タイトル未定2026/04/18 00:17
10 ○内村家・遼の部屋(昼)
遼は机に座っている。窓からは、やわらかな自然光が差し込んでいる。
その手には、プリントアウトされた名前のリストがある。
健司は近くの棚に並ぶフィギュアを手に取り、眺めている。
遼「で? リストの子と誰か話したか?」
健司「うん…あかり。」
遼「お? どうだった?」
健司はすぐには答えず、窓の外を見つめたまま考え込む。
11 ○大学・廊下(少し前)
廊下は静かだ。
おしゃれなショートヘアのあかりが、教科書を手に壁にもたれている。
健司はその前に立ち、明らかに緊張している。
健司「あの…よかったら、どこか一緒に行かない?」
あかりは首をかしげ、興味深そうに健司を見つめる。
健司は言葉に詰まりながら続ける。
健司「その…ちょっと話したり、仲良くなったり…
少しだけでも時間を…。」
あかり「キタキに行こうよ。あそこ、好きなの。」
健司「あそこって…高くない?」
あかり(やわらかくさえぎりながら)「私、妥協はしないの。
準備できた時に、また声かけて。」
彼女は自信のある、控えめな微笑みを浮かべて歩き去る。
健司「…ってことは、ダメってことか。」
健司はその場に残り、彼女の背中をじっと見送る。
12 ○内村家・遼の部屋(連続)
部屋に戻っても、健司はその場に立ち尽くしている。
遼は落ち着いた様子で、リストのあかりの名前にペンで線を引いている。
遼「一人減ったな。」
健司「あの子は…ちょっと強すぎた。
俺にはついていけなかった。」
遼「じゃあ、もう過去の人だ。」
遼は立ち上がり、机のほうへ歩いていく。
遼「お前に渡すものがある。」
健司は気になって振り向く。
遼はプリントアウトした資料の分厚い束を持ち上げる。
健司「うそだろ。これ全部読めって言うなよ。」
遼「もちろん読むんだよ。
俺たち、本気なんだろ?」
健司はしぶしぶその束を受け取る。
遼「女性について集められるだけ集めた。
心理、行動、パターン…全部だ。」
健司「勉強することが山ほどありそうだ…。」
遼は小さな作業テーブルへ向かう。
そこには試作品の装置やワイヤー、工具がきれいに並んでいる。
遼「試作プログラムもいくつか作ってみた。
かなり近づいてきてる。」
遼は貯金箱を開けて、中をのぞく。
遼「でも金がいる。
これじゃ足りない。」
健司「集められるだけ集めてみるよ。」
遼「助かる。」
健司はゆっくりと資料をバックパックに詰め始める。
部屋の中は静かだが、その空気には確かな決意が満ちている。
13 ○石川家・ダイニング(夕方)
テーブルには温かい手料理が並び、夕食の時間。
健司は弟の類、母、父と一緒に座っている。
しばらく皆、静かに食事をしていると、父が沈黙を破る。
父「で…プロジェクトはもう決めたのか?」
健司「正確には…まあ、決めたよ。
『ザ・ロング・マン(The Wrong Man)』。
理想のパートナーを見つける方法ってやつ。」
母は驚いたように手を止める。
母「あら…面白いテーマね。」
父「面白い? ナンセンスだ。」
健司「父さん、人の役に立つものにしろって
言ったじゃないか。」
父「いや、それはそうだけど…限度があるだろ。」
類「僕のアイデアのほうがよかったよ。」
健司「機材を買うのに、ちょっとお金が必要なんだ。」
父「やめとけ。嫁の見つけ方も解らないのか?」
健司「今すぐ探してるわけじゃないけどさ。
でも、仮に探すとしても……どう選べばいいのか分からない。
それに、相手にも好いてもらわなきゃいけないだろ? 」
母「それはそうね。」
父「女が男の選び方なんて知ってると思うか?
そんなもん、何もわかっちゃいない。
適当に一人選んで結婚すりゃいいんだ。」
類「うん、健司。適当に選べばいいじゃん。」
類がくすっと笑う。
再びテーブルは静かになり、家族はそのまま食事に戻る。
14 ○石川家・健司の部屋(夜)
健司はベッドに横になり、遼から渡された資料に目を通している。
しばらくしてページを横に置き、起き上がって棚のほうへ向かう。
アニメキャラクターの形をした貯金箱を取り出し、
一瞬だけためらってから—
床に落として割る。
中からこぼれたコインが、床一面に散らばる。
15 ○石川家・キッチン(同時)
母は静かに皿を洗っている。
ふと手を止め、健司の部屋のほうに視線を向ける。
その表情はどこかやさしく、何かを思い巡らせている。
16 ○石川家・健司の部屋(その少し後)
健司は、床に散らばったお金を一つ一つ数えている。
ドアがノックされる。
健司がドアを開けると、母が小さな封筒を手にして立っている。
母「これ、持っていきなさい。」
健司「父さん、怒るよ。」
母「何も言わないわよ。
私ね……いいプロジェクトだと思うの。」
母は封筒を差し出す。
健司はそっとそれを受け取る。
健司「ありがとう。」
二人は静かに、あたたかい笑みを交わす。
17 ○大学キャンパス(朝)
やわらかな朝日が、穏やかな大学キャンパスを照らしている。
学生たちは小さなグループを作って歩きながら、話したり笑ったり、授業へと急いでいる。
あたたかい風が、蝉の声と笑い声を運んでいく。
18 ○大学・廊下(連続)
健司と遼は並んで歩いており、それぞれ弁当箱を手にしている。
二人は掲示板の前で立ち止まる。
掲示板にはカラフルなポスターが貼ってあり、こう書かれている。
「最終プロジェクト展示会
・国際ゲスト参加
・メディア取材
・賞金あり」
遼「これだよ。
ちゃんとやりきれば、東京にも行けるし…
海外だってあり得る。」
健司「千里の道も一歩から、だな。」
二人は静かにうなずき合う。
遼「資料、全部読み終わった?」
健司「ぎりぎり。
半分は意味わかんなかった…
いや、ただ腹減ってただけかも。」
遼はニヤリと笑う。
19 ○大学・工学部・教室
部屋は活気にあふれている。
学生たちはそれぞれ、ドローンやスマートデバイス、ロボットアームなどの
プロジェクトに取り組んでいる。
机の上には工具やノートが広がり、どのテーブルも作業に集中した雰囲気だ。
石川健司と内村遼は、自分たちの机で、きちんと並べられた道具を前に、
真剣な表情で作業している。
近くの小さなテーブルでは、舞を含む学生グループが、楽しそうに手を動かしている。
舞「高さ検知だけに絞れば、幼児向けにも対応できるかもしれない 。」
クラスメイト「それ最高じゃん!
マルチセンサリーボードで障がいのある子どもたちをサポートするなんて…
凄いことになるかも。」
健司はちらりと横目でその様子を見る。
舞は小さなセンサーを調整しながら、やわらかく微笑んでいる。
近くの女子学生2人が、健司が聞いているとは思わず、ひそひそと囁き合う。
女子学生A「聞いた? 舞と総一郎、正式に付き合い始めたって。」
女子学生B「うん。もう卒業したら結婚の話まで出てるらしいよ。」
健司は視線を落とし、聞いていないふりをする。
ノートに戻るが、鉛筆の先は途中で止まったままだ。
遼「大丈夫か?」
健司(小さく)「うん。ちょっと疲れただけ。」
そこへ高木教授が通りかかり、二人の机の前で立ち止まる。
高木教授「石川、内村。
君たちの野心的な作品を期待しているよ。」
遼「任せてください、先生。」
健司は黙ってうなずき、作業に戻る。
その目には、ほんのわずかな緊張が漂っている。
20 ○大学キャンパス・中庭(昼)
昼休み。桜の木の下では、学生たちが弁当を広げて話したり笑ったりしている。
健司と遼は、その一本の木の下に座り、ノートパソコンを開いている。
二人は、半分は勉強をしながら、半分は人間観察をしている。
遼「俺たちは頭一つ抜け出さないといけない 。絶対に。」
健司「みんなが見たことのないものを作ろう。」
遼がふと何かに気づく。
遼「なあ…あれ見ろよ。」
健司は視線を向ける。
中庭の向こう側を、舞が総一郎と並んで歩いている。
彼女は上品で落ち着いていて、彼は自信があり、きちんとした服装で、
自然と周りから目立つ存在感がある。
二人はキャンパス入口に停まった黒の高級車の横で、
運転手と丁寧に言葉を交わしている。
健司はわずかに体を固くする。
遼はそれに気づく。
遼(小声で、からかうように)「あの子のこと、好きなんだろ。」
健司は画面から目をそらさず、平然を装う。
健司「別に…タイプじゃないし。」
遼は眉を上げる。
健司は小さくため息をつき、少しだけ認めるように肩をすくめる。
健司(小さく)「それに…見ろよ、あの二人。
舞も総一郎も、階級が違う。
裕福な家の育ちで、成績も完璧で、将来も決まってる。」
運転手が後部座席のドアを開ける。
遼はその様子をじっと見つめる。
遼「そんなの、関係あるのか?」
健司はかすかに、どこか寂しげに笑う。
健司「ああいう人たちには…あるよ。
俺たちみたいなのは…あの世界にはいけない。」
運転手が丁寧に頭を下げ、
舞と総一郎は高級車に乗り込む。
ドアが静かに「カチッ」と閉まる。
車はなめらかに走り出し、門を抜けていく。
健司はつい、少し長く目で追ってしまい、
はっとして画面に視線を戻す。
表情は落ち着いているが、目の奥には言葉にならない想いが揺れている。
健司「そうだ…お金、ちょっと見つけたんだ。」
遼「え?」
健司「プロジェクト用。
多くはないけど…始めるには十分。」
遼は驚いて健司を見るが、やがて静かに笑みを浮かべる。
遼「本気なんだな、お前。」
健司「今まで以上にね。」
桜の花びらが風に揺れる中で、
二人は静かに、決意のこもった視線を交わす。




