あれから三年と四日目(3)
迷宮の話はマスター達から何度か聞かせてもらったことがある。
でも、どんなところかはいまいち分からなかった。
だって、レイン兄とアリス姉は雑魚しかいないとしか言わないし、メリッサ姉はちょっと複雑な迷路みたいなものと言って詳しいことは教えてくれない。
マスターはマスターで迷宮生物の美味しい食べ方しか教えてくれないからやっぱりよく分からない。
ただ、それでも「ここ」が教えてもらったような場所でないことだけはよく分かる。
レイン兄とアリス姉は雑魚しかいないと言っていた。嘘つき!
メリッサ姉はちょっと複雑な迷路と言っていた。私の知ってる迷路は勝手に道が変わったりしない!
マスターは人型の牛の迷宮生物の肉はとても美味しいと言っていた。牛の迷宮生物はたしかにいたけれど、マスターに聞いた話と違って肌は紫色だし腕は四本あるし目は八個もある。マスターには人間がどんな風に見えているんですか!
「ま、待ってよノアちゃん!」
ただでさえ、思っていたより大変な依頼でちょっと泣きそうなのに、それを一層大変にするのがこの先輩面している雑魚。
私より弱い癖にあーだこーだと指図してくる。鬱陶しい。
「一人で勝手に進んだら危ないよ。ちゃんとお互いにカバーできる距離でお互いを守りながら――」
「私は強い。だから大丈夫」
「あ、ちょっ、ノアちゃん!」
鬱陶しい。鬱陶しいから死ねば良いのにと思うけど、本当に死んでしまったらきっとマスターは悲しむ。それどころかマスターが私がこいつを巻き込んだと気づいたら私を嫌いになってしまうかもしれない。それは困る。凄く困る。だから、死なせるわけにはいかない。
「ん……」
グルル……と唸り声をあげながら曲がり角から三つ目に角を生やした紫色の狼のような迷宮生物が二匹。
とてもすばしっこいうえに爪や牙は壁に穴を開けるような威力の攻撃をしてきて強い。狭い通路で相手をするのは嫌な相手。
ここは一度退いて体勢を整えるべきかもしれない。
「……っ。ノアちゃん……」
うるさい奴。そう思って振り向くと、来た道から件の狼が追加で三匹でてくるところだった。




