表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/24

15.湖のほとりで


 私たちが付き合い始めてから一ヶ月半が過ぎた。


 あれから婚姻の準備が更に忙しくなり、お二人が逢える機会もずっと少なくなってしまった。


 ナターシャ様からも手綱を握っているようにと言われた以上、下手に目立つようなことは出来ない。

 

 ……これからどうしたらいいのだろうか。

 

 ひとまず、私たちの仲をアピールしつつ、その先を考えなければならない。


 その第一歩として、昼食を一緒に取ることにした。

忙しい中でも、仕事の合間に少しでも話し合う時間が欲しかったからだ。


 まずは時間の調整をしてもらおうと、同僚に話しかける。


「ちょっと相談があって……」


 すると彼女は、私の頭に目線を向けるやいなや、瞳をぱっと輝かせた。視線の先には、レイモン様から頂いた髪留めがある。


「もしかして、恋の相談?」


 いつの間に広まっているんだろう。嘘の関係であることも相まって、いたたまれない気持ちになる。

 

「……そうなるのかな。髪留めのこと、もう知ってるんだ」


「ミーナから、この前のこと聞いちゃってさ。あまりにも楽しそうだったから」


「 ……そうなの」


 ミーナの口は羽よりも軽い。


「それで、何かしら」

 

 お昼の時間を調節して欲しいというと、快く了解してくれた。

 どうして、と尋ねる。すると同僚は内緒ね、と声を潜めるのだった。


「実はね——姫様に『二人の仲を応援して!』と頼まれたの。私の事で、あなた達が遠慮するのは嫌だって」

 

 この前も同じような事を仰っていた。姫様が気を遣って下さることなど、何もないのに。

 そのお気持ちが嬉しい反面、お忙しい時期にまで気を遣わせているのが申し訳なかった。

 

 気は引けるが、こうして顔をあわせる機会を頂けたのはありがたかった。

 

 ——そうして、しばらくは昼休みにレイモン様と過ごす時間を作れそうだった。


 レイモン様と待ち合わせ、湖のほとりへ向かう。

既に彼はいつもの場所に腰掛けていた。思えば、ここで契約を結んだ時も彼はここにいた。

 

 レイモン様は、遥か遠くを見つめるように思いを馳せていた。その見つめる山々の向こう側に、姫様が嫁ぐ国がある。


「レイ様、こんにちは」


「来てくれたか」


 私の姿を認めると、少しだけ柔和な笑みを浮かべられた。


「今日はいい天気だな」


「そうですね……こんな日は泳ぎたくなります」


「君は泳げるのか」


 気が緩んで、つい本音をこぼしてしまう。泳げるなんて、はしたないと思われただろうか。


「……す、少しだけ。故郷に大きな川があったので……。それに、今は泳げるか分かりません」


「小さい頃から泳げたなんて、凄いな……。私は、泳げなかった」


 レイモン様は特に気にする様子もなく、ただ感心されたようだった。


「レイ様は湖がお嫌いなんですか?」


 そう尋ねると、彼は考え込むように動きを止めた。


「……レイ様?」


 何か、良くないことを言っただろうか。心配して顔を見ると、彼は静かに口を開いた。

 

「……昔、姫様がこの湖で溺れかけたんだ」


「そんなことが恐ろしいことが……。姫様はご無事だったんでしょうか」


「……幸い、直ぐに飛び込んで助けてくれる人がいたんだ」


「それは……本当によかったです」


「君は……」


「もしかして、騎士になりたいと思った理由って……」

 

 そういうと、レイモン様は驚いたように固まった。


「……よくわかったな」


「お伺いしてもいいですか?」


「ただの、つまらない夢だ」

「それでも知りたいです」



 彼は分かった、と観念するように頷く。

 胸の奥にしまい込んだ大切な記憶を、私に打ち明けてくださるのだった。


「姫とはいとこ同士で……俺の家は王家じゃないんだが、母同士が姉妹でな。姫とは昔から遊び相手だったんだ」


「幼い頃から……」


 お二人が従兄弟だということは知っていたが、そんな昔からの幼なじみなんて知らなかった。


「いつものように、二人で湖のほとりで遊んでいたんだが……。ある時姫様が湖に落ちて」


 一呼吸置くと、彼はそのまま続けた。


「姫が溺れかけた時、俺は動けなかった。落ちていく姿を、目の当たりにしていたのに」


「そんな状況、……誰でも固まってしまいますよ」


「……それでも、動いて助けた人がいたんだ。それ以来自分を恥じて、護衛騎士になろうと決心した」

 

 そんなことがあったのか。


 レイモン様は昔から、姫様を第一に考えていらっしゃる。その一途な想いに、胸がじんわりと温まった。


「つい、君相手だと語りすぎてしまうな。長々とすまない」


「私は……お話が聞けて、嬉しいです」


 心を配って頂いているようで、くすぐったい心地だ。……私は、彼の安心になれているだろうか。


「……最近は、君のおかげで思い悩む時間が減った気がするんだ」


 一か月前よりも、その笑みは柔らかだった。

 彼の力になれていると、嬉しい。

 

 どんなに思い悩んでも、姫様は2ヶ月も経たないうちにこの国を旅立つ。何もしないより、その中でできることを探していく方が、きっといい。

 

「そのお話を聞いてますます、お二人を会わせなくてはと思いました」


「いや……私は姫様が穏やかに過ごせるなら、それでいいと思っているのだが。……君がそう言うなら、足掻いてみたい」


 返事を聞いて、気合いを入れ直した。ここからが正念場だ。


 「何とか、私の方でもおふたりを会わせられるようやってみます」


 出来ればこそこそ会うのではなく、公の場で出会っても怪しまれない状況がいいだろう。


 姫様が開かれた場所で、かつ大勢の人が護衛するような機会——。そんな口実さえ作れれば、きっと私でも何とかできるのに。


「……なかなか難しいですね」

 

 案が思い浮かばず、二人で頭を悩ませるのだった。

 でも、私もレイモン様も、まだ諦めるつもりはなかった。

 

 結局、その日は有効な策が見いだせなかったが……意外と、その機会は早くやってくるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ