早起き×遅刻
珍しいことは、たまに起こるから珍しいわけで。いつもは遅刻常習犯な俺が、一時間も早く学校へと着いてしまった。 どうするか、別に目的があって早く登校したわけではない。 校門前で一人悩む。 コンビニで時間を潰すか、そうも考えたが。 自転車小屋から学校へと歩く人を見て、俺も中へと入ることにした。
(あいつ確か…… 三井、だっけ?)
静かな廊下に足音が響く。 まるで2人しかいないような気分。 てか、気づいてないのか? 普通気づくよな、足音2人分鳴ってるし。 前を歩く三井は振り返りもせず教室へと入って行った。 時計を見ればまだ7時前。 ……… あいつ部活とかやってないよな? こんな早くになーにをすることがあんのよ? 俺は興味本位で教室を覗いた。
「……… よし!」
静かな子だ、俺の知る三井は暗い子だ。そんな子が、そこそこ大きな声を出し腕まくりをし始めた。 一体なにすんの、こんな朝っぱらに。
すると、三井はまず黒板消しを手に黒板を綺麗にし始めた。 おいおい、こいつまさか……… 俺は少し面白がりながらそれを眺めた。
黒板を綺麗にし、今日の日付、日直欄に名前を書く。 お次に箒とちりとりを手に床を掃除し始めた。
……家政婦さんですか? いやここは学校だから、学校政婦さん? もしかしてあの子、毎日こんなことやってるの?
「よし! 終わった!」
そういう三井の顔は何処か満足気で、思わず笑ってしまった。 なんかイメージと違う、すげぇ子供っぽくて、なんか……… 可愛いじゃん。
「三井さん、終わった?」
俺はタイミングを逃す前に教室へと足を踏み入れた。 瞬間、三井は驚いた顔して引き下がる。
「え…… あ、安藤くん? …… あ、あの! こ、これはその……」
「いや、大丈夫。 すっごいびっくりしたけどね。 三井さん、本当真面目なんだね」
そう言うと三井さんは恥ずかしそうに俯いた。 おいおい、本当に…… 普通の女の子だな。
「き、気持ち悪い、ですかね。 こんなこと毎日してるのは」
「いや、全然! むしろ凄いと思うよ!」
「…….その。私って、見ての通りあんまり人と話すの得意じゃ、ないから。 でも! クラスの皆と仲良くするためにはどうしたらいいかなって考えて……」
これが三井さんなりのクラスへの溶け込み方ってこと? ほんと、健気と言うかなんと言うか。 良い子だな、この子は。
「……よし! じゃ今日は俺も手伝うよ! あとなにが残ってるの?」
「え! だ、大丈夫です! わ、私が勝手にやってることだし……」
「大丈夫。 俺も勝手に手伝うだけだから!」
てか、女の子に掃除させといて俺だけグータラするのは人間的にアウトだし。
「…… ありがとう、安藤くん」
そう言って嬉しそうに笑った。 …… やべぇな、色々やべぇな。 なんか、色々感情的なもんがヤベェな。 でも別に三井さん可愛くないわけじゃないよな、よく見ると。 まぁ三つ編みおさげがあれだけど、顔は全然…… むしろ可愛いーー
邪念を振り払うために俺は両手で頬を叩いた。
「よし! あとなにすればいい⁉︎」
「えっと、窓を拭くので……」
「窓ね、じゃあ俺バケツに水を汲んでこようかな! そうしようかな!」
俺は逃げるようにバケツ片手に教室を飛び出した。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。 安藤 誠 17歳。 とりあえず落ち着け。 なんかポワンとしてるぞ! ギャップにヤられてるぞ! いやね、あれじゃん? ほら、軽い男みたいじゃん。 ほんの少し知らない部分見ただけで意識しちゃうとかさ、ちょろい男みたいじゃん?
断じて違うぞ、俺。 これはあれだ、三井さんを尊敬してのポワンだ。 決してやましい気持ちとかそんなんじゃない! そう自分に言い聞かせ、水を明らかに入れすぎたバケツを手に教室へと戻った。
「ごめん、遅くなっ……… 」
そこまで行って、俺は言葉を失った。
綺麗な黒髪。 それを後ろに束ねた少女。 こちらを見るその顔に、自然と顔が熱くなる。
「ありがとう、安藤くん」
「え、あ、うん。 その……… 三井さん、かな?」
俺の問いかけに不思議そうな顔をする少女、いや美少女。 く、クッソ可愛い。 やばい、やばい、やばい。
静かな教室に二人きり、しかも隣に美少女。 美少女と二人で窓拭きなんて人生でこれ一回だけだろ! やばい、ほんとやばい。 顔見れないし! な、なんか会話を………
§§§§
なんだか安藤くん、黙ってしまったな。 私、何かしちゃったかな? あ、もしかして手伝うの本当は面倒だったかな。 あー、そうだったら申し訳ないなぁ。 安藤くん、先生にはよく怒られてるけど…… いい人なのは間違いないんだけどなぁ。
それより…… 聞いてみても、いいかな? いやでも早すぎるよね。 ちゃんと話すの今日が初めてだし。 でもこんな風に気さくに話しかけてくれたし…… 思い切って、お願いしてもいいかな? こういうことしたことないからな…… 自信ないけど。 安藤くんなら、嬉しいんだけどな。
「あの……」
一旦言葉を止めて、思い切って聞いてみた。
「と、友達になってくれませんか⁉︎」
「好きな人とかいますか‼︎」
……重なった声は静かな教室に響く。 お互い顔を赤くして。
用意していなかった、次の言葉を必死に探す。




