タイトル未定2026/04/18 00:38
38 ○大学キャンパス(昼)
石川健司は校舎から出てきて、リュックを片方の肩にかけている。
歩みはゆっくりで、どこか考え込んでいる。
その横をクラスメイトたちが笑いながら通り過ぎていく。
舞「石川くん! 待って!」
健司が振り向くと、田中舞が笑顔で小走りに近づいてくる。
二人は歩幅を合わせて並んで歩き始める。
舞はバッグの中をごそごそと探り、小さなチラシを取り出して差し出す。
舞「はい、これ。
弟くんいるでしょ? 持って行って。
私達、子どもたちと交流したり、練習会を開ているの。
私たちのプロジェクトの一環なの。」
健司「興味あるかも。渡しておくよ。」
少しの間。
健司「プロジェクトのほうは順調?」
舞「うん。いいチームよ。
勝てるかどうかより…
誰かの役に立つものになればいいなって。」
舞は横目で健司を見る。
舞「石川くんたちは?
何作ってるの?」
健司は気まずそうに頬をかきながら、視線をそらす。
健司「あー…大したものじゃないよ。
まだテスト段階だから。」
舞「そっか。」
二人はしばらく黙って歩く。
健司「あのさ…
君と総一郎、卒業したら結婚するって聞いたんだけど。」
舞は驚いたように目を見開き、すぐに柔らかく笑う。
舞「噂って広まるの早いね。
誰から聞いたの?」
健司「じゃあ…本当なんだ?」
舞「うん。
卒業したらアメリカに行くの。
総一郎の家族が向こうに住んでて、
お父さんが会社を持ってるから…
いろいろチャンスがあるみたいで。」
健司「…そっか。」
舞「でも…誰にも言わないでね?」
健司「誰にも言わないよ。
俺が口出すことじゃないし。」
舞「ありがとう。
じゃあ、またね。」
健司「うん。また。」
舞は人混みの中へと歩き去っていく。
健司はしばらくその場に立ち尽くし、
彼女の姿が見えなくなるまで、無意識のうちに目で追ってしまう。
39 ○石川家・リビング(夕方)
健司が家に入り、そっとドアを閉める。
リュックを壁際に置き、重いため息をつきながら靴を脱ぐ。
キッチンから母が顔を出し、彼の表情に気づく。
母「健司…何かあったの?」
健司は小さく首を振り、無理に笑顔を作る。
健司「いや…何も。」
彼はリビングへ歩き、ソファに深く座り込む。
母はそっと近づき、隣に腰を下ろす。
母「プロジェクトのほうはどう?」
健司はしばらく手元を見つめたまま、言葉を探す。
健司「…あんまり、うまくいってない。
自分を受け入れて、尊重してくれる相手なんて…
科学で簡単に見つかるようなものじゃない。
遼はまだ成功すると信じてるけど…
俺は…どうだろうな。」
健司は視線を落とす。
健司(続けて)「科学だけじゃ…届かないものもある気がする。」
静かな時間が流れる。
母は優しい眼差しで、健司を見つめる。
母「健司…希望をなくしちゃダメよ。
直ぐには見えないものだってあるの。
時には誰かを見つける前に…
まず自分自身を見つける必要がある時だってあるのよ。」
健司はその言葉を静かに受け止めるように、考え込む。
母「お茶でも淹れようか?」
健司「いや…いいよ。
今日はもう寝る。」
母「わかったわ。おやすみ。」
母は立ち上がり、静かにキッチンのほうへ戻っていく。
健司はしばらくソファに座ったまま動かず、
ぼんやりとリビングの天井を見つめている。
やがて、ゆっくりと立ち上がり、自分の部屋へ向かう。
ドアを閉める小さな音が、静かな家に響く。
40 ○石川家・健司の部屋(夜・連続)
ひとりになった健司は、ベッドに横になり、天井をじっと見つめている。
しばらくすると、ポケットに手を入れ、小さな音声デバイスを取り出す。
それを手のひらの上でゆっくりと裏返しながら眺める。
思いに沈んだ表情を浮かべる。




