タイトル未定2026/04/18 00:48
54 ○公園(昼・現在)
遼はリストを手に持ち、満面の笑みを浮かべている。
遼(笑いながら)「で…パーソナルトレーナー系も
ダメだったわけだ?」
健司(息切れしながら)「無理。絶対に無理。二度と嫌だ。」
健司はベンチに倒れ込む。
健司「あの人と結婚したら…
四十になる前に死ぬ。」
遼は吹き出し、首を振る。
遼「だろうな。
救急車待機させとかないと無理だわ。」
遼はリストをたたんでポケットにしまい、
ふいに真面目な顔になる。
遼「なぁ、健司。」
健司「何だよ、今度は…。」
遼「俺たち、視野が狭すぎたんだよ。
『大学の女子だけ』なんて枠の中で
探してるから見つからない。
もっと外を見るべきだ。」
健司は困惑しながら見上げる。
健司「外って…どこまで?」
遼はニヤリと、いたずらっぽく笑う。
遼「今夜、いい案がある。
信じろよ──レベルアップだ。」
健司は、すでに後悔しているような顔になる。
健司「だいたいそういう時って、
ろくなことにならないんだよ…。」
遼は自信満々に健司の肩を叩く。
遼「その通り。
だから面白いんじゃん。行くぞ。」
55 ○ファッションショー会場(夕方)
スポットライトが輝き、会場全体が華やかな光に包まれている。
重低音の音楽が鳴り響き、モデルたちが堂々とランウェイを歩いている。
カメラのフラッシュが四方から飛び交う。
石川健司と内村遼は、会場の後方に立っている。
周囲は興奮した観客でいっぱいだ。
遼「これだよ、健司。頂点。
見ろよ、この街で一番キレイな子たちだぞ。
誰でも選び放題だ!」
遼は魅了されたように、光沢のあるドレスを着た長身のモデルを見つめる。
遼「うわ…あの子、やばい…。」
モデルが再びランウェイを通り過ぎ、遼と目が合う。
彼女はふっと微笑み、ウインクする。
遼は興奮して健司の腕をつかむ。
遼「今の見た!? ウインクした! 俺に!!」
健司はほとんど反応しない。あまり興味がなさそうだ。
向かい側のVIP席には、人気女優が座っている。
完璧な美しさと存在感を放っている。
その視線がふと──健司のほうへ向く。
遼はすぐに気づく。
遼(小声で、肘でつつきながら)「健司…見ろよ。あれ。
あの人、お前を見てる。」
健司がそちらを見る。
確かに、女優は彼と目が合うと──ウインクする。
遼「これ…絶対お前のこと気に入ってるって。」
健司は小さくため息をつく。明らかに気が進まない。
彼はゆっくりと耳に手をやる。
カチッ。
ライトがにじみ、音楽が歪んでいく。
まばゆいランウェイは影に溶けていき──
シミュレーションが始まる。
56 ○高級マンション(夜・シミュレーション/ビジョン)
石川健司は、大きなガラス製のダイニングテーブルに座っている。
向かいでは、人気女優がスマホをスクロールしながら、健司を完全に無視している。
豪華なディナーは手つかずのままだ。
やがて、彼女はようやく顔を上げる。
女優「健司。私のこと“きれい”って言って。」
健司「…きれいだよ。」
女優「遅い。
もう一回。もっと情熱的に。」
健司は喉を鳴らし、無理やり声を整える。
健司「あの…すごく、きれいです。」
女優は不満げに眉をひそめる。
女優「違う。
雑誌みたいに言って。
たとえば…
『俺の人生を照らす女神』とか。」
健司は、完全に心が折れたような表情で彼女を見つめる。
健司「…俺の人生を照らす女神です。」
彼女は一瞬でニコッと笑い、自撮りをパシャッと撮る。
女優「完璧。
はい、あなたもアップして。
ハッシュタグは『♯理想のカップル』。」
健司はこめかみを押さえ、
心の中で絶叫している。
57 ○高級レストラン・屋上(夜・シミュレーション/ビジョン)
上品な屋上テラス。
ランタンとキャンドルの灯りが、やわらかく揺れている。
見上げれば、星が散りばめられた夜空が広がっている。
テーブルには白いクロスがかけられ、
高級料理とシャンパンのグラスがずらりと並んでいる。
俳優やミュージシャン、芸能人たちが集まり、
笑い声と会話が音楽のように響いている。
中央には女優。
輝くドレスをまとい、誰よりも強い存在感を放っている。
そのまわりには監督やプロデューサー、人気俳優たちが群がり、
彼女のひと言ひと言に聞き入っている。
彼女は、完璧な笑顔。
動きひとつ、言葉ひとつが、計算し尽くされている。
そして、そのすぐそば──石川健司。
健司は会場の端に立ち、
ひとりでシャンパンをすすっている。
表情はほとんど動かない。
前菜をつつき、置き、
そして、ゆっくりと夜空を見上げる。
そこには、無数の星。
健司は静かに見つめる。
まるで、周囲の喧噪だけを切り離しているかのように。
健司の吐息はどこか小さく、孤独で、
この華やかな世界からひとりだけ離れた場所にいるようだ。
カメラのシャッター音、笑い声、乾杯の音──
すべてが遠ざかり、
夜空の静けさだけが残る。
58 ○市街地の通り(夕方・現在)
空は淡いオレンジに染まり、夜へと溶けていく。
街灯がひとつ、またひとつと点灯していく。
健司と遼は歩道を並んで歩いている。
歩幅はゆっくりで、どこか考え込んだ様子だ。
遼「で…どうだった? あの人。」
健司「お前こそ、これ試してみたほうが
いいんじゃないか。」
遼「いやいや、俺はあくまで
『科学的興味』だからな。」
健司は小さく笑い、首を振る。
健司「……現実って、想像より
ずっと複雑だな。」
遼「だよな。
でもさ…
後で知るより、今わかって
よかったんじゃないか?」
健司は静かにうなずく。
健司「うん。そうだな。」
二人は街灯の下で立ち止まる。
健司は腕時計を見る。
健司「そろそろ類、迎えに行かないと。
もう終わってる頃だし。」
遼「了解。また明日。」
遼は軽く手を振り、通りの先へ消えていく。
健司は一人になり、
街灯の低い唸りの中を、静かに歩き続ける。
その表情は、どこか思いつめている。




