五十三日目
魔王に呼び出された。筋骨隆々のおっさんをイメージしていたけれど、見た目同い年くらいの黒と白の角が生えたイケメンだった。
では、そんなイケメン魔王が俺に何の用か。
結論からいうと、魔王軍に寝返らないかという勧誘だった。
まぁ、気持ちは分かる。あんなめちゃくちゃな奴らと戦いたくないよな。何がめちゃくちゃってあいつらあれだけのことやっててまだ全然本気を出してるって感じじゃないんだよね。本気とか出したら世界滅ぶんじゃないだろうか。もはやどっちが侵略者か分かったもんじゃない。
と、まぁ、気持ちは分かる。
その勧誘のために俺を牢獄から出して部屋と自由なんて高待遇を与えたのだろうということも。
もちろん断ったけど。
そもそも、魔族の味方をするメリットがどう考えたってあいつらにない。ここで寝返って手に入るものは全て寝返らなくても手に入るものばかり。しかも、寝返って用済みになったら十中八九始末されるおまけつき。
もっとも、これに限ってはどのみち不敬罪のせいで似たようなものだけど、人間だらけの世界で素性を隠して生きていくのと、魔族だらけの世界で素性を隠して生きていくのとどちらが簡単か。考えるまでもなく答えは見えている。
百害あって一利無しが魔王の提案だ。いくら俺が凡骨とはいえ、そんな提案をのむわけがない。
なら、せめて敵対だけはしないで欲しい。
こちらに勧誘を受け入れるつもりがないことを理解すると次に魔王はそう提案してきた。つまりあれだ。ユーリ達を止めてくれということだ。
どうにも勘違いがあるようだけど、先に仕掛けたのは魔族達。それがいざ勇者に殺される可能性がちらついたら、戦うのはやめようなんてそんな理屈が通るとでも思っているのだろうか。
こちらに得るものがあるわけでもないし、むしろユーリがいなければこれまでと同じように魔王軍の侵略は進んでいってやがては魔王がこの世界を支配する。そんな提案にのるわけがない。
全ては我の責任だ。我の軽率な判断が現状を招いた。それでも我が魔王である以上、民だけは守らなくてはならない。だから、どうか……。
ことごとく提案を蹴って、それで残ったのは泣き落としとも言えるようなこれ。
お前、それお前が侵攻を始めたせいで死んだ人間の家族の前でも同じこと言えるの?
それ以上は一言足りとも話す気になれなかった。
そもそも、こんなのは会話とすら呼べない。
あー、それと、人の日記の中身勝手に見るのはやめておいた方がいいと思いますよ、魔王さん。




