五十八日目
「魔王城、燃やしましょう。塵も残らないように」
最初にあの男がそう言ったときは我のことを騙すつもりなのかと思った。
話の全てを聞いたときはそこまでするのかと呆れた。
しかし、今となってはその話を受け入れるしかなかったとはいえ、受け入れてよかったと思える。
きっとこれから、魔族はこれまでのように、これまで以上に平和に生きることができる。我のような愚かな魔王ではなく、経験も力も兼ね備えた六魔帝の導きによって。
「……お兄様。これで、本当によかったのですか?」
か細く不安を滲ませた声でリアは尋ねる。
燃える魔王城を一目見て、それから不安そうに見上げるリアの頭に手をおいて、一度だけ静かに頷く。
「……あぁ、いいんだ。我は、魔王の器ではなかった。今回の件でそれがよく分かったよ。きっと、六魔帝ならば奴らの甘言に踊らされることもなかったはずだ」
あの男の提案は、勇者達と我、そしてリアの死を偽装するというものだった。
すでに六魔帝の半分を失い、それに加えて我が死ねば、魔族にはもう戦争を続けるだけの余力も理由もない。
加えて人間は人間で魔族が退いたとしてもすぐに攻撃に転じられるような状態ではない。そもそも、人間は魔族と比べても同じ種族同士での争いが多いため、弱ったところを襲われないように自国の回復を最優先する。もし、そうならなかったとしてもその時は我が正体を隠して魔族を守ればいい。
あの男にはそう言われた。
そして、そのための舞台として、塵すら残らないほどの圧倒的な火力で燃やし尽くされる魔王城を要求した。
「そこまで燃えた城なら、俺達の遺体が残らなくても不思議じゃない。魔王様も死骸なら燃えるでしょうし、聖剣で魔王様が着てる服の欠片でも貫いて、あとは聖剣の鞘を転がして血のあとでも残しておけば勝手に誰かが推理してくれますよ。勇者パーティは魔王を打ち倒したものの炎から逃げきれずに死んだ、とかね」
リアに手を伸ばす。
手を取った彼女の手を引いてずっと共にあった城に背を向ける。
「それはそうと、あの勇者達が持っていた仮面、奴らが持っていたものによく似ていたな……。いや、どうでもいいことか」




