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ゾンビだらけの宗教と後輩メイド 6


「ようこそ。つゆくん」

「こんばんは。おばさん」


 深夜の広間に、つゆは招待された。


 幕の向こうの嫦娥を除くと、西王教団の信徒に囲まれている。教団直売のローブを着こんでいて、誰ひとりとして顔が見えない。


 信徒のひとりが叫んだ。


「童。おまえ教主様になんてことを! 偉大なる教主様は性別などに囚われているわけがない」

「おばさんじゃないってことは、おじさんなの?」

「うふふふ」

「違う。そういうことを言いたいわけではない」


 おそらく顔を真っ赤にして反論する信徒に反して、嫦娥は笑い声を漏らす。


「教主様。この童はあなたの威光を理解していない。即刻、鞭打ちの刑をしたほうがよろしいかと思います」

「やはり面白い娘だ……子供の言うことだ。気にするな」

「分かりました。教主様の器の大きさに免じて、ここは引きます」


 不服なことを隠しきれていないが、声を荒げた信徒は言葉通り列に戻る。


「さて。話に戻ろうじゃないか。どこまで話していたか?」

「まだ挨拶だけだよ。お母さんにね、挨拶は大きな声でしなさいって教わったの。あとね、梅人からは初対面の人にはとりあえず挨拶しろって言われたの。変なやつだと思われても、不利には決してならないからだって」

「あの男。やはりいちいち計算高い」

「うん。梅人ね、いつも紙とにらめっこして計算してるの。計算、大好きなんだろうね。この前ね、人生ゲームっていうのをやったんだけどお金のやり取りするたびに計算して細かくチェックするの」

「なるほど。どうやらあの男はきみの価値を知っているらしい。そうでなければ、あの黒白鳥が打算もなくただの子供をそこまで世話をするなんてことはありえない」

「ださん? たーざん?」

「まあ雑談はここまでにして、そろそろ本題へ入ることにしよう。いつものものは持ってきてくれたかね?」

「はい。ここに」


 信徒の列が割れると、巨大な鉄の箱が見えた。


 十人がかりで台車を使って運んできて、つゆの前まで持ってくる。


 ゼーゼー、と汗塗れの憔悴状態のままなんとか信徒たちは戻っていた。


「おつかれさまー」

「諸君。ご苦労」

「教主様に労ってもらえるなんて光栄の余りです」

「でも、これなに? あんまかわいくない」

「ただの重量物だ。半トン以上ある」

「へー。豚さんの半分ってこうなってるんだー。大きな豚さんだねー」

「……」

「おじさん困ってるけど、どうしたのー?」

「なんでもない――これから見せるのは奇跡だ。しかと目を開けておくがいい」


 嫦娥は掌を鉄の箱へ向けた。


 呪文のようなものを唱える。首を横へかしげるつゆの周囲で、信徒たちは感動に浸る。中には涙まで流している人間までいた。


 ふわっ


 ラストに力を加えて念じると、なんとあの重い箱が浮きだした。

 なんとも軽い動作でそのまま空中に滞在し続け、まるで空気の詰まった風船のようであった。


「ふふ。どうかね?」


 パチパチパチ、と興奮して拍手するつゆ。


「すごいすごーい」

「そうだろう?」

「どんな手品なのこれ?」

「貴様ぁあああ! いくら幼きものといえど奇跡を侮辱するなぁあああ!」

「ひっ」


 一度下がったはずの信徒が怒鳴り散らして、殴りにかかってきた。

 

 怒りにふれて、つゆは怯えて身を竦める。


「黙れ」


 嫦娥が、口出しした。


 今までにない冷たい声に凍らされたかのように信徒は動きを止めた。


「朕とこの娘の話し合いだ。部外者は口を出すな」

「西王様! なぜそんなにもこの童の肩を持つのです!? こいつは教団に入っているわけでもないんですよ!」

「それはこの娘の本質を聞けば分かることだ……どうかね? Zからこの世界を解放する力を持つ少女」

「な、なんだって!?」

「?」


 たちまちに驚く信徒たち。

 教主の前ということも忘れて騒ぎ出す。


 反対にその中心にいるはずのつゆは、ただただ状況を掴めていなかった。


「おじさん。それはどういう意味?」

「おっと、どうやらあの金汚い商人は言っていなかったようだね」

「梅人のこと? 梅人ならつゆのことは生意気で大喰らいなクソガキってたまに影で呼んでいるけど」

「ほお。金稼ぎに徹せる非情な男かと思ったが、存外、あまいところがある。所詮は若造ということか」


 ふむふむ、と嫦娥は納得する。


「まああの男のことなぞもうどうでもよい。つゆくん。今晩、きみへここに来てもらったのには話があってな……これから、この教団に入らないか?」

「それは条件次第かな。例えば、目玉焼き丼を百食とか」

「よいとも」

「えっ?」

「きみの望みは全て叶えよう。使徒長の席を与えてもよい。きみはただ一週間に一度だけ採血や皮膚を少し分け与えてくれればいい。なに心配はいらない。きみが痛がるようなことは絶対にしないさ」

「入団していきなり使徒長の座を!?」


 教主の嫦娥を除くと、西王教団にとって実質ナンバーワンの役職だった。

 かなりの好待遇に、つゆはご満悦になる。


「なんでそんなによくしてくれるわけじゃないけど、いいんじゃないかな。実際ここのごはんはおいしくて多いし。あとお風呂も足のばせるし。ベッドもやわらかいし、メイドさんもいつぱいいる。服しかないメイド喫茶とは比べ物になんない」

「そうだろう」

「うん。つゆ、ここ入るね。梅人からはしんこーしゅーきょーなんてやめとけって言われたけど、つゆここにいてそんなに悪くないところだって分かったもん」

「よき判断をしてくれた。みなのもの、新たな使徒長の入団を歓迎せよ」

「つゆ様ー!」

「そのマスク素敵ですねー!」

「えっへん。もっとほめるがよいぞ」

「それでは部屋を用意してあるから、明日からつゆくんはそこに住みたまえ」

「……」

「葬逆梅人と共用していた部屋と比べると遥かに豪華だ。本来ならば最初からそっちに住まわせたかったが、あの男がきみと一緒の部屋でないと仕事を中断すると断ってな。まったく、家族でもないのにきみを束縛してひどいやつだ。だがもう安心するがいい。あの男ときみは金輪際、関わることはない」

「……それって、梅人ともう会えないってこと?」

「そうだ。きみの価値を理解せずにそれ相応の生活も送らせてやれなかった男だ。離れられて幸せだろう?」

「じゃあやだ。つゆ、おうち帰る」

「なにっ?」


 滑らかに動いていた口が止まる嫦娥。


 つゆはマスクが変形するくらい頬を膨らませる。


「つゆにとっての今のおうちはメイド喫茶なの! ここはいいけど違うの!」

「ど、どういうことだ?」

「梅人と会えないのもやだ! ケチで性格最悪で唇メンタイコみたいだけど、ほんとひとつもいいところないけど、それでもつゆのおともだちなの! これから先も、おかあさんと暮らすようになってもずっと一緒にいるの!」

「あいつは、きみを利用しようとしていた悪辣非道だぞ?」

「なんでそんなひどいこと言うの? 梅人だって……ばいとだって……うえぇえええん!」


 ついには泣き出したつゆ。


 信徒が困惑するのが見てとれた。


 空気が変わったのを感じた嫦娥は、あのかすれているが妙に重さを感じる声で呟く。


「だがつゆくん。葬逆梅人はもう死んだぞ」

「えっ……」

「さっき、Zになってうちのメイドを襲おうとしてたな。悪いが、自己防衛として殺すしかなかった」

「うそ」

「本当だよ。だから家に帰れなくなったきみはここへ来るといい。西王教団は、居場所を失ったものを受け入れよう」


 たった少しの会話で、場の状況が一変した。

 孤立してしまった少女へ手を差し伸べる慈悲深い教主に信徒たちは感銘を受けている。


 嫦娥は言葉を促すようにじっとつゆのほうを見る、。


 泣き止んだつゆがなにか言おうとしたところで、


「――はい。茶番はそこまで」


 おれ(葬逆梅人)は信徒のローブを脱いで広間に姿を現した。


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