大音量×耳栓
「そんでね! スマホどこやったけな〜ってなって、友達に言ってみたらさぁ。 あんた今私と電話してんじゃん、だって‼︎ いやぁ、早くもボケが進行してるわぁ‼︎」
うるさくて、賢そうではない。 どんなことを話してもそれは個人の自由だが、少しは周りのことを考えてほしいものだ。 それが古賀さんへの第一印象。 うるさくて、明るい人。
「っと! わりぃ松川」
「…………」
クラスの人と軽くぶつかった。 相手の不注意、僕が悪いわけではない。
「……あいつって暗いよなぁ」
「だよな。 感じわりぃ……… あれじゃね? クールな自分かっこいい〜みたいな?」
……そういうことは、聞こえないところで言ってくれよな。 僕だってそっけないとは思ってる。 相手に不快な思いをさせてるって自覚はある。 でも別にいいだろ、だって君たちは僕に興味はないでしょ? 興味ない人にどんな態度をとられようと、関係ないだろ………
自分のこと、嫌いではある。でも変われないのが現実。 僕だって思ったことを言いたい。自分の意見を口にしたい。 でもそういう風に生きてこなかったから。 僕にとって口は飾り、思ったことは心の中で唱えるだけだ。
両耳に流れてくるのは、大好きなバンドの曲。 音楽は良い、心地の良いメロディと深い歌詞が癒してくれるから。 だから少し憧れてしまう。僕もこうやって、自分の言葉を誰かに届けられたら……… なんて。
「まーつかーわくーん‼︎」
遮る大音量、心地良い環境を壊したノイズはなぜか笑顔だ。 僕は不機嫌なことを隠すことなくイヤホンを外した。
「……なんですか」
「へ? いや、松川くん帰る気配なかったからさ! だいじょぶかなって! ちゃんと生きてるかなって! 確認だよ確認‼︎」
「…………」
そんなことで……… 随分ありがた迷惑な話だね。 暇なの? 僕みたいなやつにわざわざ声かけるなんてさ、君にとっての優しさとかなのかもしれないけど。 正直迷惑でしかないんだよ。
………なんて。 言ってもしょうがないよな。
「……ありがとう」
僕は古賀さんにそう言って立ち上がる。 心の中の文句は飲み込んで、僕はさっさと教室を出た。
§§§
「…………」
流れ込んでくる音楽が、なんだかしっくりこない。 理由はなんとなく分かる、僕がイライラしているからだ。 何度か経験してる、要するに溜め込みすぎてるんだ。 今、僕の心はぎゅうぎゅう詰めになってるんだ。 でもしょうがない、僕は吐き出すのが上手くないんだから。だからこういう心境は時間に任せてる。 時間が経てば、そのうち忘れるから。
「とう!」
声が聞こえた、気がした。 でもそんなことよりも、よろめいて倒れそうになる体を支えるので精一杯だった。
蹴られた、背中を。 なぜ? 理由なんて…… 蹴った本人しか分からない。 僕が振り向くと、彼女が変なポーズをとって笑っている。
「どう⁉︎ 私運動には自信あるんだよね! 特撮ヒーローとかいけそうじゃない⁉︎」
……… なんなんだ、この人は。 普通、知ってる人だからと言って飛び蹴りする? ましてや仲良くもない、友達でもない。 ただのクラスメート。 ハッキリ言って常識を疑う。
「………古賀さん。 流石に場所、考えようよ」
「ねぇ! 怒った? イライラした⁉︎」
なんなんだこの人は。いきなり現れて自分勝手にあれこれやって。 怒るに決まってる、イライラするに決まってる。 でも………
「……別に。 でも、流石に人は選びなよ。 僕だったから良かったけど。 他の人だったら喧嘩になるよ」
「ねぇねぇ!」
「………なんですか」
「松川くんてさ、優しいよね!」
突然なにを言いだすかと思えば。 優しい? 僕が? それなら君はどうなるんだ。 いつも友達を盛り上げて、クラスも明るい雰囲気にして。 正反対だろ、僕なんかとは。 君みたいなのを優しいと言うんだよ。
「普通さ、いきなり蹴られたら怒るって! なのに許しちゃうなんて……… 他人のこと考えてる証拠だよ!」
「…………」
許したわけではないんだけど。 ただ言っても無駄だと諦めてるだけ。 どう生きようがその人の勝手だ。 だから僕も、こういう風に生きてるだけだよ。
「……優しさとかじゃないよ。 僕は古賀さんみたいに、話すのが得意じゃないんだ」
「………なるほどぉ。 松川くんは他人に優しく自分に厳しく! なんだね!」
「…………いや、そういうわけじゃ」
「私はね! 自分も好きで友達も好きなの! だから、自分ってこんな人間なんだー! って叫ぶの! それを否定されたらヘコむけど…… 受け入れられるとね! その人のこと、すっっごい大事に思えるんだ!」
…… 自分を隠すとかそういうの、知らないんだろうな。 僕が吐き出すことを知らないように、古賀さんは溜め込むってことを知らないんだと思う。
「……古賀さんは、綺麗だね」
「へ⁉︎ ど、どうしたの急に」
「……… いや。 僕は自己主張苦手だからさ。 すごいと思う」
「………苦手なだけで、出来ないわけじゃないよ」
「そうかな、そうだといいけど」
「うん! 松川くん、よく音楽聞いてるよね? 音楽と一緒だよ! 小さい音じゃ聞こえないかもしれないけどさ、音はしっかりと鳴ってるんだから! あとはボリューム上げればいんだよ!」
………分かりやすいような、分かりにくいような。 まぁ、古賀さんらしいって感じるけれど。 そう思うと、自然と笑えてきた。
「………ふふ。 女の子が、飛び蹴りって」
「あ、あれは! その、インパクトが大事かなって!」
「ははっ。 確かに衝撃は大きかったよ」
「むぅ。 あ、私電車だからこの辺で! また明日ね〜」
そうやって走り出そうとする君の腕を僕は掴んだ。
「ん? どうしたの?」
「………その、良かったら、さ。」
「はい!なんでしょーか!」
「…………明日も普通に、話しかけて、いいかな」
古賀さんに貰った、少しの勇気。少しだけ、出してみた。




