01 小説
「華胡、決めた?」
とある牛丼屋。
大学一年生の安藤 華胡は五つ年上の早間 竜樹と付き合っていた。
「うん。」
華胡がそう言うと、竜樹は呼び出しボタンを押した。
ピンポン、ピンポン
間抜けな音が鳴った直後、店員が二人の元へ駆け寄っていた。
二人は注文を済ませた。
「あ、でさ――」
竜樹は口を開くと牛丼屋に来る間、華胡に話していた小説の話を活き活きと話し出した。
内容はこうである。
ファンタジー、主人公のカンは仲間と共に未来や過去を自由に行き来し、訪れる難から未来を救う――――。
「カンがさ、過去に行ってソーサーの命を救うんだよ。」
「じゃあ、もしソーサーを助けられなかったら?」
「え?」
華胡は竜樹の話を聞いているうちにぼんやりと何か考えていた。
「もしそこでソーサーが死んだらどうなるの?」
身を軽く乗り出した、華胡。
「お待たせいたしました。こちら牛丼、大盛になります――」
「あ、はい。」
と、そのタイミングで運ばれてきた牛丼。
手を挙げる竜樹。
背もたれにグッともたれた華胡。
「では失礼します。」
二人分の牛丼を置き、店員が去ると、竜樹は口を開いた。
「そりゃ未来が変わるんじゃない? カンは未来でソーサーに命を救われてるから……ソーサーを助けることが出来なかったら主人公は死んじゃうし。」
それから竜樹はこう続けた。
「この話の番外編にさ、カンが本当にそういう世界に入り込んでしまう話があるんだよ。」
「そういう世界って?」
キムチ牛丼を食べていた華胡はくっと顔を上げ、話に食いついてきた。
「カンが、小説に出てくる人物と出会わない世界。」
「え、どういうこと?」
竜樹は食べることを忘れ、話した。
「カンとソーサーが出会ったのは道の裏通りなんだよ。そこで酔っ払って殴られたカンをソーサーが助けたんだ――」
「うん。」
「――その時ソーサーがカンに気がつかなかったとして話が進むんだよ。」
「二人が出会わなかったら……なんかパラレルワールドみたいな……。」
「そんな感じ。」
自分から話しだした竜樹だが食事があるのに一向に箸を進められず、やっとかと大口を開けて牛肉と白米を頬張った。
「パラレルワールド……」
華胡は小さくそう呟き、一息つくと自分も箸を進めた。
それは、始まりの合図だった。
果てしない未来への扉が、少しずつ開いていく、その瞬間――――。




