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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第137話 雪解けの決着

『クソッ……たれ……』


 ロッキーを背中から叩きつけたレッドもまた、そのまま力尽きて倒れてしまった。体力が限界を迎えたのだ。


 相打ちか――アリスも観客もそう思っていた。だが次の瞬間、ロッキーがよろりと起き上がる。


 どうやら背中から生えていた無数の結晶がクッション代わりとなり、衝撃をやわらげていたようだ。


 その代わり、結晶そのものは衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散っていた。


「ダ……ダウーン! 限界突破の紅白クマ対決は、雪群選手が制したーッ! これで残りのパートナーは互いに一体! 勝負のゆくえは、いよいよわからなくなってまいりましたーッ!」


 お約束のニーナの実況。そして、それに応えるような大歓声。


 そんな耳をつんざく喧騒の中、レッドは体育館の天井を見上げながら、悔しさを噛みしめていた。


 負けたことはもちろんだ。だが、それ以上に、意地を張って緋羽莉のトレーニング指導を拒んでしまったことを後悔していた。


 ブルーやミルフィーヌはもちろん、グリンにいたるまで、裏山で自分と戦ったときとは比べものにならないほど動きがよくなっていた。もし自分も同じように鍛えられていれば、きっと結果はちがっていたはずだ。


 人間を少しは信用してみようと決め、アリスのパートナーになった。なのに結局、最後まで信じ切れなかった。


 その中途半端な心こそが、敗北を招いたのだ――そう思うと、どうしようもなく自分を責めたくなる。


 そんな彼の胸の内を見透かしたように、アリスは静かに言った。


「おつかれさま、レッド。でも、これで終わりじゃない。次は勝とう」


 そこに責める気持ちは、みじんもなかった。ただ純粋に、パートナーをねぎらう言葉。


 そして同時に、自分自身への悔しさもにじんでいるように感じられた。


 レッドは胸に芽生えた感情に答えを出せないまま……ゆっくりと目を閉じ、光の粒子へと還っていった。


「強いクマさんだったね。万全な状態だったら、こっちがやられてたよ」


 積人はおだやかな苦笑いを浮かべる。少し上ずった声が、決してお世辞ではないことを物語っていた。


 アリスはレッドを戻した右手のウォッチを見つめながら、しばらく考え込む。


 たしかに緋羽莉からも、レッドがトレーニングを拒否していた話は聞いていた。


 まだレッドが人間を完全には信頼できていなかったとはいえ、その関係を築ききれていないまま、気心の知れた親友とはいえ他人に鍛錬を任せてしまったのは、自分の落ち度だった。


 みんながみんな、ブルーやモモのように最初から友好的なワンダーばかりではない。


 大会が終わったら、もっとじっくりレッドと向き合おう。ちゃんと話をして、互いを理解し合おう。


 アリスは、そう心に誓うのだった。


「……さあモモ、あなたの出番だよ。お願いね!」


 アリスは気持ちを切り替え、最後のパートナー――【モモイロハネウサギ】のモモを呼び出した。


 ちまっとした愛らしいピンク色の体が、ふわりとセンターサークルへ舞い降りる。


「なんとーっ! アリス選手のアンカーは、大きなクマからうってかわって、ちっこいハネウサギだーっ! サイズ差は歴然! 果たして、どう戦うつもりなのでしょうかーッ!」


 互いに最後のパートナー同士による決戦。実況も観客も、興奮は最高潮に達していた。


 ……しかし、幻の存在ともいわれる【モモイロハネウサギ】を目の前にしているにもかかわらず、それに対する驚きの声はふしぎなほど少ない。


 それもそのはず。モモは緋羽莉とのトレーニングによって、新たな特性〈認識妨害〉を身につけていたからだ。


 この特性は、全身から相手の五感へさりげなく干渉し、自分の存在感を希薄にするというもの。


 つまり、堂々と道を歩いていても必要以上に注目されなくなる、目立ちたくない者なら誰もが欲しがる能力だった。


 効果を弱めた隠ぺい系の技を常に発動しているような状態であり、習得には高度なエナコントロールが必要となる。緋羽莉だけでなく、ワンダーの生態に詳しい閃芽の協力もあって、モモはこのチカラを会得することができたのだ。


 これで、モモがよこしまな心を持つ者に狙われる危険は大きく減った。


 ……そしてもちろん、彼女が身につけた力は、それだけではなかった。


「《ハイドアウト》!」


『キュー!』


 モモがくりっとした赤いひとみをつり上げ、小さな両手をばっとひろげる。


 次の瞬間、その姿は空気に溶けるように、ふっと消え去った。


「き……消えたーッ! これは敗者復活戦でも見せた、ハネウサギの隠ぺい能力だーッ!」


 アリス以外の全員が、いっせいに驚きの表情を見せる。


「ロッキー、気をつけて」


 積人の指示に、ロッキーは低くうなった。


 積人とロッキーは、きょろきょろとコート中へ視線を走らせ、モモの奇襲に備える。もちろん、天井付近や上空の確認も欠かさない。


 さらにロッキーは、全身から噴き出す冷気をいっそう強めた。


 レッドとの激闘によって、こちらもすでに体力は限界寸前だ。先ほどのようにコート全体を銀世界へ変えるほどの冷気は、もう放てない。せめて近づけば気づけるよう、周囲の温度を下げて対抗するしかなかった。


 観客席のざわめきすら消え、体育館が張りつめた静寂に包まれる。


 ――十数秒後。


 ズドッ!


『ガァッ……!?』


 肉をえぐるような鋭い打撃音が響き、ロッキーが苦しげにうめいて腹ばいに倒れ込んだ。


 その頭上では、モモがくるくると宙返りをしている。


 そして――


 すとんっ!


 まるで新体操の選手のように、モモはセンターサークルへ華麗に着地を決めた。


「え……?」


 誰もが、あっけに取られていた。


 いったい何が起こったのか。観客はもちろん、実況席ですら理解が追いついていない。


 そのまま数秒間、今日何度目かもわからない、痛いほどの沈黙が体育館を支配した。


「……ダ、ダ、ダウーン! ダウン、ダウン! いったいなにが起こったのか……ワタクシ正直、理解できておりませんが……! 目の前の結果こそが事実、真実、現実! 準決勝第二試合、勝者は――アリス・ハートランド選手だーッ!」


 ニーナの勝ち名乗りが、体育館いっぱいに響き渡る。


 次の瞬間、せきを切ったような大歓声が巻き起こった。


「よっし! 決まったね、モモ!」


『キュー!』


 アリスは飛び込んできたモモと、笑顔でハイタッチを交わす。


 けれどモモとしては、ブルーにも自分の雄姿を見てもらいたかった気持ちがあったのだろう。どこか物足りなさそうに耳をぴこんと揺らした。


 そんなようすに、アリスはくすりと笑う。


「だいじょうぶ。バトルの内容は録画してあるし、これからもブルーに活躍を見てもらう機会は、いっぱいあるよ」


『キュッ!』


 気持ちを見透かされたモモは、うれしそうに鳴いた。


 アリスはそんなモモをぎゅっと抱きしめる。するとモモも安心したように、満開の笑顔を浮かべた。


「おつかれ、ロッキー。よくやってくれたね」


 敗北してもなお、積人はいつものように穏やかな笑みを浮かべたまま、ねぎらいの言葉とともにロッキーをウォッチへ戻す。


 そして、そのまますたすたとコートを横切り、反対側にいるアリスのもとへ歩み寄った。


「負けたよ、ハートランドさん。君は本当にすごい子だ」


 積人は苦笑しながら、水色の毛糸の手袋を外し、アリスへ握手を求める。


 アリスもモモを抱きかかえたまま、ふっとやわらかくほほえみ、それに応じた。


「ありがとう。わたしのほうこそ、いいバトルだったわ。でも、ファミリーネームだと長いでしょ? アリスって呼んでいいよ」


「なら、そうするよ。アリスさん。またいつか――こんな舞台じゃなくてもいい。どこかでバトルしよう」


「ええ! 次もわたしたちが勝つけどね!」


 さわやかな笑みを残し、積人はコートをあとにする。


 その背を見送ったあと、アリスはすっと表情を引きしめた。


 二階席……そこには、決勝戦の相手――剣城玲那が立っている。


 玲那は冷たいひとみで、こちらを静かに見下ろしていた。


 アリスもまた、その視線をまっすぐ見返す。


 ――20分の休憩時間を経て……いよいよ、最後の戦いがはじまる。

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