黒々嶽
無窮に広がる漆黒の砂丘。空一面を鈍重に渦巻く闇黒。黒と黒に挟まれた空間を、おぞましい冷風が絶え間無く、容赦無く撫上げる。
光を求め右往左往する大地の呼吸は、死期迫る人間のそれに酷似していた。その呻きは轟然と吹き荒ぶ風と溶け合って、どこまでも遠くへと運ばれて行く。その悲愴を耳にする者がいる筈も無く、遠路遥々と救済を希求する声は無意味の他ならない。
独特の闇のうねりが、地上を我がもの顔で駆っていた。それは鎖から解かれた狂犬の如く、咆哮をあげ、余すところなく貪婪に地上を喰らい尽くして行く。その疾走を阻礙するものは何ひとつ無く、うねりの喰後には絶望の晦冥しか残らない。
崩れ間際の廃墟達が、沛然と降り頻る酸を浴びて絶えていた。屈強な鉄骨のみがかろうじて残る様相は、あたかも地上に展示された巨大な骨格模型の如く。その骨組の間を吹き抜ける風の音は、かつての栄華を郷愁する嘆きにしか聞こえない。
緑の類なぞは、生き残れるわけがなかった。まして図太い木の幹の一株すら見当たらず、無論、それを糧にして生きるモノ達が生き残れる道理も無い。
今、地上にある色と言えば、空間を満たす純然たる黒色と、残る鉄骨に映える血のように赤茶けた錆色のみ。諸所にある〝酸溜まり〟は空の色を反射し、鈍い石油色の泡を浮き立たせている。それらの組み合わせは地獄絵の色合いと何が違う事だろうか。
――――いったい、誰が。誰が、かつての此処を数多の生物が縦横無尽に闊歩していたと想像出来よう。
ただ、目に見えぬ微生物や菌類ならば、あるいは地中で綽々と暮らしているかもしれない。もし彼らに感情があったとすれば、それは驚嘆、あるいはある種の滑稽さに嘲笑していた事だろう。
なんせ、かつては自分達の頭上をあたかも惑星の支配者の如く蹂躙していた人間が、今や自分達よりも下の世界でひっそりと、生きながらえているというのだから――――




