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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第132話 ナゾの雪群くん

「ダ、ダウーン! なんと! なんと! なんとぉーッ! またもオール一撃KOーッ! 剣城玲那選手、校内大会はじまって以来の大記録! 準決勝まで圧倒的な強さで勝ち抜き、決勝進出だーッ!」


 興奮しきったニーナの実況と観客たちの歓声が、体育館じゅうに大きく響き渡る。床を震わせるほどの熱気が、会場全体を包みこんでいた。


 玲那は、なんと準決勝までの全試合をオール一撃KOで勝ち抜いてしまったのだ。児童も保護者も、そして招待されたVIPたちも、誰もがその圧倒的な強さに目を見張り、大きな拍手と歓声を送っている。


「かなりの逸材ですね、彼女は」


「ほっほっほ、そうだなあ。当時の君とタメを張るかもしれんぞ」


 ゲストとして招かれているチャンピオンと校長先生も、感心したようにうなずき合っていた。


「……か、勝てるのかな、あんなのに……」


 二階席で観戦していたりんごは、顔をひきつらせながら小さくつぶやく。思わず肩がすくみ、視線が泳いでしまう。


 ここまで圧倒的な力を見せつけられては、さすがのアリスも平常心ではいられないのでは――そう思い、りんごは左隣をちらりと見た。


 ……アリスは、震えていた。


 しかしそれは、けっして恐怖からくる震えではなかった。ひざの上に置かれた両手はぎゅっと強くにぎりしめられ、細く震えている。けれどその表情は、どこか狂気すら感じさせるほどの高揚と期待に満ちていた。


 りんごのほうが思わず息をのむほどの、異様な熱を帯びている。


「……楽しみだよ。この大記録をやぶって、この歓声も――わたしたちが、ひとりじめしちゃう瞬間がね!」


 ブロンドの前髪の奥で、青く燃えるそのひとみ。そこには一切の迷いはなく、絶対的な自信が宿っていた。



 ☆ ☆ ☆



「それでは、準決勝第二試合! 5年2組代表・アリス・ハートランド選手VS6年3組代表・雪群(ゆきむら)積人(せきと)選手のバトルをはじめます!」


 ついに、アリスの出番がやってきた。


 アリスは静かにコートへと歩み出る。床を踏みしめる足音が、やけに大きく感じられる。対戦相手と向かい合い、コートの両端に立つと、会場のざわめきがすっと遠のいたように感じられた。


「よろしくね」


 アリスは、にこりと笑って声をかける。


 今回の対戦相手――雪群積人。地魚のクラスメイトの男子だ。


 その名のとおり、雪のように白い髪。ひとみも淡く、どこかおとなしい印象を与える。もう春だというのに、白と水色の縞模様のマフラーを巻き、まっしろな毛糸のセーターを着ている。そんな厚着にもかかわらず、汗ひとつかいていないのが、なんともふしぎだった。


 これまでアリスは、彼の試合を観察していた。だが、どの試合も特筆すべき点は見当たらなかった。派手さもなく、圧倒的な強さも感じられない。


 二回戦で戦った地魚ほどの実力も感じられなかった――少なくとも、表面上は。


 しかし。あの地魚に指摘されたのだ。慢心と、対戦相手への観察不足を。


 ――だからこそ、もう見誤ったりしない。


「こちらこそ。……おたがい、全力をつくしましょう」


 アリスはそう言って、不敵にほほえむ。その笑みの奥には、鋭い警戒心がしっかりと宿っていた。


『カーン!』


 上空から、【コパロット】の鳴きまねが響き渡る。試合開始の宣言だ。


「グリン! お願い!」


『モリー!』


 アリスが最初に呼び出したのは、緑のアフロヘアーをした大型モグラ――【モリモール】のグリンだ。コートを軽くたたきながら、力強く鳴き声をあげる。


「たのんだよ、ヒーロー」


 対する積人は、ささやくような声でつぶやいた。その声音は小さいのに、ふしぎとコート全体に染みわたるような静かな強さを持っている。


 右手のウォッチが淡く光り、白い粒子がふわりと舞い上がる。それはまるで、雪が静かに降り積もるかのようだった。


 粒子はセンターサークルへと集まり――やがてひとつの形を成す。


 現れたのは、青いバケツをかぶり、赤いマントを羽織り、同色のグローブをつけた雪だるま――【ユキダルマン】。その名はヒーロー。


 姿がはっきりと現れた瞬間、観客席から「おおっ」とどよめきがひろがる。


 それもそのはずだ。ユキダルマンのヒーローは、これまでの試合では三体目に呼び出されていた切り札のはず。それを、いきなり先鋒として投入してきたのだ。


 会場の空気が、わずかに変わる。今回は、なにかちがう――そんな予感が、観客たちの胸にひろがっていく。


 もちろん、それはアリスも同じだった。


(やっぱり……いままでの試合は、本気じゃなかった!)


 胸の奥で、確信がはっきりと形になる。


「グリン!」


 アリスがバッと左手を振ると、グリンは勢いよくコートに穴を開け、そのまま地中へと潜った。


 前の試合で見た【アースマーメイド】のアーシアの戦い方――そこから着想を得た、地下からの不意打ちだ。


「そうきたか」


 積人はやわらかな表情のまま、ぽつりとつぶやく。地魚とクラスメイトである彼にとって、彼女をまねたその戦法には、どこか親しみとおもしろさを感じているのかもしれない。


「なら、こういうのはどうかな」


 次の瞬間、積人はパチンと指を打ち鳴らした。


 それに応えるように、ヒーローがぴょんと動く。まんまるな足もと(足はないのだが)から、白い冷気が一気にあふれ出した。


 冷気は波のようにひろがり――みるみるうちにコート全体を覆い尽くす。


 気づけば、床は一面、鏡のように輝く氷へと変わっていた。まるでスケートリンクだ。


(この氷……不純物が少ない……すごく硬い!)


 アリスは一瞬で見抜いた。


 地表を強固な氷で覆い、地中からグリンが飛び出せないようにするつもりなのだ。


「でも……問題ない!」


 アリスが不敵に笑う。


 次の瞬間――地中のグリンが、ヒーローめがけて一気に浮上を開始した!


「来るよ」


 積人が小さくつぶやく。


 その声とほぼ同時に、ヒーローは大きく左へ――ぴょん、と軽やかに跳ねた。


「えっ!?」


 アリスが驚きの声をあげる、その瞬間。


 バキバキィッ! と激しい音を立てて氷を突き破り、グリンが勢いよく地上へと飛び出した!


 ……しかし。


 その地点には、すでにヒーローの姿はなかった。


(読まれてる……!)


 アリスは瞬時に理解する。不意打ちの気配を察知し、先に回避していたのだ。


「いまだ」


 積人の合図。


 ヒーローは赤いグローブの右腕をぐるぐると回し、勢いをためる。そして――飛び出して無防備になったグリンの脇腹めがけ、鋭いパンチを繰り出した!


「受け止めてっ!」


 アリスの指示が飛ぶ。


 グリンはとっさに体をひねり、長く鋭い左のツメを振り抜く。裏拳のような軌道で、パンチに真正面からぶつけた。


 ガキィーンッ!


 金属同士がぶつかったかのような、重く鋭い音が体育館に響き渡る。


 空中で衝突した両者は、その反動で後方へ弾かれ――


 ドンッ、と鈍い音を立てながら、ほぼ同時に氷の張ったコートへと着地した。


 氷の上に走る細かなヒビ。冷たい空気が、ぴんと張りつめる。


 アリスは不敵に、積人はやわらかく、互いに口もとに笑みを浮かべる。


 ――やるね。


 言葉にしなくても、そんな思いが伝わっていた。


「……な、な、なんという攻防ーッ! ファーストアタックはまったくの互角! 第一試合とは打って変わって、第二試合は熱い展開でのスタートとなったーッ!」


 一拍おいて、ニーナの興奮した実況が響き渡る。観客席からもどっと歓声がわき起こった。


 その熱気の中で、アリスは高揚しながらも冷静に状況を分析していた。


(さっきの不意打ち……かわされたのは、氷の振動だけじゃない)


 地表の氷は、グリンの動きを伝えるセンサーにもなっていた。それだけではない。


(氷のせいで、地中の温度も下がってる……そのせいでグリンのスピードとパワーが、少し落ちたんだ)


 ほんのわずか。けれど、その差が勝負を分ける。


「いまので、決まったと思ったんだけどなあ」


 積人が、ふわりとした声で言った。


 ヒーローはパンチを放った右腕をくるくると回し、軽くストレッチしている。その余裕のある動きが、逆にプレッシャーとなっていた。


『モリー……』


 いっぽう、グリンはパンチを受け止めた左手をわずかに震わせていた。じんじんとしたしびれが残り、しばらくは思うように動かせそうにない。


 それだけ、ヒーローの一撃は重かったということだ。


「ハートランドさん。やっぱり君はいいね」


 積人が目を細める。


「君が相手なら、僕も――みんなも、本気で遊べそうだ」


 そう言いながら、右手でマフラーを軽くつかんだ。


 その瞬間――ビュオッ、と吹雪のような冷気があふれ出す。


 冷たい風がコートを駆け抜け、アリスの長い金髪を大きく揺らした。白い肌を刺すような冷たさが走る。だが――


「……いいわ」


 アリスは一歩も引かない。


「だったらこっちも、本気で楽しませてもらっちゃうから」


 不敵でステキ、それでいてどこか華やかな笑みを浮かべる。そのひとみは、すでに次の一手を見据えていた。


 ――ここからが、本当の勝負。アリスは静かに構え、次の行動へと移るのだった。

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