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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第117話 その山は高く

「さーて! 石切選手の二体目のワンダーはー! その名のとおり、岩山を背負うがごとき大ガメ・【イワヤマガメ】だァーッ! 高さわずか50センチの小柄なブルーは、この巨体にどう立ち向かうのかーッ!?」


 ニーナの実況どおり、イワヤマガメはその背中に大きな岩山を思わせるコウラを背負い、全高は5メートルほど、横幅も2メートル半はある。ブルーよりはるかに大きい。


 さらに、ただ大きいというだけでなく、一体目の【ガンゴーレム】よりも強いオーラを放っていた。先ほどのようにはいかないだろう。それは、アリスもはっきりと感じ取っていた。


 けれど――どんなに体が小さくとも、内に秘めたパワーでは負けないと、アリスとブルーは信じていた。


「《バタフライビート》!」


 相手がはじめて戦うタイプである以上、アリスは慎重に立ち回る。溜めのいらない、小回りの利く技を指示した。


 ブルーは両手にピンクのオーラを宿し、イワヤマガメへ臆せず駆け出す。


 射程距離に入る。石切からの指示はない。無策で受けるつもりのようだ。


 ブルーは左右のパンチを、イワヤマガメの顔面へ叩き込んだ。顔だけで、ブルーの全身ほどもある大きさだ。


 たしかな手ごたえ。しかし――あまり効いている気配はない。


「おーっと! イワヤマガメ、見た目どおりの防御力! ガンゴーレムを打ち倒したブルーのパンチを、ものともしていないッ!」


 ニーナの実況に、観客がわきあがる。そうこなくては面白くない――そんな空気だ。


 ブルーは反撃を避け、すぐさまバックステップで後方へ。コート端にいるアリスのもとまで戻る。


「どんな感じ?」


『効いてるとは思う。わたあめみたいに、顔に出ないタイプなんだよ、きっと』


「わたしも同じ感想。動きはにぶそうだし、遠距離からチマチマ削っちゃおう」


『うん!』


 作戦は決まった。


 アリスが《プリズムボール》を指示すると、ブルーは両手のひらから虹色の光球を発射する。


 顔面に命中。イワヤマガメは、やはり微動だにしない。


 しかし、さすがにポーカーフェイスも見慣れてきた。昨日の冒険を経て、ワンダーの生命力を可視化できるようになったアリスの目には、はっきりとダメージが見えていた。コウラの奥で、じわじわと削れていくエナの流れが、確かな手応えとして映る。


「このまま押し切る!」


『うん!』


 ブルーは力強くうなずき、《プリズムボール》を連射する。


 二発、三発と次々に命中し、立ちのぼる爆煙とともに、イワヤマガメの体力を確実に削っていく。着弾のたびに、わずかに巨体が揺れるのを、アリスは見逃さなかった。


「なにやってんだー!」「やる気あんのかー!」


 しだいに、観客たちもヤジを飛ばしはじめる。


 無理もない。効いていないように見えるうえに、イワヤマガメは何のアクションも起こさず、足を止めたブルーに撃たれるばかり。試合としては単調で、面白みに欠けるだろう。


 しかし――その沈黙を破るように……


 いたぶられた怒りと、ヤジを飛ばす観客への苛立ちを爆発させるかのように――石切はカッと目を見開き、吠えた。


「いつまでも……調子に乗ってんじゃねェ!」


 同時に、イワヤマガメもガオーッ! と咆哮し、四本足で踏ん張っていた胴体を持ち上げる。一瞬、二本足で立ち上がるような体勢になった。


 そして――浮いた両前足が地面へと叩きつけられる。


 ズズーンッ! と、重く鈍い音が響いた。


 しかし――ふしぎなことに。


(え……揺れが、来ない?)


 アリスは警戒して身を縮こまらせていたが……あれほどの巨体が地面を叩いたのだ。当然、大きな振動が走るはずだ。なのに、足元には何の揺れも伝わってこない。


 実況のニーナも、観客たちも異変に気づき、ざわめきがひろがる。


 ……次の瞬間!


 ドッパアァァーン!


『うわああーーーっ!?』


 盛大な破裂音とともに、ブルーの体が高く宙へと弾き飛ばされた!


「ブルー!?」


 アリスと、二階席で観戦している緋羽莉が同時に声をあげる。


 一瞬、何が起こったのかわからなかった――けれど、アリスと、同じく観客席にいる閃芽は、わずかに遅れて理解する。


 イワヤマガメは、たしかに振動を起こしていた。ただし、そのエネルギーは周囲へ拡散することなく――すべてブルーの足元一点に集中していたのだ。


 その結果、衝撃は一点で爆ぜる。まるで地雷のように。


 振動を収束させて炸裂させる技――その名もそのまま、《地雷震》という。


『ぶへっ!?』


 盛大に宙を舞っていたブルーは、そのまま墜落し、まぬけな声をあげてコートに激突した。


 全身に激痛が走り、体がぷるぷると震える。すぐに起き上がることはできそうにない。ダメージは甚大だった。


「な……なんという技だあーッ! 正直、よくわかりませんでしたが……イワヤマガメの踏み鳴らしによる振動で、ブルーをふっとばした……のか!? とにかく、すごい技だーッ!」


 やや戸惑い気味のニーナの実況に、観客はどっと歓声をあげる。


「っ……! やっぱり、やるね……!」


 アリスは不敵な笑みを浮かべながらも、歯をかみしめた。完全にしてやられた、という感覚だ。


 ブルーの生命力は消えかけている。あの巨体が生み出した振動エネルギーを、逃げ場なくまともに受けたのだ。並のワンダーであれば、一撃で決着がついていてもおかしくない。


 頑丈な体に生んでくれたことを、ブルーは心の中でお母さん竜に感謝していた。


「とどめだ! 確実に仕留める!」


 石切が再び吠え、イワヤマガメはふたたび上体を持ち上げる。今度食らえば1000%確実にやられる――誇張ではなく、それほどの危機感があった。


 どうにかしなくちゃ。アリスとブルーの思考が、ぴたりと重なる。


「ブルー! ジャンプよ!」


 アリスの指示が飛ぶ。


 ――そうしたい。でも、間に合わない。


 攻撃が来る前に、起き上がることすらできそうにない。


「さっきと同じ! 攻撃は最大の防御にして、回避なの!」


 続くアリスの言葉に、ブルーはハッとする。


 敗者復活戦での風間&杉山とのバトル――相手の大技を、こちらの大技で相殺したあの瞬間が脳裏によみがえった。


 今回も、同じことができるかもしれない。


 立ち上がれなくてもいい。エナを集中させることなら、できるはずだ。


 ブルーは倒れたまま、両手のひらをコートに押し当てるようにして、エナを集中させはじめる。両手が空色のオーラをまとい、じわじわと輝きを増していく。


 そして――上体を起こしたイワヤマガメが、体を振り下ろし、両前足をコートへ叩きつけようとした、その瞬間!


「今よ!」


 アリスの合図と同時に、ブルーは力を込めた両手を一気に押し込む。


 ――さらに同時に、《地雷震》が炸裂した!


 ドッパアァァーン!


 耳をつんざく破裂音。衝撃波による突風がコートを駆け抜ける。


 そして――ブルーの小さな体は、高く高く、体育館の空中へと打ち上げられた。


 くるくると宙で回転しながら――声もなく。


 やがて、無防備なままコートへと墜落する。


 ぴくりとも動かない。完全に意識を失っていた。戦闘不能だ。


 起死回生を狙った一手は――不発に終わった。


「せ……戦闘不能ォーッ! やはりプロの血はダテじゃない! 石切大三、ここからが本領発揮だァーッ!」


 ニーナの実況に合わせ、ギャラリーの大歓声が体育館中に響きわたる。


「ブルー……」


 二階席で観戦している緋羽莉も、残念そうな表情でアカネを抱く腕に力を込めた。


 そのひとみには、敗北の悔しさだけでなく――あと一歩届かなかった、そんな惜しさもにじんでいる。


「あの頑丈さに加えて、あの技……ほんとうに厄介だね。どう攻略したものか」


 緋羽莉の左隣に座り、ハーリーを両手に乗せている閃芽も、メガネの奥の目を細め、苦々しくつぶやく。


 右隣のりんごも、ザックを抱きしめながら、不安げに表情を曇らせていた。


「おつかれさま、ブルー。戻って休んで」


 アリスは苦いほほえみを浮かべ、やさしく声をかけると、ブルーをウォッチの中へと戻した。


 地面に倒れた状態からでも、攻撃の反動を利用して大きく跳び、振動を回避する――その発想自体はまちがっていなかった。


 だが、それを成立させるための“技”が足りなかった。アリスはそう結論づけ、静かに反省する。


 アリスは頭の回転が速く、ひらめきで戦術を組み立てるのは得意だ。だが、根が感覚型であるがゆえに、それを具体的な“技”として落とし込み、相手に伝えるのは苦手だった。


 自分の代わりにそれを担ってくれる存在――ワンダーを教えみちびく指導者、いわば師匠のような人物がいれば。ふと、そんな考えが頭をよぎる。


 ――けれど、すぐに意識を切り替える。まだバトルは終わっていない。


 いま最優先で考えるべきは――目の前にそびえ立つ、岩山を背負った巨体、イワヤマガメの攻略法だった。

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