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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第136話 絶対零気をやぶれ!

 コートの上では、二体のクマがにらみ合っていた。


 炎の【バーニングリズリー】と、氷の【アイスバーグポーラー】。


アリス(コイツ)についてきたのも、まちがいじゃなかったみてえな……引きこもってちゃ、こんなおもしれえこと、楽しめなかった!』


 レッドはニヤリと悪い笑みを浮かべ、ロッキーをギラリと見すえた。


『グルル……』


 いっぽうのロッキーは人の言葉こそ話せないものの、その目にははっきりとした闘志が宿っている。低くうなる声とともに、レッドをにらみ返していた。


 先ほどを上回る熱気と冷気が、コートの中心でぶつかり合う。


 しばしの沈黙。選手も、実況も、観客も――誰もが息を飲む。


 そして、数秒後――


「《火炎放射》!」


 アリスの指示と同時に、レッドが文字通り“口火”を切った。


 灼熱の炎が一直線に伸び、ロッキーへと襲いかかる。


「《フリーズブレス》」


 積人の穏やかな声に応じ、ロッキーも口から冷気を吐き出した。


 青白く輝く息吹が炎を受け止め、空中で激しくぶつかり合う。


 相反するエネルギーがスパークし、火花のように弾けた。


 ――どうやら、パワーは互角のようだ。


「よし、ぶちかましてやるんだ」


 意外にも、先に動いたのは積人だった。


 ロッキーは四足歩行の姿勢をとり、ドシン、ドシンと重い足音を響かせながら、レッドへと突進する。


「迎え撃って!」


『言われるまでもねえ!』


 レッドも同じく低い体勢になり、二体はコート中央で激突した。


 鈍い衝撃音。そのまま起き上がり、がっぷり四つの体勢へと移る。


 まるでクマ同士の相撲――なかなか見られる光景ではない。


「のこった! のこった!」


 ニーナの実況も、すっかりそのノリに変わっていた。センターサークルが、まるで土俵のように見えてくる。


『オラァ! どしたどしたァ!』


 体格もほぼ互角。しかし属性の相性、そして純粋なパワーの差で、徐々にレッドが押し始めていた。


 このまま押し切る――


 センターサークルの外へロッキーを押し出そうとした、そのとき。


「甘いよ」


 積人が、冷たい声で言った。


 次の瞬間――押していたはずのレッドの動きが、じわじわと鈍くなっていく。


(なんだ……体に……力が……入らねえ……!)


 踏ん張りが利かない。筋肉が凍りつくような違和感。


 そして――逆にロッキーに体勢を崩され、大きく投げ返された。


 レッドの巨体が宙を舞い、センターサークルの外へと叩きつけられる。


「しょ、勝負ありーッ! ……と言いたいところですが、これは相撲でも柔道でもレスリングでもありませんッ! しかし、強烈な一本が決まったーッ!」


 ニーナの実況に、観客たちも我に返ったように大歓声をあげる。


 だが――なぜ、レッドは急に弱体化したのか。


 その理由を、アリスは理解していた。


(さっき……グリンも同じ目にあった……)


 ロッキーが放つ強烈な冷気。それによって、体の機能が著しく低下しているのだ。


 しかし――全身が熱のかたまりともいえる火の属性の【バーニングリズリー】が、これほどまでに影響を受けるものなのか?


 普通ではありえない。それを可能にするのは、自然現象では説明できない――特別なチカラ。


「特性か……」


 アリスは、ぽつりとつぶやいた。


 積人は答えを口にはしない。だが、その穏やかなほほえみが、すべてを物語っていた。


 ロッキーの持つ特性――〈絶対零気〉。


 それは、どんな特性や属性を持つワンダーであっても、その冷気を決して無効化させないという、恐るべき能力。


 つまり――ロッキーの冷気は、どんな熱にも打ち消されない。属性相性による有利すら、ほとんど意味をなさないのだ。


(……となると、接近戦は不利か……)


 アリスは、瞬時にそう結論づけた。


『……ってえな、この野郎!』


 レッドはよろりと立ち上がる。


 オレンジのモヒカンを金色に逆立て、全身から燃え上がる炎のオーラを噴き出した。


 ――特性〈怒髪天〉。体力が減るほどに力を増す、レッドの切り札だ。


 先ほどのダメージ、そして氷の大妖精ベルから受け蓄積したダメージ。それらが引き金となり、ついに発動した。


「もう近づいちゃダメよ! 《火炎放射》!」


『チッ……わーってるよっ!』


 舌打ちしながらも従い、レッドは再び炎を吐き出す。


 ロッキーも冷気のブレスで応戦。


 再び衝突する炎と氷。だが――今度はちがった。


 怒髪天で強化された炎は押し負けず、冷気を押し返し、その余波がロッキーの白い毛皮を焦がす。


「やっぱり……!」


 アリスの目が鋭く光る。


「こっちの熱気まで防げるわけじゃない!」


 〈絶対零気〉の盲点。それに気づいたアリスは、不敵に笑った。


 あの特性はあくまで、“冷気を無効化させない”ためのもの。炎による攻撃を防ぐわけではない。


 もしそうなら、最初と先ほどのブレスの衝突も、成立するはずがないのだから。


「じゃあ、こんなのはどうかな。《ダイヤミサイル》」


 積人が穏やかにほほえみながら言うと、ロッキーの頭上に六つの鋭い氷の結晶が形成された。


 次の瞬間、それらはレッドめがけて放射状に撃ち出される。


 六発の結晶は、それぞれ異なる角度から迫ってくる。一直線にしか放てない《火炎放射》では、すべてを迎撃することはできない。


「だったら、炎をまとって防いで……あっ! ダメだっ!」


 アリスが気づいたときには、すでに遅かった。


 六発の氷の結晶は、レッドの体を包む炎を突き破り、そのまま全弾が直撃したのだ。


 ドゴォッ、と鈍い衝撃が重なる。


 燃えさかる炎のオーラがわずかに弱まり、レッドの巨体がびくりと震える。寒気が、内部から侵食してくる。


 氷のかたまりですら炎を貫く――なんとも厄介な特性だ。


 防ぐには、炎と氷を正面からぶつけ、エネルギー同士の衝突に持ち込むしかないようだ。


『クソッ! これが“寒い”ってヤツか! ったく、はじめての経験だぜ!』


 炎をまとうクマ、レッドが悪態をつく。


 その言葉に、観客も仲間も心の中で「でしょうね」とツッコミを入れていた。


「山で引きこもってたら、味わえなかったことでしょ?」


 アリスが、少しいたずらっぽく言う。


『そりゃそうだが、こんなのはごめんこうむるっつーの!』


 レッドは不満げに唸った。


「じゃあ、攻めて攻めて――攻めまくるしかないよね?」


『へっ! そういうのは得意分野だぜ!』


 アリスとレッドは同時にニヤリと笑い――次の瞬間、間髪入れずに火炎を連射した。相手に反撃の間を与えない、徹底した攻めの姿勢だ。


「《アイスバーグフォート》」


 ロッキーは前方に、冷気で無数の氷山を瞬時に生み出した。氷の壁が幾重にも重なり、迫り来る炎を受け止める。


 火炎の熱によって氷山は次々と溶け、崩れ、消えていく。しかし、防壁としての役割は、十分に果たされていた。


 ロッキー本体は、依然として無傷。


「まだよ! 撃って撃って、撃ちまくっちゃえ!」


『おうよ!』


 それでもアリスとレッドは、攻撃の手を緩めない。


 火炎は連続して放たれ、コートを灼熱で満たしていく。


 一見すれば、ただの力任せの押し合いに見える。だが――積人と、一部の観客たちは理解していた。これこそが、もっとも有効な戦術であることを。


 レッドは、長らく裏山のボスとして君臨してきた存在だ。その腕っぷし、野生で培われた戦闘経験、そして何よりエナの総量。それらすべてにおいて、ロッキーを上回っている。


 いっぽうのロッキーは、確かに強力なチカラを持っている。だが、その強さはまだ発展途上――完全には練り上げられていない。その差は、先ほどの押し合いで、アリスがすでに見抜いていた。


 ――ならば、圧倒的な物量で押し切る。それこそが、〈絶対零気〉を打ち破る唯一の道。


 現に、戦況は動き始めていた。氷山の防壁は徐々に押し切られ、炎がロッキーの体に届き始める。


 白い毛皮が焦げ、背中に生えた結晶がじゅうじゅうと音を立てて溶けていく。


(このまま押し切れる……!)


 勝利が見えかけた、そのとき――


『グッ……!』


 レッドの動きが鈍った。


 体力の限界。雪の大妖精ベルとの戦い、そしてロッキーとの連戦。


 蓄積されたダメージと、激しいエナの消費。そのツケが、一気に押し寄せてきたのだ。


 体内のエナが、急速に枯渇していく。


「いまだよ」


 そのスキを見逃さず、積人が静かに告げる。


 ロッキーは四足で地を蹴り、一直線に突進した。


 もはやレッドに、火炎を放つ余力はない。正面から受け止めるしかなかった。


「うっ……!」


 コート際で激突。


 凄まじい衝撃波が発生し、アリスは思わず体をよじらせた。


 正面からのぶつかり合い。それは、〈絶対零気〉の影響をまともに受ける形になる。


 冷気が、レッドの体を内側から凍らせるように蝕み、パワーとスタミナを奪っていく。


 ――万事休す。もはや打つ手はない。そう思われた、そのとき。


「レッド! がんばってーっ!」


 アリスの声が、コートに響いた。


 全力の、心からの声援。その声が――レッドの心に、今まで感じたことのない熱を灯した。


(……なんだ、この感じは?)


 応援されるという経験。それは、レッドにとってはじめてのものだった。


 これまでウォッチの中で観戦していたときは、ただ騒がしいだけのものだと思っていた。


 だが、ちがった。


 アリスの想いが、まっすぐに伝わってくる。


 勝ってほしいという願い。自分の力を信じる気持ち。そして、見返りを求めない優しさ。


 それらすべてが、胸の奥を震わせる。


 ――熱い。


 体の奥から、何かが込み上げてくる。


 負けたくない。絶対に。


『シロクマ風情が……なめんじゃ……ねえぇぇぇーーーっ!!!』


 レッドは咆哮した。


 凍りつきかけた体に力を込め、二本足で踏みとどまる。


 そして――ロッキーの体をがっしりとつかみ、渾身の力で――背面から叩きつけた! 

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