三十四日目
朝、扉を開けると第三王子がいた。
凄いピンピンしてた。こいつも大概人間やめてる。
ランニングをしながら聞いた話によると、この数日間生死をさまよったものの今は全然大丈夫らしい。生死をさまよってる時点で何も大丈夫じゃないし、心なしか護衛の人が俺に向ける視線がこれまで以上に厳しいものになってるので帰って安静にしててほしい。なんて言ったところで当然聞かない。
しかたないので世間話がてら少しアルマさんの指導方針が変わったことを告げると案の定食いついた。続けて第三王子の昼飯を作る時間が無くなったことを告げるとこれまた予想通りにこの世の終わりみたいな面で絶望していた。
それでも、肉体的にも精神的にもアホみたいにタフネスなのか、切り替えると自分も参加すると言い始めた。断る理由も断れるだけの権利も俺には当然無い。どうせ断っても着いてくるのが目に見えているし。
そんなわけで最初に走り始めた頃と比べるとかなり手慣れたランニングと基礎トレーニングを終え、アルマさんとの約束の場所へ。
昨日は初日から酷い目にあった。
なにしろアルマさんは常識がどうにも欠落している。まずは壁を垂直に走るところを目標にしましょう!とか言い出した時はいよいよ頭がおかしくなったのかと思った。「まずは」の意味を調べてから使って欲しい。便利ですよ?じゃないんだよ。最初からそんなことできるわけねぇだろ。
と、そんなわけで崖を下り、川を越えた先にある岩場までをアルマさんの指定した時間までに移動するということになったのだけど、これがまためちゃくちゃだった。なにしろ俺はまだ指定された時間の三倍以上の時間をかけないと岩場までたどり着くことすらできていないのだ。
お手本としてアルマさんが見せた崖を垂直落下して水面に僅かに突き出た岩を足場に岩場までたどり着くという荒業を見せられた時は大人しく壁を走る練習しとけば良かったと後悔してしまった。
せめてまずはなんとか俺に可能な動きで指定時間の二倍までに抑えたい。そんなことを考える俺の隣でふむふむと第三王子は地形を確認。
俺はいつもの王子にすっかり忘れていた。こいつ、頭はあれだけど身体能力はすこぶる高いのだ。
迷わず崖から飛び降りて、そのまま壁を蹴り飛ばして川をショートカットしてアルマさん以上のタイムで岩場まで王子は辿り着いた。
そうなってくると安全に自分のできる動きでとか言ってるのがバカらしくもなってくる。
そもそも、俺だって毎日走ったりして多少は前に比べて動けるようになってるはず。
そんな感じで飛び降りて、普通に崖から伸びていた太い木の枝に体を串刺しにされてやっぱり俺には無理だなって思った。
どいつもこいつも化け物過ぎる。




