え。
それは恐怖か、衝動か。
左手の親指が鍔を弾き、鞘を握り込んだ手が引かれる。露わになる刀身。
刀身が月明かりに、ほんの一瞬、照らされ、消える。
人の形をとった魔獣は、2つに分かれ、地面に倒れ伏す前に魔石となって消えていった。




