あれから三年と四日目(2)
マスターはたまに寝坊することがある。
本人は絶対に認めようとしないけど、先輩達が元々マスターは朝に弱いのだと言っていた。
それでも僕を出迎えるために無理をして起きてくれていることには感謝しかないし、そこまでして僕向けの依頼の選抜をしてくれていることには感謝してもしきれない。
だから、マスターがいつも座っている椅子にいないのを確認しても最初は「今日は寝坊の日なんだな」くらいにしか思わなかった。
でも、今日はいつもと少し違った。
具体的にはいつもは誰もいない六人がけのテーブルに見覚えのない女の子が座っていた。腰まで伸びた長い黒髪に吸い込まれそうなほどに黒い瞳、人形みたいに整った綺麗な少女。マスターと同じ髪と目の色だから妹とかかなと思ったけど、そんな話はマスターからも先輩達からも聞いた覚えがない。
どうにも声をかけるのは憚られて、どうしようかと悩んでいると不意に彼女の視線が僕に向いた。
「何やってるの? 早くこっちに来て」
バカにしたように鼻で笑うと彼女は言った。
名前はノア、今日からこのギルドの一員になるらしい。つまり、僕の後輩というわけだ。
……マスター、こういうことはちゃんと言っておいてください。もしかして、僕がきちんと先輩としての振る舞いができるかどうかのテストも兼ねてますか?寝坊のフリですか?
「先輩、マスターから依頼を預かってる。行こう」
わざわざ依頼が用意されている。やっぱり、これはマスターが僕に課したテストと考えるべきか。
それにしても……先輩。なんというか、むず痒いけれど、凄く良い響きだ。




