逆地球化
おれぁ、驚いた。それから隣の奴に尋ねたんだ。今、何時だ? って。したらそいつはこう答えやがった。
あぁ〝俺達の世界じゃ午後二時をまわったところだ〟ってな。それに俺はおやつの時間までもう少しだなって答えてから、目の前に広がる光景をじぃっとみんなで眺めてた。
…………まぁ、おおかた地下での標準時刻を設定した奴が丸々半日近く時間を間違ったのだろう。十中八九、そうに違いない。
夜中だ。久しく見るであろう太陽に目が眩んじまわないように。ほら、モグラみてぇに、だからお気に入りのサングラスを持っていったのに。だっつーのに、太陽なんざぁどこにもない。文明がないってのは充分に分かっていたが。
俺達の〝故郷〟は午前二時をまわったところだと言っても、なんの問題もなかった。ほんっと、ただの黒い海みてぇな。輪郭くらいしか見えなかった。
聞こえてきたのはただの風の音。それも猛獣の唸り声みてえな。そんでもってひどく、寒かった。冬の早朝みたいな気味がわりィ寒さだった。
あぁ、まったく冗談じゃねぇ。そんでもってここに酸の雨が降るってんだろう?
……ったく、いったいここはどこの惑星だ?
…………そうだな、地獄以外で例えるとなると……まるで……まるで火星の夜景みたいだった。そうだ、あの時の景色と瓜二つだった。むしろあっちには明るい赤みがあったぶん、まだマシだったか。色がないってのは、どうにも悲しくて切ないもんだ。
そういやぁ、月や火星で任務をこなしてた奴らはどうしちまったんだろうか。こっちと急に連絡が取れなくなったもんだから、そりゃ相当焦ってるだろうなぁ。自給自足は出来るだろうから、当分の間は心配はいらないっちゃいらないが。
もちろん、観測はしてるだろう。なんだ、なんだ、〝地球が黒いぞ〟、ってな。当然、すぐに向こうの研究者達が躍起になって集会を開いてた事だろう。
あれは大規模な地殻変動が。いやいや、あれは超異常気象で巨大なハリケーンが。違うね、ついにスーパーボルケーノが……とまぁ、俺が知ってる単語はこんくらいだが。
けどこれだけは言える。少なくとも彼らは、この惨状はきっと〝機械共が引き起こした〟んだろうなんて、だーれも思いつかないだろう。そりゃ『空の災』を体験した俺だって信じらんねぇんだから。
……まぁあれだ、遠征組がまだ生きてるとすれば、そのうち〝逆テラフォーミング〟でもしにやってくるだろう。今はそれを夢見る事くらいしか出来やしねぇ。
あぁそんでさ、見つかった俺達はさ、奇跡の再会かと思いきや、彼らにウチュウジン呼ばわりされて、挙句の果てにホルマリン漬けにされるんだ!!!(笑)
さて、今日はもう寝るか。明日はなんだか知らんが、食堂の冷蔵庫に南京錠を取り付けに行かなきゃいけねぇ。
良い夢を。
二〇九六年四月十一日 地上探索隊第一期隊員 浜岡典雄




