表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
101/106

第100話 悪役貴族、激励する ①

 この場において不自然なほど自然な声音だったせいで、リサは思わず顔を上げた。

 涙で濡れた睫毛の隙間から、信じられないものを見るようにマルスを睨む。


「……なんですって?」

「だってそうだろ。なんでお前、自分をけなす方向にしか話を持っていけないんだ。発想が貧乏くさい」

「び、貧乏くさいってなによっ」


 泣き顔のまま反論しかけて、リサは言葉に詰まる。


「役立たずだから血を捧げまーす。自分にはそれくらいしか価値がありませーん、ってか? そういう安っぽい悲劇のヒロインみたいなの、趣味じゃないんだよね」


 リサはかあっと顔を赤くするが、マルスはそれに構わず続けた。


「自分で自分の値段を下げてんなよ。聞いてて腹が立つ」


 強い言葉。

 だが決して突き放す響きではなかった。


「いいか、リサ。お前にやってもらいたいのは、埋め合わせでも、ましてや罰ゲームでもない。お前にしか務まらない役目なんだよ」

「そんなの……リサが弱くて、ラストエリクサーを飲むしかなくて、それでたまたまヴァーミリオンの人間だっただけで――」

「たまたまで役に立てるなら、それはもう立派な才能だろ」

「でもっ。それじゃ結局、リサが血筋以外取り柄のない無能ってことでしょ……っ」

「勘違いすんな」


 マルスはぴしゃりと言い切る。


「人の価値ってのは、やりたい事が出来るかどうかで決まるんじゃない。やるべき事を、やるべき時にやれるかどうかで決まるんだ」


 それから、すこしだけ語気を柔らかくして。


「ちょうど今、そのやるべき時が来たってわけ。主役に抜擢されたんだよ、お前は」


 ぽかん、と。リサは泣くのも忘れて彼を見上げた。

 主役。

 それが、あまりにも自分に似つかわしくない響きだったから。


「だから、選べ。自分の意志でな」


 リサは震える指でシーツを握り締める。


 罰として血を差し出すのか。

 使命と見て与えるのか。


 同じ行為でも、意味がまるで違う。

 視界はまだ滲んでいる。それでも、息苦しさは次第にほぐれていく。


「そんな言い方、ずるい」

「別に断ったっていい。本当に無理ってんなら、別の手を考える」

「他に方法があるの?」

「わかんね。あるかもしれないし、ないかもしれない」

「時間がないって言ってたくせに」

「だな。実は焦ってる。お前に断れたらどうしようってな」


 それでも、強要はしない。

 劣等感や罪悪感に乗っかるようなことはしない。

 それがリサには不思議だった。


(何を企んでいるのかしら)


 そう思ってしまう自分が情けない。

 助けられておいて。配慮されておいて。


 リサは胸元に手を当てる。傷はもうない。けれど、騎士に斬られた感触は消えていなかった。

 痛みというより、喪失感に近い。肉を抉り取られ、自分の存在を奪われるような感覚。


(ラストエリクサーがなかったら死んでいたって、お姉様が言ってた。仮に生き残れたとしても、今までどおりはいられなかったって)


 リサは改めて、ラストエリクサーの奇跡的な効能を実感する。

 いま自分が生かされていることに、何か意味があるのだと信じたくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ