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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第119話 無敵の金剛石

「……あのワンダーは……!」


 コート上に突如として現れた【アダマスゴーレム】を見て、二階席のチャンピオンは思わず身を乗り出した。


「あれは彼の父親……石切大山(たいざん)君のパートナー……」


 隣にいた校長先生も、目を見張る。


「ええ。プロ時代の彼とのコンビを、僕も何度も見てきました。まさか、こんな舞台で再び目にすることになるとは……」


「別の個体、ということはないのかね?」


「感じるオーラが、あきらかに当時のものです。同一個体と見て間違いないでしょう」


「父親から受け継いだ、ということだろうか?」


「……いえ、どうやら、そういう感じではなさそうです」


 校長先生の問いに、チャンピオンはわずかに顔をしかめて答えた。


 ――さて、アリスと石切のバトルが続くコート上では。


 黒光りする石人形――アダマスゴーレムが、先鋭化した右腕をくい、とわずかに動かした。


 まるで、対峙するミルフィーヌに「かかってこい」と挑発するかのように。


 アリスとミルフィーヌは、その異様な威容に気圧されながらも、ぐっと表情を引き締める。


「そっちがその気なら……おのぞみどおりに!」


 アリスの声に応じて、ミルフィーヌは右手に剣を構え、コートを蹴って一直線に駆け出した!


 対するアダマスゴーレムは、微動だにせず、ただそこに立っているだけ。


 ――なめやがって!


 そんなニュアンスの感情が胸に湧き上がるのと同時に、アリスとミルフィーヌは息を合わせて右腕を突き出した!


「『《ハニースパイク》!』」


 カキィーン!


 ミルフィーヌの水色の剣の突きが、アダマスゴーレムの黒光りする金剛の胴体に激突した!


 甲高く鋭い金属音が響く。その音は、まるで鍛冶職人が槌を打ち下ろしたときのように、体育館中へと響き渡った。


 この技は、衝突の衝撃を内部に直接叩き込み、相手の内側からダメージを与える必殺技だ。どれほど硬い外殻を持っていようと関係ない――はずだった。


 アリスは勝利を確信し、わずかに口元をゆるめる。


 ――だが。数瞬後、その表情は驚愕へと塗り替えられた。


「効いて……ない?」


 思わず、声がもれる。


 その違和感は、攻撃を放ったミルフィーヌ自身が、いちばん強く感じていた。


 衝撃が、届かない。敵の内側へと貫くはずの力が――通らない!


 まるで、すべての力が表面で完全に遮断されているかのように、手ごたえが消えてしまっている。こんな感覚は、はじめてだった。


「えっ……」


 観客席にもどよめきがひろがる。


 二階席の緋羽莉、りんご、閃芽――ミルフィーヌをよく知る親友三人娘は、誰よりも強く衝撃を受けていた。あの無敵とも思われていた《ハニースパイク》が、まったく通用しないという現実に。


『いい技だ。だが、我には無意味だ』


 アダマスゴーレムの無機質な声が、静かに、しかし重く響く。


『我の特性〈金剛ノ体〉は、あらゆる物理的攻撃を無効化する。それが防御を無視する攻撃であろうとな』


 その宣告は、まるで冷たい刃のようにミルフィーヌの胸に突き刺さった。


 物理攻撃完全無効――そんな特性を持つワンダーの存在は、アリスも知識としては知っていた。だが、実際に対峙するのはもちろんはじめてだ。


 その反則的とも言える性能。極めて希少な特性であり、こんな小学校の大会で出会うはずがない――そう、どこかで油断していたのだ。


 だが、それでも――引くわけにはいかない!


「《パウパンチ》!」


 アリスの叫びに背中を押されるように、ミルフィーヌはハッと我に返る。


 すぐさま体勢を立て直し、今度は空いた左手で掌打を繰り出した!


 ぷにゅんっ!


 やわらかな音とともに、ピンク色の肉球のエフェクトが弾ける。弾力による衝撃を活かした、もう一つの打撃技だ。


 だが――それでも。アダマスゴーレムは、まったく揺るがない。


 ほんのわずかな後退すら見せず、まるで大地に根を張ったかのように、そこに在り続ける。


 ――やっぱり……ダメか……!


 期待していた分だけ、アリスの胸に落胆が広がる。


『言ったはずだ。物理的攻撃は効かぬ、と』


 無機質な声が、追い打ちのように響いた。


 その瞬間、ミルフィーヌはすぐさまバッと後方へ飛び退き、距離を取る。


「な……な……なんということだァーッ!? 石切選手の最後の一体、アダマスゴーレムには――【イワヤマガメ】のコウラを断ち割ったミルフィーヌの剣が、まったく通じないーッ! どうする、アリス選手!?」


 アダマスゴーレムの圧倒的な威容に言葉を失っていたニーナが、ようやく我に返ったように実況を再開した。


 その声には、わずかにアリスに心情が寄ったような色が混じっている。だが、そのことに、本人は気づいていないようだけれど。


 アリスはギリッと歯をかみしめた。


 相手の特性を無効化できる特性〈ハーモニクス〉を持つブルーなら――という考えが一瞬よぎる。だが、そのブルーはすでに戦闘不能だ。


 自分の判断の甘さが、胸に重くのしかかる。


 ――なら……非物理攻撃でいくしかない!


「《バキュームスラッシュ》!」


 ミルフィーヌは両手で握った剣を斜めに振り下ろし、真空の刃を放った!


 鋭い衝撃波が一直線にアダマスゴーレムへと突き進む――しかし。


 命中した瞬間、ぱちん、と乾いた音を立てて弾け散った。


『切り替えの早さはいい。だが、その程度の威力では意味がない』


 無機質で、無感情な声。


 だからこそ、その言葉は余計に重く、はっきりと突き刺さる。


 ――いまの自分たちのチカラでは、この相手には決して勝てない。


 その現実が、アリスにも、ミルフィーヌにも、容赦なく突きつけられていた。


『敗者復活戦と、このゼロ回戦の影響でスケジュールは押しているようだ。悪いが――即、勝負を決めさせてもらう』


 ブンッ――という風を切る音とともに、アダマスゴーレムの巨体が、一瞬にして消えた。


「――っ!?」


 アリスたちも、実況のニーナも、観客たちも、その異様な速度に息をのむ。


 次の瞬間――ミルフィーヌの胸に、鋭くとがった右腕が突き刺さった!


『がっ……!』


 反応する間もない、不可視の一撃。


 ミルフィーヌの体は大きく後方へ吹き飛ばされ、そのままコート端のアリスへと激突しそうになる。


 だが――ぐっと歯を食いしばり、空中で体勢を立て直すと、すんでのところで着地。主人への衝突を回避した。


「次が来る!」


 安心する間もなく、至近距離でアリスの声が飛ぶ。


 ミルフィーヌはイヌ的な野性の直感に従い、反射的に剣を構えた。


 ガキィーン!


 鋭い衝突音。


 一瞬で間合いを詰めたアダマスゴーレムの振り下ろしを、かろうじて受け止める――が。


 水色の、アメ細工のような刀身の剣は、その一撃に耐えきれず、粉々に砕け散った。


『こんのっ……!』


 怒りにまかせ、ミルフィーヌはゴーレムの左脇腹へ回し蹴りを叩き込む。


 ゴキィーン!


『あいったぁ!』


 だが、想像をはるかに超える硬さに、逆に足を痛めてしまう。


 当然、ゴーレムは微動だにしない。


「《パウパンチ》!」


 アリスはすぐさま指示を飛ばす。


『無駄だというのが、わからないのか』


 アダマスゴーレムの頭部には顔がなく、その声も無機質だ。


 だが、このひと言には、確かな“呆れ”の感情が含まれている――誰もがそう感じ取った。


 しかし、その一瞬の油断が、わずかなスキを生む。


 ミルフィーヌは、剣を失った右手で掌打の構えを取る。


 ――通じないとわかっている攻撃を、なぜ?


 次の瞬間、その理由があきらかになる。


 命中直前、ミルフィーヌの手のひらから、ふわりとピンク色の肉球状のバリアが展開された。


 それがゴーレムの体に触れた瞬間――


 ぷにゅーん!


 やわらかな音とは裏腹に、強烈な反発力が生まれ、アダマスゴーレムの巨体を大きく後方へと弾き飛ばした!


「ええ~~~っ!?」


 実況も、観客も、思わず絶叫する。


 アダマスゴーレムは、コート端付近から中央のセンターサークルまで、一気に吹き飛ばされていた。


「なっ……!」


 対面に立つ石切も、思わず息をのむ。


 アダマスゴーレムは、父のパートナーであり、彼自身にとっても憧れの存在だ。


 絶対に負けることはない――そう信じていた。


 だが、ダメージこそ与えられていないものの、その巨体を“吹き飛ばす”ことができるとは。


 信じていた常識が、音を立てて揺らぐ。


「……物理攻撃は無効でも、物理法則までは無効化できないみたいね!」


 アリスは、不敵な――そしてどこか誇らしげな笑みを浮かべ、ビシッと指を突きつけた。


 その姿を見た石切は、胸を撃ち抜かれたような衝撃を受ける。


 ――絶対に勝てないとわかっている相手に……どうして、そんなふうに立ち向かえるんだ……?


 自分には到底理解できないアリスの強さに、石切の心は――いや、魂そのものが、大きく揺さぶられていた。

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