あれから三年と四日目(5)
先輩は難しい。
いよいよ声をかけても振り向いてすらくれなくなってしまった後輩の背中にそう思う。
原因ははっきりしている。
僕が彼女より弱いから。先輩としての威厳がないから。僕に尊敬するだけのものが何もないから。
だから、彼女は僕の言うことを何も聞かないし、僕の方を見向きもしない。
さっき迷宮生物に囲まれたときも結局僕は何もできなくて、全部彼女が一人で倒してしまった。
あげく「……怪我は?」なんて心配される有り様。怪我をしていたのは彼女の方で、慌てて回復魔法で少しでも治そうとしたら「これくらい大丈夫。それより、邪魔だから引っ込んでて」なんて言われてしまった。仕方ない。実際、僕は慌てるだけで何もできなかったのだから。
そんなダメダメな先輩を先輩としての敬えというのは無理な話だ。
きっと先輩達ならうまくやるのだろう。
実力も人としての器も兼ね備えている先輩達なら、きっと彼女とうまく接して尊敬されて、そして彼女も信頼を預けることができる。
こんなことなら、先輩達に少しでも先輩としての振る舞い方の一つでも教わっておけばよかった。
先輩は難しい。
◇◆◇◆◇
ちょっと不味いかもしれない。
さっき囲まれたときに無茶な戦い方をしたせいでメリッサ姉に貰った指輪にヒビが入ってしまった。これは私の魔族の部分の特徴、角や羽なんかを隠してくれる魔法道具。もし、これが壊れたらさっきから視線がうるさい奴に私が魔族と人間のハーフだとバレてしまう。
そんなことになったらきっと凄く怒られる。特にユーリ兄が怖い。前にマスターのベッドに潜り込んでマスターが来るのを待っていたらユーリ兄が入ってきて「これは罰だよ?」って言いながら両腕の骨を折られたことがある。
悶え苦しむ私を見ながらユーリ兄は「あんまりうるさくするとルークが来ちゃうでしょ? 静かに」となんでもないような顔をして言った。普段は優しいけど、マスターが絡むと途端に頭のネジが全部弾け飛ぶからほんとに怖い。
もし、ユーリ兄が帰ってきた時にマスターに迷惑をかけたなんて知られたら……考えただけでも体があの時の折れた腕の痛みとあの時のユーリ兄の目を思い出して震えてしまう。
とにかく、ここから先は指輪が壊れないようにできるだけ戦闘は避けて――
「ガルル……ッ」




