第93話 悪役貴族、アルヴェリス踏破! ②
ブリジットは目元を拭い、改めてマルスに深く頭を下げた。
「マルス。そなたの真心に感謝する。また、助けられてしまった」
「気にしなさんな。推しを助けるのが夢だったんだ。感謝するのはこっちの方さ」
「推し……?」
「おっと、こっちの話」
慌てて手を振って誤魔化すマルス。
「つくづく、わたしは助けられてばかりだ。そなたの恩は、一生かけても返しきれる気がしない」
「そう? なら、お互いめいっぱい長生きしないとな。生きてさえいれば、そのうち帳尻は合うもんさ」
軽く言ったつもりだった。
だが、彼女は笑うこともなく、どこまでも真摯な様相でマルスを見つめる。
「ああ……そうだな。そなたの言う通りかもしれん」
言いながら、ブリジットの瞳が潤んでいく。
(そなたの隣を許してくれるのなら)
口にできない想いを、視線に乗せて。
「さて」
熱視線に気付かないまま、マルスは立ち上がり、エリマルくんを肩に置く。
「いい感じに終わった感でてるけど、探索はここからが本番な。たぶん、あの騎士はもう出てこないし。構造変化が起きる前に上の連中に隅々調べてもらわないと。あ、もちろん俺らは帰って休む」
フォローカムがマルスを正面から捉える。
彼はいつもの調子で手をひらひら振った。
「はい、つーわけで。本日の古塔アルヴェリス攻略配信はここまで! 最下層攻略、無事踏破。そして、謎のつよつよ騎士とエンカウント。リサ九死に一生を得る、って感じの回でした!」
《待て待て、スージーはどうなるんだ》
《霊薬もう使っちゃったよね?》
《どこかにもう一個あるとか? マルスのことだから、どうせなんか知ってんでしょ》
コメントを聞いて、思わず苦笑する。
「まぁその辺も含めて、次の配信を乞うご期待! ってことで」
マルスはそこで一度言葉を切り、少しだけ真面目な顔になった。
「心配しなくても、ちゃんとスージーは助けるよ。約束しただろ」
いつになく真剣な声色。
リスナー達も茶化そうとはしなかった。
《頼むぞ。期待している》
《ファンになりました! マルス・ヴィル最強!》
《ま、ぼちぼち応援させてもらいますわ》
エールフレアが、最後の祝砲みたいに空間いっぱいに弾ける。
七色の光が古塔の闇を照らし、歓声めいたコメントの奔流が画面を埋め尽くした。
その中心で、マルスはいつも通りの気安さで笑みを浮かべる。
「ご視聴あんがとね。また次の配信で会おうぜ。以上、辺境系男子マルス・ヴィルでしたー!」
マルスが朗らかに宣言して、カメラに手を振る。
「……エリシアー。配信切ってー」
そこでやっと、配信は終了した。
攻略開始から三時間足らず。
古塔アルヴェリス――踏破完了。
今夜の配信が、アカスト史に語り継がれる伝説となったことは、あえて言うまでもない。




