第101話 悪役貴族、激励する ②
「リサ」
黙り込んだままの彼女を見て、ブリジットが名を呼ぶ。
最後の意思確認をされている。そう感じて、リサは顔を上げた。
「お姉様。リサ、やります」
はっきりした声。
言葉にしたことで、自分の中で何かが定まるのを感じた。恐怖や嫌悪が消えたわけじゃない。
けれど、それよりも強いものが芽生えていた。
「よいのだな?」
「はい」
「わかった」
ブリジットは力強く頷き、それからふっと口元を緩めた。
「リサ。お前の勇気に感謝する」
「勇気だなんて」
リサは視線を逸らし、気まずそうに俯く。
「そんな立派なものじゃありません。やるって決めても、やっぱり怖いですし」
「それでよい」
穏やかな声。
「恐れと共に進むことが勇気なのだ。今のお前は、十分に勇敢だぞ」
敬愛するブリジットに真正面から褒められ、リサの胸は温かくなった。
こうも素直に褒めてもらえたのはいつぶりだろうか。従騎士になってからは、ずっと厳しくされてきたから。
(ひとまず闇落ちルートの危機は回避できたか)
二人の様子を見て、マルスは胸の内で安堵する。
(あとは、本当にリサの血が黄金病に効くのかどうか。それと、もう一つ)
軽く咳払い。
「それじゃ、さっそくスージーのところに向かいたいんだけど……その前に考えなきゃならないことがある」
「どうした?」
ブリジットが首を傾げる。
マルスは顎に手を当て、少し考え込んだ。
「いや。これ、このまま配信するのはマズいでしょ」
そこでようやく、二人は企画の件を思い出した。
「考えてもみて。黄金病を治す霊薬が、ヴァーミリオンの血とラストエリクサーを合わせたもの、なんて話が表に出たら……どうなるよ?」
ブリジットの表情が引き締まる。
リサも、はっとしたように目を瞬かせた。
「……血を狙われる」
呟いたのはリサだった。
さっきまでとは違う意味で、顔色がわずかに青ざめている。
「それだけじゃ済まない。最悪、ヴァーミリオンは昔からそういう異端魔術を研究していた、とか言われる可能性もある」
「……ありうるな。ヴァーミリオンには政敵も多い。事実はどうであれ、ここぞとばかりに騒ぎ立てる連中は多いだろう」
「そゆこと。ただでさえ緋々色の騎士が『呪われた血』とか言ってたし。ネットじゃもう色々燃えてる」
「じゃあ、配信しなきゃいいじゃない」
「それはナシ。ここで企画を打ち切れば、逆にあらぬ誤解を招く。スージーは助からなかった、とかね。そもそもあんだけ大口叩いといて、途中で投げ出すのはダメでしょ」
「ならば、どうする?」
ブリジットの訝しんだ問いに、口角を吊り上げるマルス。
「脚色は必要だ。例えば……こういうのはどう?」
そして、思い描く脚本の構想を、つらつらと口にしていった。




