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羊っ娘はーちゃんの憂鬱<前篇>

 これは、エピローグ「私は腐女子」で、あかねが気持ち良く語り部をしていた、その少し前。


 第5章で、一瞬だけ登場した羊っ娘はーちゃんにスポットライトを当てた物語。


 ここは、アンドロイド審査会管理事務所。


 そして、アンドロイド審査会五人衆の一角を担う()()()()()()()の居室である。


 その居室は、窓際に会社の重役が使うような大きな机に、革張りで肘掛けのついた大きな椅子が置かれている。


 そして、大きな机の前、垂直に3人掛けのソファー、ローテーブルを挟んで、1人掛けのソファーが少し離れて2脚置かれている。


 居室の中では、羊の着ぐ……おっと、体中羊毛に包み込まれ、くるくるっとした角が頭から生えている少女と、部下と思われる制服を着た2名が立ち話をしている。


 もちろん前述の少女は、言うまでも無くはーちゃんのことを指している。着ぐるみなんて表現を本人に聞かれたら速攻消されるに違いない。もちろん物理的に消されると言う意味だ。


 理由は簡単、彼女は見た目こそ可愛いが、中身は冷酷無慈悲で心を持たない友情人情なんて欠片も存在しない少女なのだから。


 ――何か言っためぅか?


 え?

 い、いや、何でもないですすみません。


 部下の報告を不機嫌に聞くはーちゃん。

 いや、はーちゃんは部下になんて目もくれず、ブツブツと独り言を呟いていた。まるで前に居る部下2名の存在が眼中に入っていないかの如く。


「ったく。ほ――んとに周りはクズばかりめぅね。あたおかな連中が集まっていると言っても決して過言じゃないめぅ。まあ、それにしても、000035ばん、0000164ばんを強制送還できたのは最近の収穫めぅね。本当は、000006ばんも捕獲しようかと少し思っためぅが、ポンコツを相手にしている余裕はないめぅし、地球第一自治区にアンドロイドが一体も居ないのはバランスが悪いめぅ。はあ……それにしてもなんで、はーちゃん自らが出張らなくてはならないめぅかね、ほんと使えない兵隊ばかりめう。……って。そもそも本編に、はーちゃんの出番が少ないめぅ。これじゃはーちゃん、かませキャラと変わらないめぅ。かませめぅ。仮に、はーちゃんの登場頻度がもっともーーーっとあがってたら、PV数爆上がりだっためぅのに。作者は、ぱかめぅねぇ。ばかを通り越してぱかめぅ。濁点通り越して半濁点めぅ。そもそも、はーちゃんを主人公にするべきだっためぅ。はーちゃんを主人公にしていたら、ノベル爆売れで書籍化なって美味しいご飯が、たーくさん食べられたのに、何もわかってないめぅよ。ぱかめぅあほめぅぽんぽこぴーめぅ。ほんとに、はーちゃん以外クズしか居ないめぅ。」


 長ぇよ。

 はーちゃんのグチが一向に止まらない。誰も止められない。


 作者自身、上記はーちゃんの愚痴全文を読んで頂いた読者様が、どのくらい居るかは考えたくないところである。


 もし、全文を読破した読者様が居たら、お詫びをしてからの、スライディング土下座をしてからのお礼を述べたいところだ。


 だって、はーちゃんの愚痴、つまり、何も意味のない文字の羅列を読んで、結果、オチも何もないことを知り脱力したに違いないのだから。


 さて、ここで保険を打つとしよう。

 上記はーちゃんの愚痴を、読み飛ばした賢明なる読者様に上記の内容を一言で説明するのなら。


 もっと出番増やせやヴォケェ!!

 以上。


 である。

 たったこれだけのことをだらだらと、おおよそ500文字に渡ってブツクサ床に向かって吐き捨てていたのである。


 大体、愚痴が無意味に長いし、何より最後の ぽんぽこぴーって何だよ。意味わかんねーよ。


 謎すぎるはーちゃん、こんなんでアンドロイド五人衆の一角を担っていること自体が信じがたい。それこそアンドロイド審査会の上層部は、ぽんぽこぴーなのか?

 

 それでも部下と思わし人物がバインダーに挟まれた資料を流れる様に読み上げ、はーちゃんに向かって報告を行っている。だがしかし、見たところ、どう考えても部下の声が、はーちゃんに届いているとは思えない。


 それでも真面目な部下は、一生懸命はーちゃんに向かって報告を続けるのだった。えらいぞ。サラリーマンの鏡だ。


「……続いて、金星第三自治区ですが、アンドロイドNo.0000057が、命を絶とうとした子供を救い表彰されたと報告が。……閣下、フミューデンス閣下っ……! 聞いておられますか?!」


 はーちゃんに対して、部下が心配そうに問いかける。だがしかし、部下の声なんて眼中にないと言う風に、相も変わらず自分の世界に入っている様子のはーちゃん。


 閑話休題。

 そう言えば、フミューデンスと言うのが、はーちゃんの本当の名前らしい。


 ふむ。

 中々かわいい名前じゃないか。


 でも、その可愛い名前の中には、はーちゃんの()の字も入っていない、の前に、そもそもフミューデンスが名字なのか名前なのか、そもそもこの世界に名字名前と言う概念があるのかどうかもわからない。


 さて、話を戻そう。

 はーちゃんは、やっとのことで部下の呼びかけに気づき、ハッとした表情で顔を上げた。

 

 まるで今、部下が瞬間移動で現れたかのように。

 

 ひどいな。

 だって、部下が居室に入ってから、余裕で30分は経過している。


「……め、めうぅ。すまないめぅ。ちょっと考え事をしていためぅ。それよりも閣下とか言うクソじじぃみたいな呼び方やめるめぅ。はーちゃんで良いめぅ。むしろ、はーちゃんと呼べめぅ。」

「そ、そんな、恐れ多くてちゃん付けでなんて呼べませんっ! フミューデンス閣下っ!」


 部下は、戸惑いを隠せない様子で直立不動して、はーちゃんに向かって敬礼をする。彼なりに敬意を現しているようだが、正にその言動こそが、はーちゃんの逆鱗に触れたようだ。


「良いからっ! A0001072ばん! はーちゃんが、はーちゃんで良いと言っているのだから素直に従うめぅ!」

「しっ、失礼いたしました! 了解いたしました! ……はーちゃん様っ!」


「はあ。様めぅか。様付けもダサダサめぅ、言わされている感がハンパないめぅ……………………うむ。まあ、閣下と呼ばれるよりはマシめぅか。それでA0001072ばん? 強制送還した000035ばん、0000164ばんの管轄めぅが、以降様子はどうなっているめぅ?」


「はっ! 地球第一自治区でございますね? 少々おまちください。えー。アンドロイドNo.000035、アンドロイドNo.0000164に近しかった人間が、一時期混乱しておりましたが、我々アンドロイド審査会の記憶消去は滞りなく正常終了しておりますので、特に問題ないかと思われます」

「ふむ、それは何よりめぅ」


「はっ! ありがとうございます!」


 ……えーっと。

 説明が必要か。


 端的に言うと、はーちゃんの中で、「自分以外の人間と、アンドロイド、そして、部下」は、英数字で判別される。


 いわゆるA0001072ばんは、はーちゃんの目前に居る部下、000035ばん、0000164ばんは、それぞれ みかん、アリスを指す。

 

 むしろ他人のことを数字で呼ぶ方が覚えにくいし難しいと思うのだが、はーちゃんの場合は違うらしい。


 彼女の脳内にあるCPUの仕組みの影響かもしれない。そもそも彼女、いや、はーちゃんが男なのか女なのか、そもそも性別の概念が存在するのかさえもわからない。

 

 ただ、今、はーちゃんについて言えることは、アンドロイド審査会5人衆の1人であって、閣下と呼ばれるほどの上流階級なのだけれども、実際は羊毛に包まれた見た目ファンシーな少女と言うことだけだ。

 

「問題ないのは喜ばしいことめぅが、すっかり刺激が無くなってしまっためぅね。また退屈な毎日が始まるめぅ。絶望めぅ。このきゅーとなはーちゃんの登場シチュが無くなるのは、アンドロイド審査会の危機めぅね。そう言う意味では、000035ばん、0000164ばんを強制送還したのは失敗だっためぅかね。あの2体は中々はーちゃんを楽しませてくれためぅ。次回、ヤツラらの再申請時、ほんの少し配慮しても良いかもしれないめぅね。じゃないと退屈で死にそうめ……」


 だから長えって。

 メンヘラ少女の如く、はーちゃんは悩まし気に長めに呟く……いや、事情を知らない部下から見たら、考え込んでしまったように見えると言う表現の方が的確かもしれない。


 そう、はーちゃんの呟きは、部下までは届いていない。


「……ん様、はーちゃん様?」


 再び黙りこくってしまったはーちゃんに対して、部下……はーちゃん曰くA0001072ばんは、はーちゃんのことを下から覗き込み心配した。


 いや、はーちゃんがA0001072ばんと呼んでいるだけで彼も、みかん、アリス同様、ちゃんとした名前を持っているに違いないが、本話では彼の本名を知る由は何もない。

 

「あ、ああ、何でもないめぅ。報告ご苦労めぅ。下がって良いめぅ」

「はっ! 了解いたしました。ありがとうございます!」


 部下2人は、ほっとした表情を見せた後、くるりと反転し部屋の扉に向かった。


 ――まったくフミューデンス閣下にも困ったものだ。

 ――まったく。


 部下同士にしか聞こえないくらいの小さな声。本来であれば、その声が、はーちゃんに届くことは絶対にない……ないはずだった。


「おい。A0001072ばん、A0005387ばん、ちょっとこっちに来るめぅ」


 ――はっ!

 ――はっ!


 突然呼ばれて驚く部下2人。

 部屋から一歩出ようとした部下2人だったが、揃って綺麗に回れ右をして、はーちゃんの前に戻る。


 急なはーちゃんの呼び出しに即座に反応できるのは、重厚なアンドロイド審査会の訓練の賜物と言って良いだろう。


「なんでありましょうか? フミュ……はーちゃん様。」


 不機嫌そうなはーちゃんに向かって、部下は恐縮しながら声をかける。はーちゃんの要件に関して何か心当たりがあるようだ。


「なんでありましょうか……じゃないめぅ。はーちゃんの部屋の中で、はーちゃんの陰口を叩くとか良い度胸めぅね……こら。」


 ――えっ?


 ――ぽこん。

 ――ぽこん。


 はーちゃんは背伸びをして、部下2人それぞれの頭を蹄を使って軽く小突いた。


 瞬間。


 ――シュッ!

 ――シュッ!


 瞬く間に、その場から消えてしまった部下2名。


「まったく、役立たずばかりめぅ。厳格なアンドロイド審査会で雇ってやっているってことがわからないめぅかね。代わりはいくらでも居るめぅ。消えるめぅ。」


 はーちゃんは、深く溜息をついて自席に戻る。


 大きな革張りの椅子は、はーちゃんの身体を包み込んだ。


 はーちゃんは、大きな椅子に置かれたぬいぐるみのように、ちょこんと置かれて、いや、座っている。この大きくて厳格な椅子は、着ぐるみの彼女には、おおよそ似つかわしくない。


 それにしても、部下のA0001072ばんは、まだ良いが、もう1人の部下A0005387ばん、「まったく」の一言だけで消されてしまった。かわいそうに。


 ――部下だって無限に居るわけじゃねーんだから、気軽に消してんじゃねーよ、羽衣。


 開いたドアに寄りかかり、はーちゃんに向かってタメ口で話しかける一人の男。

 

 って、羽衣って誰ですか?

 

 <後篇に続く>

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