四十八日目
書き置きだけ残して、半ば拉致のような出発だったけど、一つだけ良かったと思えることがあった。
好きなだけ眠ることができることだ。
好きなだけ寝て好きな時間に起きる。村にいた頃は誰かしらに叩き起こされでもしない限りは思う存分寝ていたけれど、アルマさんの指導を受けるようになってからはそういうわけにもいかなくなっていた。早寝早起きの健康的な生活も悪くはなかったけれど、やっぱり俺には好きなだけ惰眠を貪る生活の方が向いている。
起きたときに、揺れる馬車で幼なじみに「おはよう」なんて言われて起きる日々も決して悪いものじゃない。
好きなだけ眠りすぎて「おはようお寝坊さん。もうこんにちはの時間だけどね」なんてユーリにからかわれる日もあるけど、それだって別に悪い気はしない。
でもさ、起きたら馬車のなかで生首がこんにちはしてるのはちょっと許せないよね。なんなの、この馬車世紀末なの?
目を開けると、恐怖に見開かれたように見える生首が正面の席に転がっていた。ばっちり目があってしまった。
のそのそと馬車の外に出ると日はすっかり昇っていて、空腹具合からそろそろ昼時なのが分かった。けど、馬車の周りに散乱している魔族の死体の数々はマジで意味分かんなかった。
親の顔よりよく見た返り血まみれの姿で手を振るユーリに話を聞くと、簡潔に魔族が襲ってきたとだけ返ってきた。そんなもん見りゃ分かる。
詳しく話を聞くと、なにやら魔王軍の幹部直属の配下が俺が寝ている間に奇襲を仕掛けて来たらしい。
魔王軍には「六魔帝」と呼ばれる六名の幹部がいて、それぞれがそれぞれに直属の五名の配下を従えている。昨日、こいつらが蹂躙した魔族のなかにその配下の一人がいて、今日はその仇討ちとして残りの四名が奇襲を仕掛けてきたというのがことの次第。結果は馬車と馬車の周囲に散らばった肉片を見れば察しがついた。
他の面々の姿が見えないのでどこに行ったのかと尋ねると、俺が起きたときに備えて食材を集めるために他の三人はユーリが魔王軍幹部直属の配下の四名と一人で戦っている最中に森に行ったらしい。
明らかに割く人員の割合が逆なんだよね。
言うと「独り占めできて僕は嬉しかったけど?」と返ってきたのでたぶんもうこいつとは分かりあえない。




