グー×パー
喧嘩するようになったのはいつ頃からだったかな? 覚えてないけど、自分の手がこんなにも傷ついてんだから随分前からなんだろな。
頭は良くねぇ分、身体は丈夫に出来てる。それだけは親に感謝。 まぁ現在進行形で親不孝中だけど。 そうだと分かっててもさ、仲間を助ける方法をこれしか知らねーんだ。 握った拳の数だけ、殴った分だけ。 俺は俺の役割を見つけられんだ。
「また怪我してる」
「うっせぇ。 こんなんどうってことねぇよ」
「ふーん……」
「てか。 お前なんでここにいんの?」
「学級委員だから。 サボり常習犯を説得しなきゃいけないの」
ご苦労様だな。 俺のことなんかほっといてもいいのに。 別に俺が留年しようが退学しようが関係ないだろ。 むしろお荷物が減ってみんな平和に学校生活を楽しめんだろ。
「本城くんはさ、喧嘩好きなの?」
「はぁ? 好きでこんな痛いことすっかよ。俺は変態か」
「じゃあなんで痛いのに喧嘩するの?」
「なんでって…………」
本城は頼りになるよな! 俺らこれからもダチだよな!
「………仲間のため」
「そうなんだ。 君はバカなんだね」
「なっ! お前、バカって言う方がーー」
「君の手が可哀想。 そんな風に扱われて」
そう言って、俺の手を見つめる。 眼鏡をかけた、いかにも頭が良さそうなやつ。 優等生ってやつだ。 俺みたいな劣等生とは比べものにならないくらい真面目なんでしょうね。
「と、とにかくな! 俺は寝る、邪魔すんな‼︎」
「そう。 じゃあ先生には欠席と伝える。 お休みなさい」
そう言って、そいつは立ち上がる。 なんか、調子狂うやつだな。 やっぱり頭良いやつはどっか変なのか?
「橘」
「なんか言ったか?」
「お前じゃない。 私は橘って言うの。 覚えてくれると嬉しいんだけど」
「あー、橘ね。 はいはい、じゃーねー橘学級委員」
返事の代わりに、ゆっくりと扉が閉まる音がした。 ………ったく。 なんだあいつ、変人だ変人。 なーにが喧嘩好きなの? だよ。なにが手が可哀想だよ。
何気なく見つめた自分の手。 所々傷ついてて、デコボコしてる。 それを見ながら、なんか舌打ちしてしまった。
「しょうがねぇだろ、これしか方法を知らねぇんだから」
握りしめた拳。 これだけが、俺が知ってる人との繋がり方なんだ。
§§§§§
「本城〜、帰りどっか行こーぜぇ」
「いいけどあんま金がねぇな」
他愛もない会話、それが俺には嬉しい。 必要とされてる感じがする。 孤独じゃないと思える。 どうだ学級委員、ここにいれるのは俺のこの手のおかげなんだよ。 自分の力だけで今の環境を作り上げたんだよ。
「ねぇねぇ、そこのお二人〜」
「あ?」
「僕たちさ、お金ないんだ。だからぁ、ちょっと恵んでくんない?」
………いまどきカツアゲですか。 なんか古臭いな。 ……3人かぁ、まぁ最悪喧嘩になっても………… 大丈夫かな?
「お、おい本城」
「だいじょぶ。 ……… いやぁ、すいません。 俺ら財布持ってなくて!」
「はぁ? なにしょうもない嘘ついてんの? いいから出せって、な?」
めんどくさいなぁ。 ……悪いな学級委員。 この手はまた可哀想になってしまう。 でもこれはあれだ、一種の正当防衛だ。 だからーー
俺がやってることは、正しいんだ。
§§§§§
「ったく。 あんま金持ってねぇし! おー、痛え!」
……あれ? なんでこんな状態なんだ? なんで俺が見下されてんだ? 身体もなんか…… 上手く起き上がれねぇや。
「まぁあれだ。 今度から調子に乗らないようにね? 少ないけどお金、サンキュー!」
そう言って笑いながらどこかへ行ってしまった。 ……訳わかんない、誰か説明プリーズ。俺は負けたの? あいつらに? てかさ、なんで………
俺は今、一人なんだ?
「まったく。 本当に問題児ですね」
上から聞こえた声。 どこかで聞いたことのある声。 ゆっくりと見上げて、ガッカリした。
「お前、かよ」
「ええ。 残念なことにお友達ではありません。 でも彼を恨んだりしないでください。 あなたが一人で平気と言ったのにも責任はありますし。 ちょうどあなたのお友達がオロオロしているのを、たまたま私が見つけただけですから」
「………なんだ、それ」
ああ、俺が言ったんだっけ。 一人で平気って言って、あいつを逃がしたんだっけ。 そうか、別に見捨てられたとかじゃないんだ。
「良かった………」
「全然良くはありません」
「あ? 良かっただろ、俺がちょっと怪我して、ちょっと金を取られただけだ」
「……自己犠牲で掴んだ関係を、友情と呼ぶべきではないと思います」
「は? お前、ほんといちいち難しいのな」
「あなたがやっていることは。他人を傷つけると同時に、近くにいる大切なものまで傷つけている」
「なんでだよ、仲間は無傷で金も取られなかったし……」
「本城くんを見捨てて、自分は助かった。 それで喜ぶ人ですか、あのお友達は」
そんなの…… 分かんねえ。 あいつのことなんて正直あんまり知らないし。 てか、そもそも……
「多分、俺のことを友達だと思ってるやつ、いねぇよ」
「それはなんで?」
「……ようするに。 ボディーガードみたいな? 実際俺、さっきのやつの連絡先知らねぇし」
そう、そうなんだ。 結局悪い噂聞きつけて、俺といれば安全とか思われてんだよ。 でもそれを責めるつもりはない。 だって俺も、孤独を避けるためにそいつらを利用してんだからさ。
「そうですか。 ……本城くん、手を出してください」
「は? ……こうか?」
そうですかって。 俺、何気に重い話しちゃったけど、シカトですか? やっぱり頭良いやつの考え方は分からね。 とりあえず、言われるまま左手を前に出す。
「………はい。 本城くんはグー。私はパーです。 つまり私の勝ちですね」
「なにが?」
「なにがって、ジャンケンですよ。 本城くんは負けたので、私の友達になってください」
「……意味分かんねえ」
「はい。だから…… 私と友達になれば分かると思いますよ?」
そう言って、俺の拳に小さな掌が重なった。
「握るんじゃなくて、手を広げて分かるものもあるって」
そう言って、笑いやがった。 こいつ…… 橘の手は小さくて、か弱そうな手だ。 それでもなぜか安心すんのは、なんでなのか分からない。
「〜〜‼︎ か、帰る!」
「怪我の手当て、まだですけど」
「う、うるさい! とにかく、帰るから!」
そのまま俺は逃げるように走り出した。
握ったままの左手。 もう慣れてしまっていたはずなのに。 橘の手に触れて少しだけ……… 握る力が緩んだ気がした。




