契約②
あの後、レイモン様と2人で条件を煮詰めた。
「色々詳しく決めておこう」
「そうですね……。急な取り決めとはいえ、万が一ということもあるでしょう。何せ相手はあのバイエルンですから。念には念を入れて置いた方がいいです。」
話し合い、以下の約束を決めた。
・契約期間は姫がこの国を去るまで。
・解消する場合は事前に申し出ること。
・偽装恋人であることは、決して人に明かさないこと。
本音を言えば、契約期間はいくら長くても良かった。
だが、これ以上は迷惑はかけられない、という彼の申し出を断ることかできなかった。
あくまでも、お二人のためのカモフラージュの恋人役なのだから。
私の本心など、口にできるわけがなかった。
しかも、国の命運が絡みかねない婚姻だ。私情で、これ以上掻き乱したくなかった。
条件が決まりかかったところで、さらに彼がもうひとつ付け加えた。
「姫とふたりで会わない事を、条件に加えてくれないか?」
「それは……どうしてですか」
「万が一だ。俺が自棄を起こさないとは限らないだろう。」
「……わかりました。私がいる時にだけ、お会いするようにしましょう」
真面目な彼が、そんなことをよぎるほど思いつめていたなんて。
それほどに、姫様のことを想っていたのだろう。
胸の奥が、またちりちり焦げ付くように疼いた。
「……でも、レイモン様ならそんな事なさらないと、私は思いますけどね」
そういうと、レイモン様は気まずそうに視線を逸らした。
「……どうして、そこまでして下さるんだ?」
「……昔、新人だった頃。レイモン様に元気付けられたことがあったんです。」
「私が?」
「覚えていらっしゃらないかもしれませんが、それでも私にとって仕事を続けるきっかけになったんです」
「だから、姫様と恩義のあるレイモン様に、恩返ししたいんです。」
「……そうか。その、迷惑をかける。俺が情けないばかりに……。だが、本当にありがとう。なおさら、君の信頼に答えないとな」
そう彼はさっきより元気を戻したような様子で答えた。彼は少し自分を立て直すことが出来たようだ。
少しでも、元気付けられたのなら良かった。
偽装とはいえ、人目を避けていては不自然だ。公にした方が、姫様とレイモン様を守る隠れ蓑になる。
だから私たちの関係を、翌朝、城のみんなにも打ち明けることにした。
輿入れの関係で、人員移動があるだろう。早めの方がいいだろう。
そしてレイモン様と別れた。
ベッドに腰を落ち着ける。
「…待って、私今日おかしな事をしでかしたんじゃない?」
レイモン様と別れたあとのことは、全く覚えていない。
「一介のメイドが国を揺るがす危機を手助けしようなんて、どうかしてたかも」
でも。
「……どうしよう。」
舞い上がるほどに、嬉しくてたまらない。仮初の関係だとしても。
「……恋人になっちゃった。」
部屋に立てかけてある、鏡を覗く。変わらず可愛げのない、平凡なメイドがこちらを見返していた。
「……うぬぼれてはダメよ。あくまでもお二人のためなのだから」
レイモン様が、姫様を深く愛していることを今日改めて思い知らされたばかりじゃないか。
でも、はやる心臓は抑えられなくて、いつまで経っても眠れそうになかった。
明日から1話ごとに更新する予定です。




