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恋≠1  作者:
4/10

不器用×器用







なんでも出来るよね。 その言葉が私の胸にチクチク刺さる。 シャーペンを腕に軽く刺したみたいな。 そんな大袈裟な反応をするほど痛くはない。 でも確かに、痛みは感じてしまう。


器用じゃないんだ私は。 みんなが思っているほど。 美化しすぎなんだ、私は至って普通の女の子だよ? そう言えないのは私が臆病だから。 本当の私が受け入れられなかったらと考えると、やっぱり今のままでいいと思ってしまうんだ。 演じることは辛くて嫌だけど、孤独になるのはもっと辛くて、嫌だから………








「せーいとかいちょー」

「……なに、高橋くん?」

「学祭のぉ。 あれだよ、あれ。 暗幕! 申請するやつくれない?」

「ああ。 申請用紙ね。 分かった、後でクラスに持っていく。 ……ところで」

「ん? どしたのー?」

「君はなんで、窓の外から話しかけてるの?」




ここは一階。 窓の外から話しかけられても、空に浮かんでるなんて超常現象とは思わない。 なぜ、高橋くんが外にいるのか、私はそれが気になった。



「へへー! サボりだよー」



子供のように笑うんだね。 サボりっていけないことなんだけど。まぁ彼の場合は…… 後先をしっかり考えてのサボりなんだろうけど。


「学園祭の準備、しっかりしてくださいね」

「ほーい! 会長も、あんまり無理しないよーにねぇ」



笑顔で手を振る彼を背に、私は廊下を歩きだす。


高橋くんは、俗に言う天才肌。 学業という部分ではおそらく校内トップだと思う。 ただ、学校生活という部分では赤点ギリギリくん。 最初は適当な人だと思ったけど、最近出席日数とかを全て把握しながら行動してることを知った。つまり、やりたいように出来る人なんだ。 私みたいに、精一杯頑張らなくても。 羨ましいと、素直に思える。 不意に出たため息には、少しの嫉妬が混ざっていた。







(あ、申請用紙渡しにいかないと)


生徒会の仕事ですっかり忘れていた。 時計を見ればもう一時間ほど経過してる。 私は慌てて用紙を手に教室へと向かった。





「早見さんて、押しに弱いよねぇ?」


今まさに、教室に入ろうとした瞬間。 聞こえたのは私の名前。 聞こえたのは…… あまりいい言葉ではない。


「分かる! 面倒なこととかすぐ頼んじゃう! あの子、NOと言えない日本人代表だよねぇ!」

「まぁわざわざ生徒会長なんて面倒なのに立候補してるくらいだからね。 人の役に立つの最高! とか思ってるんじゃない?」

「まぁ、やっぱさぁ………」







ナンデモデキルヒトハ、イイヨネェ








「かいちょう?」


肩を叩かれ振り向く。 不思議そうな顔した高橋くんが、こちらを見てる。 今は誰とも話せる状態じゃない。 痛い、痛いよ。 でも…… 弱音は吐けないんだ。 周りの評価は、私が作り出したものだ。 自業自得なんだ。泣くのなんて、おかしいんだ。



「これ、 申請用紙」

「んお、ありがと」

「じゃ、私まだ仕事あるから」


そう言って、私は逃げるようにその場から離れた。











他の生徒会の人、誰もいなくて良かった。 あー、涙止まらないや。 覚悟はしてたつもり。どこかで絶対に、陰口は言われているだろうなって。 覚悟はしてた、のになぁ…… やっぱり聞いちゃうと、キツイなぁ。


押しに弱い、NOと言えない、人の役に立ちたがる…… なんでも出来る人、か。 押しに弱いしNOとも言えない、人の役に立ちたいとは思うから、当たってるけど。



「なんでもなんて、出来ないんだけどなぁ」

「かーいちょー」



外から聞こえた声に慌てて振り向いた。 あ、やばい。 目、真っ赤かも。


「……あー。お取り込み中、でしたか」

「……いえ。 大丈夫ですから」


泣いてたの、バレたよね。誰も来ないだろうと大泣きしたからな、きっとひどい顔だ。


「ほい、申請用紙」

「……ああ。 はい、確かに受け取りました」

「かいちょー」

「はい?」

「外、出ない?」

「……高橋くんは、外が好きなんですか?」


そう言うと、大きく頭を縦に振った。 あれかな、じっとしてられない人なのかな。なんか…… 似合ってる? いや、イメージ通りって言えばいいのかな。 やりたいと思ったことが全部できちゃいそうだもんな。 本当に…… 羨ましくて、嫉妬する。




「高橋くん。 窓は出入り口じゃないからね?」

「まーた教師みたいなこと言って」

「私、これでも生徒会長なんだけれど」

「ほんとかいちょー真面目だね? ……疲れないの?」



……疲れるよ。 いつだって精一杯なんだから。 気づいてよ、私だって余裕ないんだ、なんでも出来るわけじゃないんだ。 出来ないことを、頑張ってやってるんだ。 皆に認めてほしいから…… なのに…… なんで誰も分かってくれないの。



「……ありゃ? なんでまた泣いてんの」

「……悪いですか。 私だって普通の女の子です。 悲しければ泣きますよ」

「へぇ。 ……早見さんて泣くんだね?」



なにを珍しそうな顔してるんですか。 最悪だ、こんな姿誰にも見られたくなかったのに。 ……高橋くんだったのは、ある意味良かったのかもしれないけど。 口は意外と固そうだし。






「まぁ、早見さんのレアショット見れて満足。 じゃ俺行くわ」

「……レアショットって。 それに高橋くん、いつも私のこと会長って呼んでるのに。 なんで急に……」


「へ? だって自分で言ったじゃん、私は女の子だって。 いやぁ、会長いつも冷めてるからさぁ、機械かなにかなのかと」

「……すごく失礼だね」


バカにされたのは分かったけれど。 なんだか、泣いてる私を励まそうとしてるみたいで。 少しだけ、笑えた。




そういう顔は反則だなぁ………





「なにか言いました?」

「いや、独り言。 てか、早見さん言葉固すぎ。 もっとフレンドリーに出来ないの?」



フレンドリー? うーん、仲のいい友達とかにもそういうのあまりしないのだけれど。 親しき中にも礼儀あり、と言いますし。 どんな感じなんだろう………


少し考えて、手を軽く振りながら一言。




「じ、じゃあね?」

「なんで疑問系。 ……先は長そうだなぁ。 まぁいいや。 んじゃ。 またねぇ、はやみん」


そう言って、高橋くんは走り去って行った。










離れる背中を黙って見つめる。 はやみん。 あだ名なんて初めて付けられた。 なんだか、恥ずかしいな。 心臓もドキドキする。 でも、いつもの小さな痛みよりは心地いい。





高橋くん。 同じクラスの男の子。 なんでも出来る、器用な人。





不器用な私を、励ましてくれた人。






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