タイトル未定2026/04/18 00:35
32 ○大学・廊下(昼)
健司と遼は並んで、にぎやかな廊下を歩いている。
学生たちが昼食のトレーを手に行き交い、おしゃべりの声が響いている。
遼はポケットから折りたたまれた紙を取り出し、健司に渡す。
遼「ほら、これ。」
健司は紙を広げて、リストを眺める。
健司「たった二十六人?
残りはどうしたんだよ?」
遼「消した。
俺たちが探してるのは
『お前の理想の相手』だろ?
で、まあ…あの先生は絶対に違うだろうしな。」
健司は片眉を上げる。
健司「それでも、どこにいるのか知りたいな 。」
遼「やめとけ…お互いのためだ。」
二人はカフェテリアのドアを押し開け、中へ入る。
食器のぶつかる音やおしゃべりが、あたたかく響いている。
33 ○大学・カフェテリア(連続)
カフェテリアはにぎやかで、トレーの音や学生たちの笑い声が響いている。
皆、食べたり、話したり、ノートを見せ合ったりしている。
健司と遼は、窓際のテーブルに滑り込むように座る。
遼「リストから誰か選べよ。
目に入った子でいい。」
健司は紙を見てから、周りを見渡す。
健司「んー…簡単じゃないな。」
視線が三人組の女子──みなみ、心、遥香──のテーブルで止まる。
三人は顔を寄せ合い、ひそひそ話しては笑っている。
その中で、一番元気なみなみが大きく笑い、楽しそうにはしゃいでいる。
健司「あそこ。あの子、雰囲気いいな。」
遼「悪くないじゃん。
どうなったか、あとで詳しく報告な。」
健司は立ち上がり、彼女たちのテーブルへ向かう。
ちょうどテーブルに着いた瞬間、みなみがスマホを見ながら急に立ち上がり、
健司にぶつかる。
健司「ごめん。」
みなみ「前見て歩きなよ。」
健司「みなみ、だよね?」
みなみ「そうだけど…何か用?」
健司「宿題、ちょっと手伝ってくれないかな?
数学得意って聞いたんだけど。」
みなみ「忙しいの。」
みなみは健司を避けるように横へずれる。
みなみ「じゃあね。」
健司「ちょっと──」
みなみは振り返ることなく歩き去る。
健司はため息をつき、振り向くと──そこに、心の視線がある。
心は静かで控えめな雰囲気。
カップを指先でいじりながら、少し緊張している。
心「あ、あの…さっきはごめんなさい。」
健司は優しく笑う。
健司「じゃあ…君が宿題、手伝ってくれない?」
心の恥ずかしそうな表情が、ふっとやわらかい笑顔に変わる。
健司は彼女の目を見つめ──
そっと耳元へ指を伸ばし、イヤホンに触れる。
34 ○アパート(昼・シミュレーション/ビジョン)
暗闇。
石川健司がゆっくり目を開ける。
彼は狭い玄関に立っている。
手のひらには鍵が握られている。
ためらいながら鍵を差し込み、ゆっくりドアを開ける。
そこに立っているのは──
カフェテリアで見た控えめな心ではない。
眉を寄せ、腕を組んだ心だ。
心「…遅かったわね。」
健司「え?」
心「三十分待ってたのよ。どこ行ってたの?」
健司「あー…仕事で…ちょっと…。」
心「仕事?
あなた、もう一年も無職でしょ。」
健司は中へ入る。
部屋は小さいが整っており、柔らかな日差しがローテーブルを照らしている。
健司「へえ…いい部屋だな。」
心「当たり前でしょ。
誰がここまできれいに保ってると思ってるの?」
健司「…なんでそんな怒ってるんだ?」
心は首を少し傾け、冷たい声で言う。
心「今なんて言ったの?」
健司「だから…俺に何をしてほしいわけ?」
心はカウンターから小さなメモ帳を取り、彼に渡す。
心「今日の『やることリスト』。
戻るまでに全部終わらせといて。」
健司はリストを見下ろす。
健司「家事…全部…。」
心の目つきはさらに鋭くなる。
心「私、丸一日働いてるのよ。
家のこと全部やる時間なんてないし…
子どもたちの世話だってあるんだから。
じゃあ行ってくる。二度言わせないで。」
心は靴を履いて、出ていく。
ドアが静かに閉まる。
健司はその場に固まる。
健司「子ども…?
俺たち、子どもがいるのか?」
ふと畳の部屋のほうを見る。
おもちゃが、かすかにカタカタ鳴っている。
健司「…うそだろ。」
健司は一人きりで廊下を静かに歩き、スライドドアの前で立ち止まる。
小さく息を吸い、ゆっくりドアを開ける。
中には──
一歳ほどの赤ん坊が二人、じっと座ってこちらを見ている。
健司は目を見開く。
健司「双子…?」
ひと呼吸置き、彼はそっと近づく。
赤ん坊たちは丸い目で、健司の動きを追う。
健司「…お腹すいた?」
赤ん坊たちは、かすかに笑う。
健司は台所へ向かう。
冷蔵庫を開けると、味噌汁の鍋、ラップされた惣菜、漬物が並んでいる。
健司「いや…これはまだ早いよな。」
牛乳パックに気づき、取り出す。
健司「これなら…いける?」
手で触れてみる。冷たい。
健司「冷たいな…。」
電子レンジに目を向ける。扉にはメモが貼ってある:
「1分以上加熱しないこと」
中を開けると、赤ちゃん用の哺乳瓶が2本入っている。
健司の表情に、ほんの少し安堵の笑みが浮かぶ。
健司「なるほど…助かった。」
彼は哺乳瓶を温める。
チーン。
健司は畳の部屋へ戻り、膝をつき、赤ちゃんを一人抱き上げる。
ミルクを飲ませ始める。
すると、もう一人が突然泣き出す。
健司「ちょっと待て…!」
泣き声がどんどん大きくなる。
健司「二人いて…俺一人って…無理だろ…。」
さらに泣き声が激しくなる。
健司は大きく息をつき、赤ん坊を交代する。
二人目は泣き止む──
が、一人目が大号泣。
健司は目を閉じる。
健司「…無理だこれ。」
35 ○アパート・バスルーム(少し後・シミュレーション内)
石川健司は洗濯機の前に立ち、手書きの家事リストを持っている。
ちらりとそれを見てから、洗濯かごの服をつかみ上げる。
一枚ずつ洗濯機へ放り込み、洗剤を入れ、ダイヤルを回し、スタートボタンを押す。
健司「なんで俺、こんなことしてんだよ…。」
洗剤を脇に置き、耳に手をやる。
イヤホンの小さなボタンを押す──
……待つ──反応はない。
健司は眉をひそめ、もう一度押す。
また待つ──まだ何も起きない。
また待つ──まだ何も起きない。
健司「ちょっと…頼むって…。」
イライラしたように、装置を指でトントン叩く。
健司「くそ…。
やっぱ本人が近くにいないとダメなのか?
目を合わせるとか…なんかそういう条件がいるんだろ。」
ため息をつき、壁にもたれながら、回る洗濯物をぼんやり見つめる。
36 ○アパート・リビング(のちほど・シミュレーション内)
石川健司はソファで大の字になって眠っている。
そのそばに、腕を組んだ心が立っている。
彼女は身をかがめて、健司の肩を揺さぶる。
心「ちょっと。起きて。」
健司はむくりと起き上がり、ぼんやりとまばたきする。
健司「…ああ、夢だったのか。」
心「リストに書いたこと、やったの?」
健司「え? ああ…まあ…いくつか。
洗濯は…やったよ。」
心「で、どこにあるの?」
健司「えっと…たぶん、洗濯機の中…。」
心の目が細くなる。
心「洗濯機の中?
すぐに出すって書いたでしょ!」
彼女は怒ったような足取りでバスルームへ向かう。
健司はあわててその後を追う。
心は洗濯機を勢いよく開け、小さく縮んだピンクのセーターを取り出す。
心「…私のセーター。」
健司は固まる。
それは、まるで子ども用のサイズだ。
健司「えっと…なんか、その…ちょっと縮んだ…かも。」
心「『ちょっと』!?」
彼女は勢いよく一歩踏み出す。
健司は思わず後ずさる。
健司「ま、待って! 説明するから…!」
心はセーターを投げつけようと腕を振りかぶる──
健司はパニックになり、イヤホンのボタンを叩く。
セーターが飛んでくる直前──
すべてが暗転する。
37 ○大学・カフェテリア(昼・現在)
健司が突然叫び、顔を両手で覆って身をかがめている。
健司「うわあああっ!
も、戻る! 戻りたいっ!」
一瞬、静寂。
健司は指の隙間からそっと覗き、ゆっくり手を下ろす。
目の前には心が立っていて、首をかしげながら、少しだけ微笑んでいる。
心「石川くん…大丈夫?」
健司の目が見開かれる。
まるで前世の亡霊でも見たかのような表情。
周りの学生たちは食事の手を止めて、様子をうかがっている。
健司「き、君…本物…?」
そこへ、後ろから遼が現れ、健司の肩をつかむ。
遼「おい、行くぞ。」
二人はカフェテリアを出て、廊下へ出る。
遼「なんだよ今のは。
B級ホラー映画みたいに叫んでたぞ。」
健司「あの子…怖いんだよ。
中でさ、めちゃくちゃ怒鳴られたんだぞ。
しかも…殴られそうになったし!」
遼は笑いをこらえようとするが──こらえきれない。
遼「ぷっ…ははははっ!
まあ…次は殴らない子に会えるといいな。」
健司はうめきながら歩き続け、
遼はまだ笑いながら、その後ろについていく。




