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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第113話 敗者復活戦終結

「それでは、勝利者インタビューといこうか。いまの気持ちを、率直に聞かせてくれるかい?」


 朝礼台の上で、マイクを差し出してくるチャンピオンに、アリスは少しだけ緊張した面持ちながらも、しっかりと前を向いて答えた。


「はい! とってもうれしく思います! 一度は失ったチャンスをつかめたことと、こんなステキな宝物が手に入ったことが!」


 アリスは左手ににぎりしめたシルヴァリオのウロコを、高々と掲げた。


 その瞬間、ギャラリーからは「おお~っ」と大きなどよめきが上がり、同時に羨望と物欲の入り混じった視線が一斉に彼女へと注がれる。


 その熱気に包まれながら、アリスはふと何かに気づいたように目をぱちりと開き、おずおずと口を開いた。


「あ、あの……これってもしかして、返さないといけないもの……ですかね……?」


 そう言って、少し名残惜しそうにウロコを差し出す。


 こんな激レアなお宝、できることなら手放したくはない。だが、イベント用の貸し出し品だと言われれば、さすがに逆らうわけにはいかない。


 チャンピオンの返答は――


「あははは! そんなこと、気にしなくてもいいよ。それは記念に取っておくといい。おこづかいが欲しければ、売ってしまってもかまわない。君の自由だ!」


 さわやかな笑顔とともに、あっけらかんとした声が返ってくる。


「う、売りませんっ! ずっと大切にしますっ!」


 アリスは顔を真っ赤にしながら、ウロコをぎゅっと胸に抱き寄せ、いきおいよく言い切った。


 ――もっとも、増えたパートナーたちの食費のことを考えると、「売る」という選択肢がほんの一瞬だけ頭をよぎらなかったわけではないのだけれど。


『フッ……そう言ってもらえると、提供した甲斐があるというものだな』


 隣に控えるチャンピオンのパートナー、銀竜シルヴァリオが、低く渋みのある声でそうつぶやいた。どこか誇らしげで、満足げな響きだった。


「とにかく……敗者復活戦突破、おめでとう」


 そう言ってチャンピオンは右手を差し出し、握手を求めようとする――が、途中でふと動きを止め、その手を引っ込めた。


 アリスは思わず首をかしげる。


「いや……やめておこう。いまここで君とそうするのは、もったいない気がする」


「は、はあ……」


 さすがに意味がよくわからず、アリスはきょとんとした表情を浮かべた。


 そしてチャンピオンにうながされ、校長先生がマイクを手に取り、高らかに宣言する。


「それでは、これにて敗者復活戦は終了とします! 本戦開始は30分後! 選手およびご観覧の皆さまは、体育館にお集まりください!」


 こうして――戦いは、次なるステージへと移るのだった。


 アリスは、なおも歓声のやまない観覧スペースを見渡しながら、小さく息を吸い込み、改めて気持ちを引き締める。


 ずいぶん遠回りになってしまったけれど、いよいよ次は、本戦だ――



 ☆ ☆ ☆



 チャンピオンは校長先生に連れられ、人目を避けるようにして体育館へと向かっていた。


「それにしても、君は気前がいい……いや、むしろ逆と言うべきかな?」


「なんのことです?」


「とぼけなくてもいい。君はあの敗者復活戦、本当は誰も勝たせるつもりがなかったのだろう? だからこそ、あんな高価なものを賞品に選んだ……違うかな?」


「……なぜ、そうお思いに?」


「あのダンジョンは、難易度もさることながら、制限時間が短すぎる。ふつうの児童であれば、お宝を見つける前に時間切れだ。仮に手に入れたとしても、出口へ戻るまで到底間に合わない。現代っ子なら“クソゲー”と呼んでもおかしくないレベルだったぞ」


「でも、あの子……アリス君は間に合ったじゃないですか。それも、こちらが設定した時間の半分ほどで」


「それは、あの子が特別だったからにすぎんよ」


「それですよ。僕が求めているのは」


「……どういうことかね?」


「それくらいのことをやってのけてもらわなければ――僕のライバルにはなりえない」


「……やはり、あのウワサ、本当なのかね?」


「本当ですよ。……僕を倒せる人間が現れない限りはね」



 ☆ ☆ ☆



「アーリスーーーっ!」


 観覧スペースから人々が体育館へ向かって動きはじめたその中で、ひときわ大きな声が響いた。


 次の瞬間、緋羽莉が文字どおり飛び出すようにして、アリスへと一直線に駆け寄ってくる。


 弾むような足取りでこちらへ向かってくる緋羽莉の顔は、まるで太陽みたいにぱあっとあかるくほころんでいた。大きな黄色いひとみはきらきらと輝き、うれしさを隠しきれないまま細められている。


 走るたびに揺れる緋色のポニーテールと、胸元のやわらかなふくらみがふるんと弾み、そのたびに甘い香りが風に乗って運ばれてくるようだった。


 むぎゅーっ!


「ぷわっ!?」


 長身の緋羽莉に勢いよく抱きつかれ、アリスの顔は彼女の豊かな胸元にすっぽりと埋もれる。


 がっしりとした腕に抱きしめられた瞬間、ずしりとした重みがアリスの体にのしかかる。身長165センチ・体重60キロ超のしなやかに鍛えられた体は、138センチ・32キロの小柄で軽いアリスとはまるで別物で、その圧倒的な体格差がはっきりと感じられた。


 しっかりと引き締まっているのに、触れたところは驚くほどやわらかく、女性らしい弾力があり――包み込まれるような安心感と同時に、どきりとするような色気も漂っていた。


 そのまま、体格差のある衝撃に耐えきれず、アリスの体はぐらりと傾き――そのまま校庭へ倒れ込む、かと思われた。


 だが。着地の直前、緋羽莉はとっさに腕を伸ばし、アリスを抱き寄せたまま身体をひねる。くるりと上下が反転し、次の瞬間――


 どさっ!


 地面に叩きつけられたのは、緋羽莉の背中だった。アリスはその上に守られるような形で落ち、衝撃をほとんど受けずに済んだのである。


 たとえあふれる気持ちを抑えきれなかったとしても、アリスの身を最優先に守る。それが、花菱緋羽莉の変わらぬ愛情のかたちだった。


「ぷはっ! ……もう、緋羽莉ちゃんってば」


 アリスはようやく顔を上げ、胸元から抜け出して、下から見上げてくる緋羽莉と目を合わせ、苦笑する。


 突然の抱擁に、一瞬息が詰まりかけたにもかかわらず――アリスは、それを嫌だとは思わなかった。むしろ、ほんのりとうれしさすら感じている。


 やわらかな感触と、あたたかなぬくもり、そしてほんのり甘い香り。それらすべてが、彼女の心をじんわりと満たしていくのだった。


「敗者復活戦、突破おめでとう!」


 そんなアリスに、緋羽莉は満開の笑顔で応えた。


 校庭の砂にまみれながらも、地面にひろがる緋色のポニーテールは燦然と輝き、汗と朝日に照らされた健康的な肌はつややかにきらめく。年相応の愛らしい笑顔が、その輝きをいっそう引き立てていた。


 あおむけに倒れたままの緋羽莉は、少し息を弾ませながら、アリスを見上げている。乱れた服の胸元からはやわらかな谷間がのぞき、上下するたびにその曲線が静かに揺れた。


 汗ばんだ肌に朝日が反射し、つやりとした光を帯びている。その表情は無防備で、それでいてどこか大人びた色気を感じさせた。


「わたしのほうこそ、応援してくれてありがとうっ!」


 アリスはたまらず、がばっと緋羽莉を抱き返し、そのやわらかなほっぺに自分の顔をすり寄せる。まるで仲良しの子犬同士のように、ふたりは校庭の上で無邪気にじゃれ合った。


「あー、おほん!」


 そこへ、半ばあきれたような半目で見ていた閃芽が、わざとらしく大きな咳払いをした。隣にいるりんごも、苦笑いを浮かべている。


 アリスと緋羽莉はびくっとして動きを止め、名残惜しそうにハグを解き、ゆっくりと立ち上がった。もちろん、体の大きな緋羽莉がアリスをそっと支えながら起こしてあげる。


「いちゃつくのは結構だけど、そういうのは優勝してからにしたほうがいいんじゃないかな?」


 閃芽は不機嫌そうに頬をふくらませ、ぷんすかと言った。隣でりんごも、静かにうなずいている。


「あはは……ごめんね。つい、うれしくなっちゃって」


 緋羽莉は、少し照れたように笑いながら頭をかいた。


 さっき倒れ込んだせいで、ポニーテールは少しほどけかけ、前髪もふわりと乱れている。額には細かな汗がにじみ、頬はほんのり赤い。その無造作な乱れ具合が、かえって彼女の素直さとやわらかな魅力を引き立てていた。


 大きな手で髪をかき上げるしぐさも無防備で、思わず見とれてしまうような愛らしさと色っぽさが同居している。


「ふたりとも、体育館に行く前に、きれいにしたほうがいいよ。砂で汚れちゃってるよ」


 りんごはやさしく指摘する。


 地面に倒れ込んだ緋羽莉はもちろん、アリスの服や髪にも、ところどころ砂がついていた。


「ああっ! ごめんね、アリス! アリスが汚れないように気をつけたつもりだったのに! わたしってば、まだまだ修行不足だよ~!」


 緋羽莉はアリスの両肩をつかみ、もうしわけなさそうに何度も頭を下げる。その必死さに、そこまで気にしなくてもいいのに、とアリスは思わず苦笑してしまう。


「すぐ、きれいにしてあげるからね! ヨシノさん!」


 緋羽莉はスマートウォッチを操作し、桜の大妖精【グランフェアリー・ブロッサム】のヨシノを呼び出した。


 ふわりと舞い上がるピンクの光の粒子が、くるくると円を描くように集まり、その中心からヨシノがゆっくりと姿を現す。しなやかな体をひねりながら優雅に回転し、最後は片足を軽く引いて腰を落とす、舞うようなポーズでぴたりと静止した。


 やわらかなドレスがふわりと揺れ、その曲線的な体つきと豊かな胸元がさりげなく強調される。成熟した女性らしい気品と、思わず目を引く色香が同時に漂っていた。


 ふわりと現れたヨシノは、いたずらっぽく片目をつむると――ふうーっ、と桃色の吐息を吹きかける。


 その吐息はやがて桜色の春風へと変わり、やさしくアリスと緋羽莉の体を包みこんだ。風に巻き上げられ、金色の長い髪と緋色のポニーテールがふわりと舞う。


 さらさらとした風が撫でるたび、砂粒はふわりと浮かび上がっては消えていく。小柄なアリスの体からは軽やかに汚れが離れていき、対して長身の緋羽莉のしなやかな肢体をなぞる風は、ゆっくりと丁寧にその全身をなぞっていくようだった。


 撫でられるたびに、緋羽莉はくすぐったそうに肩をすくめ、ふっと小さく息をもらす。その頬はほんのり赤く染まり、どこか心地よさに身をゆだねているような、やわらかな表情を浮かべていた。


 さらさらと心地よい風が通り過ぎたあと――ふたりの体についていた砂汚れは、すっかり消えていた。


 むしろ、さっきよりも少しだけさっぱりしているようにすら感じられる。花の香りもおまけつきだ。


「ありがとう、ヨシノさん!」


 緋羽莉がにっこりとお礼を言うと、ヨシノは優雅にほほえみ、その大きな手の甲にそっと口づけをした。


 やわらかなくちびるが触れるそのしぐさには、どこか儀礼的な意味合いだけでなく、主である緋羽莉への深い信頼と愛情がにじんでいるようだった。ほんのわずかに艶を帯びたそのくちびるは、触れる寸前で名残を惜しむようにゆっくりと離れ、見る者の視線を引きつける色香を漂わせる。


 その後、光の粒となってウォッチの中へと戻っていった。


「あ、そうだ! アリス! ブルーとモモも、呼んでくれないかな?」


 何か思いついたように、緋羽莉が声をかける。


 それにうながされて、アリスもスマートウォッチから【セルリアンドラコ】のブルーと【モモイロハネウサギ】のモモを呼び出した。


「さっきはありがとうね、ふたりとも。おかげで敗者復活戦、突破できたよ」


 アリスはしゃがみ込み、ねぎらうようにやさしく声をかけながら、ふたりの頭をなでる。


 ブルーとモモは、ふにゃりとした笑顔を浮かべながら、その手に身をゆだねていた。がんばってよかった、と心から思える瞬間だった。


 すると、緋羽莉もそっとしゃがみ込み、慈しむようなまなざしでふたりを見つめながら言った。


「ふたりとも、だいぶ疲れてるでしょ。本戦がはじまる前に、ジェルマッサージしてあげるよ」


 その言葉を聞いた瞬間――ブルーとモモのつぶらなひとみが、ぱっと輝く。


 まるで「え、本当に!?」と言いたげに、期待に満ちた表情を見せた。


 昨日の冒険で体験した、緋羽莉のヒーリングジェルによるマッサージ。その気持ちよさが、すっかり忘れられなくなっているのだ。


「ありがとう、助かる!」


 アリスも笑顔でうなずいた。これでふたりは万全の状態で本戦に臨めるし、なにより最高のごほうびにもなる。


「ふふふっ、まかせて」


 緋羽莉はやさしくほほえむ。その表情には、どこか母性的なぬくもりがにじんでいた。


 ――その胸の内では、敗者復活戦の最中にふと浮かび上がった、"トレーナー"という新たな可能性の言葉が、静かに、しかし確かに渦巻きはじめているのだった。


 緋羽莉はふっと目を閉じ、胸の前でそっと手を重ねる。まるで祈るようなその姿勢の中で、心の奥に浮かぶのは――誰かを支え、寄り添い、ともに高みへ進んでいく自分の姿。とくに、その中心にいるのは――やはりアリスだった。


 やわらかな息遣いとともに胸元が静かに上下し、その穏やかな横顔には、未来を思い描くような静かな熱が宿っている。無垢さと女性らしさが入り混じった、ふしぎな美しさがそこにあった。


 そんな緋羽莉の想いをよそに、アリスは、いったんブルーとモモを彼女に預けると――本戦会場である体育館へ向かって、力強く歩き出すのだった。

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