タイトル未定2026/04/22 17:55
65 ○大学・教室(昼)
遼は、名前でびっしり埋まった紙をめくりながら席に座っている。
そこへ健司が、ドサッと隣の席に腰を下ろす。
遼「リスト、更新した。
何人か追加したよ。
もっと広く動かないと…
コミュニケーションも増やして、
チャンスも増やさないと。」
健司は首を横に振る。
健司「遼。」
遼「ん? こうすれば──」
健司「もう、必要ない。」
遼の手が止まり、健司を見つめる。
遼「…は?」
健司は少し身を寄せ、声を潜める。
健司「もう見つけたんだ。
一緒にいると…心地いい人。」
遼は目を細め、疑わしそうな視線を向ける。
遼「誰だよ。」
健司は周りを確認してから、小声でささやく。
健司「…舞。」
遼の目が一気に見開く。
思わず、大きな声が出る。
遼「はぁ!? 正気かよ!?
あいつ、彼氏いるだろ!」
数人の学生がこちらを見る。
健司は慌てて両手を振る。
健司「声デカいって!
分かってるよ。
でも…決めたんだ。
手伝ってほしい。」
遼は信じられないという顔で健司を見つめ、
額を押さえてうめく。
そのとき、教授が教室に入ってくる。
机にドサッと教材を置く音が響き、
教室は一瞬で静まり返る。
66 ○大学・図書館(昼)
静かな図書館。
本棚がどこまでも続き、背の高い窓から柔らかな日差しが差し込んでいる。
健司と遼は、身を寄せ合うように座り、声を潜めて話している。
健司「…なんか、考え込んだ顔してるぞ。
どうした?」
遼「ちょっと聞いたんだ。
総一郎…アメリカに行くらしい。
数週間だけどな。」
健司は驚いたように顔を上げる。
健司「そうなのか…。
(間)
でも…舞と遊び半分みたいに
関わるのは嫌だ。」
遼は肩をすくめる。
遼「遊びじゃないよ。
ただ…チャンスができるってだけ。
話したり、そばにいたりする機会がさ。」
健司は視線を落とし、鉛筆を指先で回す。
健司「それでも…なんか、違うんだ。
(間)
完璧な相手を見つけても…
その人が自分を選んでくれなきゃ、
意味がない。」
その言葉が、静寂の中に落ちる。
遼はふぅっと息を吐き、椅子にもたれる。
遼「じゃあ…どうする?
プロジェクト、このまま失敗させる気か?」
健司は遼を見つめ返す。
二人とも、長い沈黙に包まれる。
そして、ほとんど同時に──
遼涼「いやだ。」
二人は同時にため息をつき、肩を落とす。
図書館の静けさが戻り、
近くでページをめくるかすかな音だけが聞こえている。
67 ○舞の家(朝)
健司は少し離れた道端に立ち、ポケットに手を入れたまま舞の家を見つめている。
どこか緊張しつつも、期待を含んだ表情だ。
玄関のドアが開く。
舞がバッグの肩ひもを直しながら外に出てくる。
健司はすぐに気づき、手を軽く上げる。
健司「おはよう、舞。」
舞は驚いたように足を止める。
健司が歩み寄ってくる。
舞「健司くん? どうしたの?」
健司「あー…ちょっと、通りかかっただけ。」
二人は静かな歩道を並んで歩き始める。
健司は軽く咳払いをする。
健司「あのさ…類から聞いたんだけどさ。
みんなのプロジェクトのまとめ作業、
大変なんだって?
(間)
だから…少し手伝えたらなって思って。」
舞は横目で彼を見る。
どこか疑うような視線。
舞「手伝い…?
でも…
一応、私たちってライバルじゃない?」
健司は小さく笑い、肩をすくめる。
健司「まあ、そうだけどさ。
でも類が喜ぶなら、いいかなって思って。」
舞はしばらく彼を見つめ、
それからふっと表情を和らげる。
舞「…じゃあ。今日の午後に来て。」
健司は安堵を隠すように、さりげなくうなずく。
二人は柔らかな朝の光の下を、並んで歩き続ける。
68 ○ミーティングルーム(昼)
部屋は明るくにぎやかだ。
手描きのポスターが壁に並び、
低いテーブルでは子どもたちが教育用のおもちゃで遊んでいる。
舞は子どもと同じ目線でひざまずき、
パズルのようなおもちゃの使い方を優しく教えている。
その笑顔はあたたかく、声はやわらかい。
健司は入口近くに立ち、しばらくその様子を見つめている。
どこかためらいがあり、自分がここにいていいのか、
少し場違いな気がしているようだ。
舞が彼に気づく。
舞「健司くん、来て。」
手招きされ、健司が近づいていく。
一人の子どもが健司の袖を引っ張り、おもちゃを差し出す。
健司は戸惑いながらも、ひざまずいてそれを受け取る。
健司「あ、これ? えっと…こうかな?」
最初はぎこちなく部品を組み立てようとするが、うまくいかない。
子どもがクスクス笑う。
舞も近づいてきて、ふんわり笑う。
舞「違うの、そうじゃなくて。
ほら…ここを、こうやって──」
舞はそっと健司の手に自分の手を添え、
一緒にパーツを組み合わせていく。
おもちゃが光る。
子どもが嬉しそうに手を叩く。
健司は舞を見る。
ふと二人の顔が近づく。
舞の瞳がきらりと光る。
健司は慌てて視線をそらす。
別の子どもが走ってきて、絵を差し出す。
子ども「見て!」
それは、少し雑だけれど明るい絵だ。
子どもが二人いて、手をつないだ男女の家族の絵。
健司はそれをじっと見つめ、
胸を打たれる 。
舞(笑いながら)「もう、あなたのこと家族の一員にしちゃってるみたいね。 」
健司は少し赤くなりながら、その紙をていねいに折りたたむ。
健司「うん…かもな。」
子どもたちの笑い声が、部屋いっぱいに広がっていく。
健司は周りを見渡す。
その顔は、初めて―心から安らいでいるようだった。
69 ○ミーティングセンター前(夕方)
最後の子どもたちが、手を振りながら帰っていく。
笑い声は少しずつ遠ざかり、
通りは夕日のやわらかなオレンジ色に染まっていく。
健司が備品の入った箱を抱えて外へ出てくる。
その後ろから、舞も別の箱を抱えてあとに続く。
二人は入口脇に箱をそっと置く。
やわらかな風が吹き、髪がふわりと揺れる。
しばらく、誰も口を開かない。
健司「こういうの…いつもやってるの?」
舞「うん。ほぼ毎週。多いときはもっと。」
舞はこぼれた髪を耳にかけ、
少し照れたように微笑む。
舞「大変だけど…
子どもたちが笑ってくれると、
やってよかったって思うの。」
健司は優しい表情で彼女を見つめる。
口を開き、少しためらってから、静かに話す。
健司「…舞って、すごいよな。」
舞はまばたきし、
照れ隠しのように小さく笑う。
舞「え…ふふっ。」
健司「あ…ごめん。」
そのあとの沈黙は重くない。
むしろ、心地よい。
舞は箱を抱え直し、軽く息を整える。
舞「行こっか。途中まで一緒に歩こ。」
健司は小さくうなずく。
二人は細い道を並んで歩き始める。
夕日が伸ばす二人の影は、ゆっくりと重なり合いながら長く伸びていく。
その一瞬、まるで世界に二人しかいないような、
静かな黄昏が流れている。




