二十日目
村にいる頃は、それほど本を読む機会はなかった。
というか、そもそも村にはそこまで本と呼べるような代物がなかった。本を売っているような店もなかったし。自発的に手に入れようと行動しない限りは手に入るような物ではなかった。
だから、たまに本を読みたいと思った時は、メリッサの家に行ってこれがいいあれがいいとあれこれ勧められながら読んでいた。
本を読みながら、時折窓の外の景色なんかを眺めると、普段と何も変わらないはずなのに、なんだかそれが酷く特別なものに思えたものだ。
村だろうが町だろうがそれは変わらない。
本を読み続けて、知識を貪り続けて、そろそろ限界だと訴えるようにズキリと頭と目が痛んだ時、唐突にそんな昔のことを思い出した。
時計を見ると午後の勉強を始めてから一時間ほどが経過しており、チラリとアルマさんに視線を向けると、いつもはかけていないのに、なぜか眼鏡をかけて口元に薄く笑みを浮かべて何やら本を読んでいるようだった。読書歴の差だろうか。俺と違ってまるで疲れた様子はない。もしかして、眼鏡をかけると目が疲れなくなるのかしら。
なんてバカなことを考えて、それから窓の外に視線を向けた。まだ、もう少し、本を読む気にはなれなかったのだ。
もう少しだけ、何をするわけでもない穏やかで無駄な時間を過ごしたかった。
だから、外に目を向けて、そして後悔した。
「アッハハ!! 師匠、師匠師匠師匠!! まだまだ……っ。まだまだ僕はこんなものじゃないんです!!! もっと! もっとやりましょう!!! 斬りあって、殴りあって、撃ちあって、殺しあって、果てあわないと……!! アハッ!」
訓練用の木剣が砕け、魔力が尽き、それを心底楽しんで師に殴りかかる幼なじみの勇者君の姿がそこにはあった。
うーん、村の自然豊かな景色が懐かしいなぁ……。つーか、なんであいつ目血走ってんの?あれ、ほんとに勇者?狂人の間違いじゃない?
「……っ!? あっ!!」
バッとこちらを向いた……気がした。
見ているだけでSAN値が削られそうな惨状だったので、俺が目を逸らした瞬間、窓の外のユーリと一瞬だけ目が合った気がした。
窓を閉めて、カーテンも閉めて、それからさっき読んでいたページから本を開く。
そこから先の勉強は休憩が良い作用をもたらしたのか凄く捗った。
けど、なぜかずっと誰かに見られているような気がしていた。




