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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第127話 地上の人魚

『う……ぐぐ……』


「おーっとブルー! カウント3手前で立ち上がったーッ! その目には、まだ闘志が燃えているぞーッ!」


 ニーナの実況どおり、ブルーはなんとか立ち上がった。ちなみに、カウントは取っていないし、そんなルールもない。


 しかし、立っているのがやっとというフラフラの状態だ。おそらく、あと一撃でも受ければ、今度こそダウンだろう。


 さいわいというべきか、吹き飛ばされた勢いで、ブルーの体をさいなんでいたマロンの毛皮の針はすべて抜け落ち、全身を覆っていた脱力感もすっかり消えていた。効果が強力なぶん、解除もあっけないようだ。……その代償は、あまりにも大きかったけれど。


「まだ動けるんだ。ちっちゃいのに、さすがドラゴン、タフなんだね」


 地魚はさわやかな笑顔で感心している。【イガグリズリー】のマロンも、『グフー』とうなり、どこか感心しているようだった。


 ブルー自身も、荒い息を整えながら驚いていた。いつもの自分なら、さっきの一撃でノックアウトされていただろう。


 それを耐えられたのは、緋羽莉の指導でしっかり体を休めていたからだと理解できた。そのおかげで、十分な体力を確保でき、全身のコンディションも整い、エナに頼らない素の耐久力も増していたのだ。


 とはいえ、さきほどの《チクチクストーム》からの殴打コンボをどうにかしなければ、勝ち目はない。アリスは得意のひらめきで逆転の糸口を見つけようと、頭をフル回転させた。


 《バタフライエフェクト》では完全に無効化できず、《ガード》では結局、針が突き刺さってしまう。


 ミルフィーヌのようなバリア系の技があれば、針に触れることなく防げるのだろう。けれど、ブルーはまだそんな技を使えない。緋羽莉も、教える時間はなかったようだ。


 ――だったら、方法はひとつ。


「ブルー、やれるね?」


『うん……もちろん!』


 ブルーは弱りきった体で、それでも力強くうなずいた。


 まだ数日ほどの付き合いながら、アリスとの間にたしかな信頼が築かれていることが伝わってくる。


「《チクチクストーム》!」


 これで決めると言わんばかりに、地魚は大げさな身振りで指を突きつける。


 マロンの全身から、針のような無数の毛が嵐となって放たれた。


『ここだあ!』


 ブルーは待っていたとばかりに叫び、両脚に力を込めて大きく跳躍した。五メートルはゆうに超える大ジャンプで、針の嵐を一気に飛び越える。


 エナの集中と放出という基礎を身につけたからこそ可能な芸当だった。


「すっご! 新記録ってレベルじゃないよ!」


 地魚は宙を舞うブルーを見上げながら、陸上選手らしい率直な驚きを口にする。大きく口を開け、きらきらとひとみを輝かせていた。


 興奮に合わせてしなやかな体にぐっと力が入り、引き締まった腹筋やすらりと伸びた脚のラインが際立つ。胸元も弾むように上下し、健康的な色気とアスリートらしい均整のとれたスタイルが、ひときわ目を引いていた。


 マロンも針の発射を中断し、あわてて上空を見上げた。


 そしてブルーは、右手にヴァイオレットの電光を集め、《マジェスティックインパクト》の構えを取る。この千載一遇のチャンスを逃すまいと、この一撃にすべてを込めた。


「でも、そう簡単にはいかないよっ!」


 地魚が素早く右手をかざすと、マロンは上空のブルーを迎え撃とうと腰を落とし、右のこぶしを構える。


 そして――ブルーの振り下ろしたこぶしと、マロンの振り上げたこぶしが激突し、紫の電光が激しくスパークした!


「たがいに渾身の一撃のぶつかり合い! 勝つのはどっちだあーッ!?」


 早業でメガネをサングラスに替えたニーナの、熱を帯びた実況が響く。その直後、体育館を満たしていたまばゆい光が、ゆっくりと弱まっていった。


 やがて視界が戻る。


 コートの上には――ブルーの小さな体と、マロンの巨体が、そろって倒れ伏していた。


「な、な、なんという幕切れーッ! セカンドバトルは、まさかの両者相打ちーッ! 二回戦最終試合にして、校内大会はいよいよ盛り上がってきましたーッ!」


 ニーナの興奮冷めやらぬ実況に、ギャラリーも大歓声で応える。アリスが感じていたような、なにげにこれまでの試合がどこか物足りなかったという空気が、にじむように一気に弾けた。


「ブルー、よくがんばったね。おつかれさま!」


 アリスは倒れたブルーをやさしくねぎらい、スマートウォッチへと戻してやる。地魚も同じようにマロンを戻した。


「惜しかったね、ブルー」


 二階席のりんごが、残念そうに小さくつぶやく。


「相手も確かに強い。それでも、ひとりで二体も倒したんだ。十分すぎる戦果だよ」


 閃芽は、地魚とブルー、ふたりの健闘を称えるように感心した口調で言った。


「そうだね……地魚さんもアリスも、ほんとうにすごい……」


 緋羽莉はうっとりとした表情で、コート上を見下ろしている。胸は高鳴り、その熱は全身へと伝わっていた。


 大きな体がわずかに前のめりになり、ふとももに力が入り、ぎゅっとスカートを握る手にも思わず想いがこもる。ぽっと赤らんだ頬と潤んだひとみが、甘くやわらかな空気をまとわせていた。


 尊敬する先輩と、大好きな親友。ふたりの熱いバトルを目の当たりにして、胸がいっぱいになっているのだろう。


「……ホントにやるね、アリスちゃん。こんなに熱くなったの、陸上やっててもなかったよ」


 地魚は、つり目がちな金色のひとみをぎらりと輝かせて言った。


 その健康的な肌は、汗にぬれてつややかに光っていた。照明を受けてほのかにきらめくその表情は、まるで磨かれた果実のようにみずみずしく、きりっとした目元と相まって、凛とした美しさを際立たせている。


「じゃあ、本格的にワンダーバトル一本に転向する?」


 アリスは不敵に笑い、軽く挑発を返す。


「それもなかなか魅力的だけど……やっぱり、あたしは陸上を極めたい。お父さんやお母さん、それに誰より尊敬してる、ふたりのお姉ちゃんに続きたいからね!」


 そう語る地魚の表情には、本気で道を貫こうとする強い覚悟がにじんでいた。


 その言葉に呼応するように、地魚の全身に力がみなぎる。肩から腕、腹筋、太ももにかけて、しなやかな筋肉がきゅっと引き締まり、瞬間的にふくらむ。女性らしい丸みを残しながらも、芯の通った強さを感じさせるその体は、まさに鍛え上げられた競技者のそれだった。


 アリスも思わず、かっこいいと感じてしまう。緋羽莉が惹かれるのも、無理はない。


「だからって、この大会だって本気で取りにいくつもりだよ。あたし、負けるの大っキライだから!」


 地魚はぱちん、と軽やかにウインクを飛ばす。いたずらっぽい笑みとともに、汗で濡れた頬や額がてらりと光り、元気いっぱいのかわいらしさと、どこか小悪魔めいた魅力を同時に放っていた。


「それは奇遇ね。わたしもよ!」


 ふたりは同時に、不敵で魅力的な笑みを浮かべ――次のパートナーを呼び出した。


 アリスが呼び出したのは、長年ともに戦ってきた最も信頼する相棒、【ワンダフルプリンセス・ミルフィーヌ】。


 対する地魚のパートナーは――なんと、人魚だった。


 地魚と同じ、ややくすんだ金色のショートヘアは左右に跳ね、同色の勝気なつり目。褐色の肌に、豊満な胸を包む貝殻ビキニは、アンモナイトのような巻き貝の形をしている。下半身は鮮やかなオレンジ色の尾びれだ。


「どう? びっくりした? あたしのいちばんの相棒、【アースマーメイド】のアーシアだよ!」


 地魚とアーシアがそろってウインクすると、実況のニーナと観客たちから割れんばかりの歓声が上がった。


 人魚というだけでも珍しいワンダーであり、しかもミルフィーヌと並び立つその姿は、まるで絵画のように映えていた。


「ええ、びっくりしたわ。人魚なんて、はじめて見たもの。……でも、ここには水なんてないのに、どうやって泳ぐつもりかしら?」


 アリスは驚きを見せながらも、あえて挑発的に言い返す。


 いくら珍しく美しい存在でも、海の生きものが陸上で本来の力を発揮できるとは思えない――そう高をくくっていた。


 ……だが、その考えは数秒後、あっさりと覆されることになる。


「それはどうかなあ?」


 地魚が楽しそうにニヤリと笑った、次の瞬間――


 アーシアはコートに身を躍らせ、ざぶん! と水に飛び込むように沈み込んでいった。


「え?」


 物理法則を無視したその光景に、アリスもミルフィーヌも、思わず言葉を失う。


「こ、これはどういうことだーッ! な、なんと人魚がプールに飛び込むがごとく、コートの下に潜行してしまったァーッ!」


 一拍遅れて、ニーナの絶叫とともに、観客席に大きなどよめきがひろがった。


「な、な、なにあれ!? どうなってるの?」


 りんごは目を丸くし、あわてふためく。


「あれはたしか……〈アーススイム〉。自分の周囲だけを遊泳可能な空間に変える特性だよ。私も小耳にはさんだ程度しか知らないけど!」


 親友四人組の中で最もワンダーに詳しい閃芽でさえ、驚きを隠せないようすだ。


「地中を泳ぐ人魚……まさに地魚さんにぴったりのパートナーだね!」


 そんな中、緋羽莉だけは感激したように、ひとみをきらきらと輝かせていた。思わず息をのみ、胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。


 アーシアの妖艶な美しさと、地魚の引き締まったかっこよさに、すっかり心を奪われていた。体はわずかに揺れ、長い脚に力が入り、頬を上気させながら、まっすぐにコートを見つめている。その純粋な憧れが、そのまま全身にあふれ出ているようだった。


 いっぽうで左右の閃芽とりんごは、「それどころじゃないでしょ」と言わんばかりの視線を彼女に向けた。


「ミルフィーヌ、警戒して!」


 アリスの指示に応え、ミルフィーヌは右手に剣を形成し、コートを鋭く見下ろす。


 たとえ地下から攻めてこようと、ふたりの反応速度なら、姿を現した瞬間に迎撃できる。最初こそ面食らったが、要はモグラと同じはずだ。


「ふっふ、そううまくいくかなあ?」


 地魚が楽しげに笑った、その直後――


 ドッパーン!


『きゃあっ!?』


 突如、足もとが激しく波打ち――まるで見えない水面が弾けたかのように、ミルフィーヌの体は勢いよく上空へと打ち上げられた!

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