三十二日目
そろそろ、逃げるための技術について教えて欲しい。
今日の午後、待ち合わせ場所で欠伸をしながら待っていたアルマさんに開口一番そう告げた。
それに見合うだけの基礎体力がついたかと問われれば、顔をしかめるしかないのだけれど、そうも言っていられないのが今の俺の置かれた状況だ。だって、それしかないし。考えれば考えるほどにあいつらが魔王討伐に行くまでに穏便に村へ帰るって発想が現実味のないものかよく分かる。そうなれば、あとに残るのは選択肢とも呼べないめちゃくちゃにしんどいそれだけ。
言えば、ほんの一瞬きょとんと呆けたような顔をして、それからニコニコと嬉しそうに笑ってアルマさんは「やっと、それしかないって気づいてくれたんですね。えへへ、ほんとは気づいてるのに私には頼りたくないって意思表示かと思ってました。あと、三日遅かったら……へへ」とか言ってて怖かった。あと、三日遅かったらどうなってたんですかね。
ひとまず、今日は口頭でこれからやることの説明をしてもらった。
具体的な計画は今日中に纏めて明日には教えてくれるらしい。
逃げるための技術。
アルマさんが俺に教えてくれるそれは主に二つの技術から成り立っている。
一つは道無き道で道を見いだし走る技術。
言われてもいまいちピンとこなくて首を傾げていたら「こういうものですよ」と言ってアルマさんが窓から飛び降りてそのまま壁を走って外に降り立った。たぶん、俺には無理な気がする。なんか、選択肢を増やすことと目的地への最短距離の更新に使えるって言われたけど、あんなの絶対無理だ……。外に出るときは階段使おうよ……。
そして、もう一つは気配を隠す技術。
これはまだ想像がついた。存在感を消して、見つからないようにするようなそんな感じの技術だろう。
そう思ってアルマさんに言うと「半分正解、半分不正解ですね」と返された。それから突然ハンカチを放り投げる。自然、そちらに注意が向き、次に注意をアルマさんに戻したときにはもうアルマさんの姿はそこにない。どこにいったのかとキョロキョロする俺の両目にスッと後ろから手が当てられた。
「視覚だけでは足りません。五感全てを騙しましょう」
そういうことらしい。
できる気がしない。
というかこの人ほんとに料理人だよね?




