五十五日目
人間の住む大陸には「ギルド」と呼ばれる組織がある。
国の手の及ばない個人の問題を「依頼」という形で民が持ち込み、それを冒険者と呼ばれる存在が引き受けこなすことで成り立つ仕事。そして、そのような関係性からギルドで働く冒険者は「民の奉仕者」と呼ばれている。
以前、奴らから聞いた話だ。
奴らは続けて言った。
しかし、ギルド全てがそうではない、と。
依頼には種類がある。なかには倫理的に受けるべきでない殺しや誘拐といった依頼も存在する。
そのような依頼を受けるギルドが「民の奉仕者」であるわけがない。ゆえに、そのような倫理観を失ったギルドは「グレーギルド」と呼ばれる。
そして、グレーすら生温い、依頼とあればそれが「何であろうと」実行するギルドもまた存在する。
闇ギルド、清らかだった器。奴らは自らをそう名乗った。
我にこの戦争を提案したのも、それが奴らの「依頼」に繋がるからに過ぎない。
……我は、奴らの言葉に耳を貸すべきではなかった。
成果を急ぐべきではなかった。悔いても遅いとは分かっていても、それでも思わずにはいられない。
人間を侮った。奴らを侮った。勇者を侮った。たとえ、聖武器を持った者が現れたとしても我には届かないと。たとえ、何が敵になろうと我には届かないと。
その結果がこれだ。
我は、あの勇者には恐らく勝てない。
そして、我が死ねば人間達はそれを契機に我ら魔族を滅ぼすだろう。
唯一我らが滅ばずに済む可能性であったあの男との交渉もまるで意味がなかった。意味がないどころか、最後には怒りすらかってしまった。
……全て、我のせいだ。
我のせいで……魔族は……。
「……あー、その、魔王さん。その……先日は、すみませんでした。あの……ちょっとお話をしたいんですけど」
その男は、我の配下に首に刃を向けられながら両手を挙げて、まるで無力な子供のような顔をして再び我の前に現れた。




