第97話 悪役貴族、考察する ②
「でも、まったく関係ないってわけじゃない。ラストエリクサーは、霊薬の材料のひとつだと思う」
「というと?」
「村の記録には、アルヴェリスの深部に霊薬があると書いてあったんだろ? だけど実際は置いてなかった。となれば、霊薬そのものじゃくて、材料が置かれてるって考えることもできないかな?」
訝しげに目を細めるブリジット。
「随分と都合の良い解釈に聞こえるが……続けてくれ」
「アルヴェリスの最下層。あれはどう見ても、誰かが意図的に作った場所だ」
玉座の間。
その奥に配置された宝箱。
「ラストエリクサーと、緋々色の騎士。あの二つが材料だと睨んでる」
「階層主が霊薬の材料だと?」
「うん。正確には、あいつの血ね」
「わからん。それがなぜリサの血を採ることに繋がる?」
ちょうど二人は、リサのいる天幕の前に辿り着く。
足を止めたマルスは、ブリジットに顔を寄せてそっと耳打ちした。
「あのボス、ヴァーミリオンの血筋だ」
ブリジットの目が大きくなる。
「玉座の裏に刻まれてた家紋。それが証拠」
「……たしかに、筋は通っているが。いや、しかし」
困惑するブリジットを横目に、マルスは鼻を鳴らした。
「見える。聖国の闇が見えるぞぉ。こいつぁ、いろいろ掘り下げられそうだ」
ヴァーミリオン侯爵家は、建国当初から聖王家を陰で支えてきた古い功臣の家門だ。それだけに、表に出せない暗部だって数え切れぬほど抱えているだろう。
「要するに、こうだ。ヴァーミリオンの血と、ラストエリクサー。この二つが揃って、はじめて霊薬になる」
「ラストエリクサーを飲んだリサの血なら、その条件を満たしている……と」
「そういうこと」
マルスは天幕を見上げ、短く息を吐く。
「あと、霊薬にはたぶん消費期限がある。じゃなきゃ、わざわざ分けて置いておく意味がない。使えるタイミングが限られてるから、ああいう形で残されてたんだと思う」
ふむ、と顎を押さえるブリジット。
騎士団長として、マルスの話を鵜呑みにするわけにはいかない。
だが、もし本当にスージーを救えるのならと、信じてみたいという思いもあった。
「荒唐無稽だと一蹴するのは簡単だが……そなたの話には、不思議と説得力がある」
「そう? 俺もわりと無茶なことを言ってる自覚はあるよ?」
「それでも、試す価値はあるのだろう?」
「もち。俺の勘もそう言ってる」
「ならば、そなたの直感を信じよう」
マルスに微笑みかけたブリジットは、すぐに頬を引き締め、天幕の布に手をかける。
「問題は……リサだな。あの子を説き伏せるのは骨が折れるぞ」
「説得してみせるさ。人の命がかかってるんだ」
ことさらに異端を嫌う彼女のことだ。
いくらスージーのためとはいえ、自らの血を差し出すことには強い抵抗を示すに違いない。
リサがラストエリクサーを摂取してから、すでに数時間が経過している。
霊薬の消費期限がどれほどかは定かでないが、もはや一刻の猶予もないことだけは確かだ。
どう説明するか。
どう言えば、リサは頷いてくれるのか。
知恵を絞り出しながら、マルスは天幕の布をくぐった。




