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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第116話 あの日から、ぼくは

「不意打ちだあ? ゴングはもう鳴ってんだぞ。気ィ抜いてるほうが悪いだろ」


 石切は首をかたむけ、実況へのツッコミを入れながら、いまいましげに爆煙をにらみつける。


 いきなり【ガンゴーレム】の強烈な先制攻撃を受けたブルーは、ほんとうにやられてしまったのか……? 観客たちの視線が、一点に集中していた。


 しかし――そのとき。


「いーや」


「これぐらい、平気だよね」


 アリスの親友である閃芽とりんごだけは、ブルーの無事を確信し、得意げにほほえんでいた。


「うん! アリスとブルーは、だいじょうぶ!」


 さらに、大親友の緋羽莉が、まっすぐなひとみで爆煙を見つめる。その強い想いに応えるかのように――爆煙の中から、虹色に輝く光球がビュンと飛び出した!


「チッ! 《ガード》!」


 石切の素早い指示に、ガンゴーレムは空いた左腕で光球を受け止める。


 その巨体が衝撃でぐらりと揺れ、受けた左腕にピシリとヒビが走った。


 そして次の瞬間――爆煙をぶわっと突き破り、ブルーが勢いよく飛び出す! 地面を蹴り、一直線にガンゴーレムへと駆けていく!


「おおーっと! ブルーは健在だァーッ! 目立ったキズも見当たらないぞォーッ!」


 実況のニーナの弾んだ声に合わせて、観客席から歓声が一斉に巻き起こる。


「《スカイナックル》!」


 砲撃とガードの直後――相手の次の動きは遅れると読んだアリスは、溜めを必要とするスカイナックルを指示する。


 ブルーは走りながら右手に空色のオーラを集め、一直線にガンゴーレムへと迫る!


「甘ェ! 《メカラビーム》!」


 ガンゴーレムは顔に刻まれた一文字のくぼみ――そこに光る単眼から、まばゆい光線を発射した!


「突っこんで!」


 アリスの迷いのない指示。ブルーはこぶしを振りかぶったまま、さらに加速する。


 ビームが頭部を直撃する。しかしブルーはひるむことなく、そのまま突進を続けた。ダメージはほとんどないようだ。


 ――《メカラビーム》。それは、天野博士の助手オデコのパートナー、【ロボ・ロフスキー】から一度受けたことのある技。


 だからブルーは知っている。この技は発動が早い代わりに威力は低い。覚悟して受ければ、のけぞることもなく耐えきれる――!


 そして――ガンゴーレムの懐へ飛び込んだブルーは、そのまま跳躍! コアがあるとされる胸部めがけて、渾身のこぶしを振り抜いた!


 ドゴオオオオーーーン!


 先ほどの先制攻撃をも上回る轟音が闘技場に響き渡る。ガンゴーレムの巨体は大きくのけぞり、そのまま地面を削りながら後方へと倒れこんだ。


「な……なんという強烈な一撃ーッ! さすがは【ブリックゴーレム】を軽々と打ち砕いた鉄拳! この大舞台でも、その威力は健在だァーッ!」


 ニーナの実況に応えるように、観客とワンダーたちの熱気はさらに高まっていく。


 緋羽莉もアカネを抱きかかえたまま、思わず身を乗り出していた。その大きなひとみは興奮のあまり、きらきらと星のように輝いていた。


 興奮で呼吸が少し荒くなり、胸元が上下にやわらかく揺れる。緋色のポニーテールは肩の上で跳ね、黄色いリボンがぴょこぴょこと弾む。


 健康的に色づいた頬はほんのり赤く、口元は無邪気にゆるんでいる。その笑顔は年相応にあどけないのに、引き締まった体つきとの対比が目を引いた。


 アカネを抱く腕にも自然と力がこもり、しなやかな筋肉がわずかに浮かび上がる。それでも抱き方はやさしく、ぬくもりを包みこむように柔らかい。


 まるで、自分のことのように――いや、それ以上に、アリスとブルーの勝利を信じきっている顔だった。


「とどめよ、ブルー!」


 アリスの指示に、ブルーは『うん!』と力強くうなずき、再び駆け出す。


 ダウンしたガンゴーレムへ一直線に向かうその姿は、まるで勝利を確信しているかのようだった。


 ふだんの淑女なアリスなら、相手が起き上がるのを待つところだろう。しかし――今はちがった。


 ブルーは高く跳び上がり、倒れたガンゴーレムを打ち砕かんと、こぶしを大きく振り上げる!


 ――そのとき。絶体絶命のはずの状況で、石切の口元がニヤリと歪んだ。まるで、この瞬間を待っていたかのように。


「《リアクティブアーマー》!」


 次の瞬間、ガンゴーレムの全身がまばゆい閃光を放ちはじめる。


 それは、以前のバトルでミルフィーヌを苦しめた技――表面装甲を爆発させ、攻撃してきた相手に強烈なしっぺ返しを与えるカウンターだ。


 ――だが。アリスの口元にも、同じように不敵な笑みが浮かんでいた。まるで、この瞬間を待っていたかのように。


「いまよ! 《バタフライエフェクト》!」


 ブルーもまた、にっと笑う。


 振り下ろしかけたこぶしを止め、両手を前へと突き出した。


 そこから放たれたのは、ピンク色に輝く大粒の光。無数の粒子は蝶のように舞いながら、爆発寸前のガンゴーレムへとまとわりついていく。


 すると――まばゆく輝いていた閃光が、すうっと消えていった。


 ガンゴーレムの《リアクティブアーマー》は、不発に終わったのだった。


「なにィッ!?」


 石切は驚愕に目を見開いた。


 《バタフライエフェクト》――それは、相手の技を無効化するカウンター技だ。アリスは石切の策に引っかかった“ふり”をして、この瞬間を狙っていたのだ。前のバトルでワナにはめられた借りを、ここでそっくり返すために。


 自爆の危険が消えたその瞬間、ブルーはためらいなく踏み込む。


 そして――


「《バタフライビート》!」


 溜めのいらないするどい一撃が、ガンゴーレムの中枢へと叩きこまれた!


 ドゴッ!


 鈍く重い衝撃音が響く。


 次の瞬間、ガンゴーレムの単眼から光が消え――その巨体はぴたりと動きを止めた。


 静寂が、ほんの一瞬だけコート上を包む。


 そして――


「せ……戦闘不能ォーッ! 校内大会、記念すべきファーストバトル・イン・ファーストバトルの勝者はァーッ! アリス・ハートランド&ブルーだァーッ!」


 ニーナの実況が爆発すると同時に、会場は大歓声に包まれた。


 彼女のパートナー、オウムの【コパロット】も、上空を飛び回りながら『カンカンカーン!』とゴングそっくりの声を鳴らす。


 ザックを抱きしめて飛び跳ねるりんご、してやったりとにやける閃芽、そして――もちろん、超絶大興奮の緋羽莉。


 会場全体が、まるでアリスの勝利を祝福するお祭りのような熱気に満ちていた。


「ブルー! ナイスゲーム!」


 アリスがびしっとサムズアップを決める。


 ブルーも満面の笑みで、それに少しぎこちなく応えた。


『ブルーくん、すごいです!』『キュー!』


 ウォッチの中で見守っていたミルフィーヌとモモも、声を弾ませてよろこんでいる。


 いっぽうで、グリンとレッドは「ふーん」といったようす。興味がないわけではないが、「なかなかやるじゃん」といった感じの軽い評価にとどまっていた。


「やったあぁーっ! ブルー、すごいすごいっ!」


 緋羽莉は思わず声を張り上げ、アカネをぎゅっと抱きしめた。いきおいあまって体を乗り出し、長い脚が席の前にかかりそうになる。


 そのまま胸の前で手を合わせ、きらきらした目で闘技場を見下ろす。


「アリスも、かっこよかった……! ふたりとも、ほんとにすごいよぉ……!」


 うっとりとした声がもれ、頬がさらにゆるむ。うれしさがあふれて止まらない、といったようすだ。


 汗ばんだ首筋に、ほんのり甘い香りがただよい、火照った肌がつやりと光る。その姿は無邪気で愛らしく、それでいて目を離せない魅力をまとっていた。


 ――しかし。石切のほうは、まるで別世界にいるかのようだった。


 うつむき、顔には濃い影が落ちている。まだ一本取られただけだというのに、その表情は、すべてを失ったかのような絶望に満ちていた。


 彼もまた理解してしまったのだ。敗者復活戦の元ツートップと同じく――アリスとブルーの強さが、自分の想像をはるかに超えていることを。


 血のにじむような努力をしてきたというのに……それでもなお、あの二人は、それをあざ笑うかのように軽々と飛び越えてくる。


 ちらりと、体育館二階の観客席へ視線を向ける。


 VIP席には父と長兄。来賓席には次兄。全員が、無言でこちらを見下ろしていた。


 その視線は、言葉よりも冷たい。失望の色がにじんでいる。


 こんなぽっと出の小娘に圧倒されるなど、我が家の恥だ――そう言われているような気がしてならなかった。


 歯を食いしばる。これ以上、醜態をさらすわけにはいかない。


 その決意を胸に、石切は拳を握りしめ、倒れたガンゴーレムをウォッチへと収納した。


 ――そのようすを見つめながら。ブルーは、自分の右手の甲へと視線を落とした。


 ガンゴーレムを打ち沈めるために放った二発のパンチ。その衝撃で、右手はじんとしびれ、じわりと痛む。うっすらと血もにじんでいた。あの石の体の硬さが、想定以上だった証だ。


 ブルーはぎゅっと右手をにぎりしめる。


(次は、もっと……うまくエナを操作しなきゃ)


 心の中で、そう強く誓う。


 ――勝って兜の緒を締めよ。さっき、緋羽莉がマッサージをしながら教えてくれた言葉を、何度も反復する。同時に緋羽莉の大きな手が、自分の体をやさしく包みこんでいた感触がよみがえる。


 ひんやりとしたヒーリングジェルがひろがり、指先がゆっくりと筋肉をなぞるたび、じんわりと疲れがほどけていった。力は強いのに、触れ方は驚くほど丁寧で――押されるたびに、体の奥までじわっと心地よさがしみこんできた。


「ブルー、気持ちいい?」


 あのやわらかな声と、すぐ近くで感じた体温。ほんのりと甘い香りに包まれて、意識がふわりと軽くなるような、ふしぎな安心感。まるで雲の上にいるみたいに、体も心もゆるんでいく感覚を思い出していた。


 ……そんなことがつい頭をよぎるくらいに、ふしぎと、まわりの歓声は気にならなかった。


 はじめて浴びたときは、あんなにも怖かったのに。いまは、ただの環境音のように自然に受け入れられている。


 その感覚に、ふと――ドラゴピアにいたころの記憶がよみがえった。


 落ちこぼれと呼ばれ、浴びせられるのは罵声ばかり。地上へ落とされるときでさえ、向けられたのは好奇と嘲りの視線だけだった。


 ――それでも。


(……あの日から、ぼくは)


 ゆっくりと顔を上げる。


(こんなにも、変われたんだ)


 いつか――この姿を、おかあさんにも見せてあげたい。


 この勝利は、きっとその未来へつながっている。


 ブルーは体育館の天井を見上げる。


 その先にある、はるか遠い空――そして、その向こうにある故郷を思い浮かべた。


「ブルー! 次に備えて!」


 アリスの声が飛ぶ。


 はっと我に返るブルー。


 そうだ――まだ終わりじゃない。郷愁に浸るのは、あとだ。きっと前を見据える。


 その視線の先――石切が呼び出した、二体目のパートナーが、ゆっくりと姿を現そうとしていた。

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