五十二日目
「日記を書けないと頭がおかしくなるただの狂人かと思っていたが……さすがはあの勇者を従わせる男、ということか」
その日記を読んで我は思わず頭を抱えた。
はじめから、奴らの言葉を鵜呑みにしていたつもりはない。勇者が現れる可能性も、それに苦戦を強いられる可能性も折り込み済みで、そのうえでたとえ奴らが裏切ったとしても奴らごと叩き潰せると判断して始めた戦争だった。
とんだ誤算だった。あんな化け物のような強さの勇者とその仲間がいるなんて聞いていないし、想定もしていない。
そもそも、本当にあいつらは人間なのか?あのような明らかに人間の枠を越えた動きをする者を本当に人間と呼んでいいのか?
いや、そんなことはどうでもいい。
今はそれよりいかにしてあの化け物勇者との対峙を避けるかを考えるべきだ。
闇帝の命を代償にしてまで確保した勇者パーティのリーダー。
なんとしても丸め込んで、我ら魔王軍に引き込む、そこまではいかずとも、せめてあの化け物勇者と敵対しなくても済むようにしなければ。
人質などと、あの男を交渉材料に勇者を始末しようと考えたこと自体が間違いだった。
我の判断ミスが炎帝を殺し、雷帝にあれだけの傷を負わせてしまった。
もう失敗は許されない。
ここに勇者達が辿り着くまでに始末するなどと奴らは言っていたが、それを信用などするわけにはいかない。
確実に勇者からの敵意を削ぐ手段をとらなくてはならない。
なんとしても、あの男を丸め込んで協力関係を結ばなければ。
城に来てまだ数日にも関わらず、すでにこの戦争と状況に違和感を抱くような男だ。生半可な嘘を吐けば間違いなく見抜かれ、協力関係を結ぶなどということは不可能になるだろう。
それだけではない。下手をすれば、闇帝を殺したときのような正体も不明の謎の攻撃を仕掛けられかねない。闇帝は我のもとに拉致の成功を報告した際、あのような化け物集団を纏めるにしては全く力を感じることのない凡人だとあの男を評価した。そして、それから一時間もしないうちに謎の攻撃によって肉片へと姿を変えられた。
侮ってはいけない。勝負をしてはいけない。あれは、きっとその気になれば一瞬で我をも殺すことのできる化け物に違いない。だからこそ、あの化け物勇者もあの男には従っているのだ。
奴の怒りを買わず、嘘も謀もなしに、たとえどれだけみっともない姿を見せることになろうとも協力関係を取り付けなければならない。
魔族を、国を守るために。
それが、魔王としての我の責務だ。
全部違うよ。




