第102話 悪役貴族、脚色する ①
暁の空の下で、配信はすでに始まっていた。
画面に人物はなく、ただ村長の家が遠く映っている。
鳥の声。穏やかな辺境の朝。
配信開始から数分経って、同時接続数は二次関数的にカウントアップしていた。
《まだ? 徹夜で待ってんだけど》
《霊薬は見つかったんですか?》
《待機》
画面上をコメントが流れていく。
待ちくたびれている者。
タイミングよく起床した者。
期待に胸を膨らませている者。
リスナーの思いは様々だ。
配信開始から十分。同時接続数が三万を超えた頃、配信に音楽が流れ出した。
画面は大きく画角を変えながら、村長の家にフォーカス。フォローカムが飛行し、物理的に距離を縮めていく。
そして。
「ものども、おはよう! 辺境系男子マルス・ヴィルが朝っぱらから失礼するよん」
爽やかなBGMの中、元気いっぱいのマルスの笑みが中心に映し出された。
「いやー、朝から人多いね。いいねいいね」
プレートに視線をやり、コメントを追う。
《三万おるぞ。安息日でもないのに》
《昨日の続き気になりすぎて寝れんかった》
《俺も。霊薬はどうなったん?》
《見つかりましたか?》
《リサ嬢の容体も気になる》
コメント欄が一瞬で加速する。
「みんな元気でなにより。徹夜組はちゃんとあとで寝ろよ? 体壊すぞー」
マルスは軽く笑い、村長の家に向かってゆっくりと歩き出す。
「みんな気になってるとこだろうし、先に結論から言っとく」
追従するフォローカムにむかって視線を流し、一言。
「霊薬、見つかってます」
コメント欄に油を注いた。
《きたああああ!》
《マジ? 他にもあったんか》
《すごすぎますわ。やはりマルス様はもってる側の人間です》
《一つだけじゃなかったんですね》
《これはヤラセ》
フォローカムが少し角度を変え、マルスの横顔を映す。
「まぁ正確には霊薬らしきもの、なんだけどね。効くかどうかは使ってみないことにはわかんないし」
《そりゃそうだ》
《リサ嬢を治したポーションは違ったの?》
「ああ……そのことだけどさ。や、ここが面白いところなんだけど。霊薬らしきものを見つけたのは、リサなんだよね」
《マジ?》
《死にかけてたじゃん》
《捜索に参加したってこと?》
「そ。あいつさ。自分が足を引っ張ったからーとか言って張り切っちゃって。その熱量たるや激アツったらありゃしねーの」
マルスはひらひらと茶化すように手を振る。
彼の自然な演技力は、一重にゲーム配信経験の賜物だった。
「言っても、霊薬見つけられたのはその熱量のおかげでもあるんだけどね。なんせ、すげーわかりにくいところにあったからさ」
《やるじゃん》
《リサちゃんなりに思うところがあったんだろうな》
《生意気なガキだと思ったけど、やるときゃやるんだな》
「おいおい。リサはヴァーミリオン侯爵家の娘だぞ。言葉には気を付けろよー?」
《お前が言うなwww》
《薬草生える》
「ま、本心を言うとあいつには感謝してるよ。これでスージーを助けられるかもしんないだから。今回のMVPは、間違いなくリサだ」
マルスは一転して真摯な口調になる。
「こういう持ち上げるようなこと、本人に言うとたぶん嫌がるだろうから。ここだけの話にしといてくれ」
《もう遅い》
《全世界配信中です》
《薬草》
「だな」
苦笑しながら、マルスは村長の家の扉の前で足を止めた。
「というわけで、霊薬は無事確保。あとは――」
手を扉にかける。
「効くかどうか、だな」
きぃ、と木の扉が軋む音を立てて開いた。
朝の光が細く差し込み、室内の空気をやわらかく照らす。
フォローカムが滑るように続き、村長の家の中へと入っていった。




