第95話 悪役貴族、気付く ②
「んん……?」
マルスにはいまいち話が見えていなかった。
なぜブリジットがそこまで自分を責めているのか。
(あー、そういうことね。ラストエリクサーが黄金病に効く薬だと思ってるのか)
思えば、リスナー達も同じようなことを言っていた。
(たしかに……あのタイミングで宝箱から出てきたら、勘違いもするか)
けれど、違う。
ゲームをやり込んだ〝俺〟は、ラストエリクサーが黄金病には効かないことを知っている。だからこそ躊躇なくリサに使えたのだ。
マルスにとって、そもそもリサとスージーの二者択一ではなかった。
「ちょっと誤解があるみたいだから、説明したいんだけど――」
そう言いかけた時、天幕の外でブリジットを呼ぶ声があがった。
「団長! 団長はどちらか!」
差し迫った様子だ。
次の瞬間には、ブリジットは騎士団長の顔つきに戻っていた。
「すまない。少し席を外す」
言い残して、天幕を後にする。
マルスとエリシアは顔を見合わせた。
「なんだろ。穏やかじゃないな」
「霊薬が見つかったのでしょうか?」
二人は口を閉じ、外の声に耳を澄ます。
「ここだ」
「団長。報告が」
「話せ。ここでよい」
「は。最下層の玉座を検めたところ、裏に紋章が見つかりました。煤でひどく汚れており、洗い落として確認したのですが――こちらをご覧ください」
「……これは」
嫌な沈黙が流れたかと思うと、天幕の布をまくってブリジットが顔を覗かせた。
「マルス。そなたも見てくれ」
「ん? うん」
マルスは立ち上がり天幕を出る。
伝令の騎士の手にはプレートがあり、そこに一枚の画像が映し出されていた。
煤けた玉座に刻まれていたのは、交差した三本の剣と、それに絡まる炎の紋章。
〝俺〟には見覚えがあった。
「これって、ヴァーミリオンの」
ブリジットが頷く。
「うむ。ヴァーミリオン侯爵家の家紋だ」
「なんでダンジョンの奥にこんなもんが」
「わからぬが……ヴァーミリオンは古い家門だ。辺境の地となんらかの関わりがあってもおかしくはない」
「でも、ダンジョンの深部だぞ? それにこれって、あのボスが座ってたやつ――」
マルスの中の考察魂に火がついた。今までの情報を整理する。
「不治の黄金病。村の言い伝え。緋々色の騎士。ヴァーミリオンの紋章。それと……アイツが言っていた『呪われた血』」
そこまで口にして、マルスに閃きが訪れた。
「あっ」
バラバラだったピースが一つになる。
「マルス。何かわかったのか?」
「たぶん。いや、確証はないけど……試してみる価値はある」
マルスはしばらく顎に手を当てたまま考え込んだ。
「ブリジット。リサは今どこに?」
「医師の天幕だが……」
「よし」
マルスは手をぱん、と叩く。
「血をもらいに行く」
その一言で、場の空気が凍りついた。




