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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第128話 まだまだ未熟なアリスちゃん

(うそ……まったく反応できなかった!?)


 空中に打ち上げられたミルフィーヌと、それを見上げるアリスは、同時に同じ思いを抱いた。


 コート上では、【アースマーメイド】のアーシアが、まるで水の中にいるかのように床へ体の半分を沈め、ぷかぷかと浮かびながら、ぺろりといたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「アリスとミルフィーヌが、反応できないなんて……」


 さすがの緋羽莉も驚き、目を丸くしていた。


 地魚のことは、同じポニーテールで筋肉質の先輩として、いたく尊敬しているようだけれど、それでも、彼女はいつだってアリスの味方だった。


「さすが人魚。遊泳と浮上の速度がハンパじゃないんだよ。それに、自分のまわりだけを水中と同じ性質に変えてるから、床の振動も察知できない……」


 閃芽は、にがにがしい口調でアーシアの能力の恐ろしさを解説した。


「でも……なすすべがないわけじゃないよね。やっぱりスピード重視で、パワーはひかえめっぽいし……」


 りんごは、どこか自分を安心させるような口調で言う。


 たしかに彼女の言う通り、空中にいるミルフィーヌは、不意打ちに面食らっただけで、大きなダメージを受けているようすはない。


「そうだよね……アリスなら、きっと!」


 緋羽莉はぐっと気合いを入れた表情で、アリスを信じ、めいっぱいの声援を送った。


 バトルは続く。


 空中に投げ出されたミルフィーヌは、すぐに体勢を立て直した。


 うかつに着地すれば、また的にされるだろう。コート上はもはや、サメが回遊する海と同じ状態だ。


 ならば――


 ミルフィーヌは剣を下に向けたまま落下する。これなら、着地の瞬間を狙われにくい。


 すとん、と軽やかにコートへ降り立つと、すぐさま警戒網を張る。


 海にたとえたとしても、ここは地上。さざ波ひとつ立ちはしない。地中を泳ぐ音も聞こえず、気配すら感じられない。


「だったら!」


 アリスは、ばっと手をひろげる。それに呼応するように、ミルフィーヌがダッシュした。


「なるほどね」


 地魚もその意図を理解し、にっと笑う。


 つまり、コート上を走り回り、狙いを定めさせない作戦だ。


「シンプルだけど、有効な手だよ。ただ走ってるだけのミルフィーヌに対して、あの人魚の地中遊泳はふしぎなチカラによるもの……エナをより多く消耗するはず。持久戦に持ち込めば、分があるね」


 二階席の閃芽が、したり顔で解説した。


『ほーらほら! 人魚さん! こっちですよー!』


 ミルフィーヌは、地中のアーシアに挑発的な声をかけながら、コート上を駆け回る。


 さすがは元子犬。走ることに関してはお手のものだ。観客たちからすれば、なにやってんだという感じかもしれないが――


 このままチカラを使い果たし、たまらず飛び出してきたアーシアを、逆に狙い撃つ――そんな作戦だった。


 しかし、そのもくろみは見事に外れることになる。


『ハア……ハア……』


 コート上を走り続けること数分。


 先に限界を迎えたのは、なんとミルフィーヌのほうだった。


 コートの中央で膝をつき、肩で息をしながら必死に呼吸を整えている。


「うそ、ミルフィーヌ!?」


 完全に想定外の展開に、アリスが驚愕した――その瞬間!


『ざっぱーん!』


 太陽のような笑顔を浮かべたアーシアがコートの下から勢いよく飛び出し、疲労困憊のミルフィーヌに、強烈なヒレの一撃を叩き込む!


『へぶしっ!』


 後頭部に直撃を受け、ミルフィーヌはなんともマヌケな声をあげながら、そのまま前のめりに倒れ込んだ。


「ミ、ミルフィーヌ、ダウーン! なんとスタミナ勝負は、アーシアに軍配が上がったァーッ!」


 長い持久戦に耐え抜いたのは、見ている側も同じだった。ニーナの実況とともに、ギャラリーの歓声が爆発する。


「バカな! ありえない! こんなこと……!」


 二階席の閃芽が驚愕に目を見開き、思わず身を乗り出す。彼女がここまで取り乱すのは珍しく、緋羽莉もりんごも思わず顔を見合わせた。


「考えられるとすれば……アーシアのスタミナ……生命力(エナ)の総量が、ミルフィーヌよりはるかに上だったとしか……」


 りんごも顔を青ざめさせながら分析する。


「うん。アスリートの地魚さんのパートナーなら、当然かもね。でもそれだけじゃない。エナ操作の最適化……基礎がしっかりできてて、消耗がかなり抑えられてるんだよ。やられちゃったね、アリス……」


 緋羽莉は感心と悔しさが入り混じった複雑な表情で、コートを見下ろした。


「ねえ、アリスちゃん。“敵を知り己を知れば百戦危うからず”って言葉、知ってる?」


 地魚はふいに、アリスへ問いかけた。


「知ってるよ、もちろん!」


 アリスは、少し苛立ちをにじませながら即答する。見事に相手の術中にはまってしまったのだから、無理もない。


「でも、ほんとうの意味で理解してるわけじゃないみたいだね」


「……どういうこと?」


「あたし、ずっとアリスちゃんのこと見てたよ。アリスちゃんってさ、相手のことっていうか……人間にあんまり興味ない感じだよね?」


 アリスは図星を突かれたように、はっと目を見開いた。


「ワンダーは、マスターであるウィザードの影響を色濃く受けるもの。アスリートのパートナー相手にスタミナ勝負を仕掛けるなんて、ありえないとしか言いようがないね。正直、がっかりしちゃったなあ」


 その言葉とともに、金色のひとみには失望の色がはっきりと浮かんでいた。アリスの胸に、ずしりと重い衝撃が走る。


 アリスは親友たちに吐露したように、感覚型の天才肌ゆえに"自分ひとりでなんでもできる"と、どこかで思っていた。その思いが、無意識のうちに家族と親友以外の人間を見下す気持ちにつながっていたのだと、突きつけられた気がした。


 実際、地魚がここまで観察眼鋭く、ことわざにも通じているとは思っていなかった。緋羽莉と同じく、文武両道を地でいく少女だ。しかも一学年上であるぶん、学力や精神面では上回っているのかもしれない。


 アリスは、それが悔しいと感じた。だが同時に、彼女の言葉を頭ごなしに否定するほど幼くもなかった。


 いちばんよくないのは、まちがいをまちがいだと認められないこと。


 それは、尊敬する恩人であり育ての親である沙織から、口をすっぱくして言われてきたことだった。


 ――パーン!


 アリスは両手で自分のほっぺを打ち鳴らした。


 突然の行動に、体育館じゅうがあっけにとられる。


「ごめん、ミルフィーヌ。わたし、またどうかしてた」


 今回は緋羽莉に心を乱されたわけではない。ただ純粋に、自分が未熟だっただけだ。


 ワンダーバトルを解禁されたばかりで対人戦の経験が少ないことによる、相手観察の不足。


 そして、自分には才能と優れたパートナーがあるのだから、同じ小学生に負けるはずがない――そんな無意識の慢心。それらすべてが、いまの結果につながっていた。


 そのことに気づかせてくれた地魚には、むしろ感謝しかない。


 この国に来てはじめて出会った緋羽莉が、いろいろなことを教えてくれたように――出会う人すべてが、自分に何かを教えてくれる“先生”なのだと、アリスは、そう考えをあらためた。


「でも、おかげで頭が冷えた。反撃のアイディアも思いついた! 勝つよ!」


 そのひとみに、ふたたび強い光が宿る。


『はいっ! アリスちゃんっ!』


 いつもの不敵でステキな笑みを取り戻したアリスに、立ち上がったミルフィーヌも、自信満々の笑顔で応えた。


「ん、いい顔になった!」


 それを見た対戦相手の地魚も、うれしそうにさわやかな笑みを浮かべた。全力の相手と戦うことによろこびを感じる、なんともスポーツマンシップにあふれた精神だ。正直、その点ではアリスはまだ彼女にかなわないだろう。


「ミルフィーヌ!」


 アリスはパーにした手を、ばっと前に突き出す。


 ミルフィーヌはその意図を受け取り、右手の剣を左の手のひらでぽん、と押し当てた。ピンクの肉球エフェクトとともに、その刀身はピンクのグミのような質感のオーラに包まれていく。


「あ! あの技は……」


 りんごは真っ先に気づく。そして、アリスの狙いにも思い至った。


 ミルフィーヌはその後も、ぽん! ぽん! と左手で剣を叩く。そのたびにピンクのオーラは、風船のようにどんどんふくらんでいく。


「何する気か知らないけど、させないよっ!」


 地魚は大仰なポーズを取ると、ミルフィーヌの足もとから勢いよくアーシアが飛び出し、その体をふたたび宙へと打ち上げた!


『くあっ……!』


 一発目よりも強烈な一撃を受け、ミルフィーヌは大きくダメージを受ける。それでも体勢を崩すことなく、空中でくるりと回転し、すぐさま下方向へ剣を向けた。


 そしてそのまま着地の瞬間、ピンクのオーラが大きくふくらんだ水色の剣を、コート上に深く突き立てる!


「そんなことしたって、アーシアには刺さらないよ!」


 地魚は自信たっぷりに胸を張った。


「いいや、もう決まりだよ」


「うん!」


 二階席の閃芽とりんごが、とくいげな顔でつぶやく。


 緋羽莉もまた、わくわくした表情でひとみをきらめかせていた。


「『《ハニーショック》!』」


 ドオォン!


 轟音とともに、センターコートが大きく揺れる。


「ひゃっ!?」


 体幹の強い地魚でさえ、この不意の震動に体勢を崩しかけた。


 さらに――次の瞬間。


 すっぽーん!


 ……という小気味いい音とともに、アーシアの体がコート上へと弾き出され、そのままどさりと倒れ込んだ。どういうわけか、ぴくりとも動かない。


「ア……アーシア!?」


 地魚はびっくり仰天する。しかし、数秒後にはその原因を理解した。


 ミルフィーヌの《ハニーショック》は、剣を突き刺した箇所から、刀身を包んでいた肉球オーラの弾力を一気に炸裂させ、衝撃波を発生させる大技。本来は相手の体内に打ち込み、内側からダメージを与える技だ。


 今回はそれをコートの床に対して放ち、地中に潜っていたアーシアへ衝撃を叩き込んだのだ。何度も剣を叩いてチカラを溜めたぶん、その衝撃はコートの地下全体にまでひろがっていた。


 逃げ場のない地下で、その威力をモロに受けた結果、気を失ってチカラが解除されたアーシアは地中にとどまれず、コート上へと弾き出された――というわけだ。


「……フィ、フィ、フィニーーーッシュ! これまた驚きの幕切れ! 美少女ワンダー同士の対決は、ミルフィーヌに軍配が上がったーッ! 同時にこの瞬間、勝者はアリス選手に決定ッ! これにてベスト4が全員出そろいましたーッ!」


 やや遅れて、ニーナの勝ち名乗りと歓声が体育館いっぱいに響きわたる。


 見事に勝利をつかみ取ったアリスとミルフィーヌは、ぱん、とハイタッチを交わし、顔を見合わせてにっこりと笑い合った。

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