タイトル未定2026/04/18 00:40
41 ○大学・教室(昼)
健司は自分の席でノートを並べている。
教室には、学生たちのおしゃべりが低く響いている。
突然、その空気を裂くような鋭い声。
みなみ「ちょっと!」
健司が振り向く。
みなみが目の前に立っている。表情は張りつめ、まっすぐに彼をにらんでいる。
健司「みなみ…?」
みなみ「心に、何言ったの?」
健司はまばたきをし、戸惑う。
健司「え?」
みなみ「昨日、
一日中泣いてたんだよ。
なんであんな大声出したの?」
健司「大声なんて出してないって。」
みなみ「みんな見てたよ、健司。」
健司の声が少し上がる。
いらだちがにじむ。
健司「そんなことない。
それに…なんでお前がそんなに怒ってんだよ?」
みなみ「あの子は、私の友達だから。」
その言葉は刃のように、空気を切り裂く。
健司の体がこわばる。
手がぴくりと動く──ほとんど無意識に。
教室が、ゆっくりと遠のいていく。
周りの声がぼやけ、音が消える。
健司の指が、耳元の小さな装置に触れる。
カチッ。
暗転。
42 ○アパート・リビング(昼・シミュレーション/ビジョン)
健司はソファにだらしなく寝そべり、テレビをぼんやり見ている。
手にはリモコン。興味なさそうに、チャンネルをパチパチと切り替えている。
部屋の奥では、みなみが畳の上に掃除機をかけている。
健司「やめてくれよ。
音が聞こえない。」
みなみはビクッと固まる。
みなみ「あ…ごめんなさい。」
彼女は掃除機を止め、部屋の端にそっと置く。
健司は満足そうにクッションに沈み込み、再びテレビに視線を戻す。
みなみがそっと近づき、小さなお盆を持ってくる。
湯飲みを差し出す。
みなみ「これ…あなたの好きなお茶、淹れたの。」
健司は目を細め、疑わしげに見る。
健司「どうしたんだよ。
具合でも悪いのか?」
みなみ「え…? なんで?」
彼女はどこか不安げで、指先がかすかに震えている。
みなみ「気に入らなかった…?
なら、別の淹れる。
すぐ作るから。待ってて。」
みなみは慌てて部屋を出ていく。
健司はため息をつき、小さくつぶやく。
健司「やっと静かになった…。」
しかし、すぐにみなみが戻ってくる。
さっきとは別のお盆。今度はお茶と一緒に、小さな菓子が添えられている。
大学にいるときのみなみとは、まるで別人だ。
控えめで、不安定で、壊れそうなほど繊細。
健司は一口お茶を飲み、菓子をひとつ食べる。
湯飲みをテーブルに戻す。
健司「美味しいよ。ありがとう。」
みなみ「いろんなレシピ、調べたの。
言ってくれれば、ほかに新しいのも作れるわよ。」
健司「ああ…うん。いいよ。」
それでもみなみは、健司をじっと見つめ続ける。
まばたきさえ忘れたような視線。
健司は落ち着かなくなってくる。
健司「な、なんだよ…そんなに見るなって。
他にやることあるだろ?
暇なのかよ。」
みなみ「あなたを見ていたいの。」
健司は眉をひそめる。
健司「…は?」
彼は立ち上がる。いら立ちを隠せない。
みなみ「どこ行くの?」
健司「散歩。外、出る。」
みなみ「私も行く。」
健司「来なくていいよ。
自分の好きなこと、見つけろよ。」
みなみ「もう見つけたの。
あなたの好きなものが、私の好きなもの。」
健司はその場に固まる。
健司「それ…どういう意味だよ。」
みなみ「あなたと一緒にいられるだけでいいの。
(目を輝かせて微笑む)
幸せなの。ずっとこうしていたい。」
みなみはまっすぐに、健司を見つめ続ける。
その献身は、檻のように重くのしかかってくる。
健司の表情が、ゆっくりと恐怖に変わっていく。
健司「もうたくさんだ。
お前も…お前の友達も…
俺の人生で一番最悪なことをしてくれた。」
彼の手が耳へ上がる。
イヤーピースのボタンを押す。
カチッ。
暗転。
43 ○大学・教室(連続・現在)
教室には静かなざわめきが漂っている。
健司とみなみが、教室の真ん中で向かい合って立っている。
健司「お前も…お前の友達も…
俺の人生で一番最悪なことをしてくれた。」
重い沈黙が落ちる。
周囲の学生たちが一斉に二人を見る。
空気が凍りつく。
誰も動かない。
すぐに、ひそひそ声が広がり始める──
好奇とざわめきと、値踏みするような視線。
みなみの唇が震える。
目に涙がにじみ、視界がにわかに曇る。
そして突然、感情が爆発する──
怒りと悲しみが入り混じった声。
みなみ(涙越しに)「ひどい…!」
みなみはくるりと背を向け、駆け出していく。
泣き声が廊下に響きながら遠ざかる。
周囲の視線は、まだ健司に向けられたままだ。
健司は教室の反対側を見る。
遼と目が合う。
二人は無言のまま、すべてを察するように視線を交わす。
健司は息を吐き、首を小さく振り、静かに席へ戻る。
周囲のひそひそ話は続いているが、
健司はただノートを見つめ、
すべてが聞こえないふりをして、心を閉ざしていく。




