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後日談:  辿り着いた先は

これにて、本当に完結になります。

ここまで読んでくださった皆様に感謝を込めて。



「よいのですか?せっかく来られたのに」

 鼻の周りのそばかすが特徴的な、少女とも女性とも取れる妙齢の女が、隣に居る幾つか年上の女に声をかけた。


「いいのよ。会っても、お互いどうしたらいいかわかんないわよ」

 エイダの質問に、リョクの背に乗っていた紗和が答える。





 あの後、紗和は確かに昇天した。はずだった。

 といっても、実際に昇天してあの世にいったわけではないので、実際に昇天するということがどういうことなのかわからないのだが。


 とりあえず、強い眠気に襲われて、そのまま素直に眠りについたのだ。


 そうして目を開けた先に立っていたのは、お世話になった堕天使の彼と、心配そうにこちらを見つめる自称侍女の天使の姿。


『紗和様!!気が付かれましたか!!』

『だいぶかかったなぁ。ま、仕方ねぇか。あんだけ何回も魂を出し入れされてれば』

 泣きそうなエイダに抱き付かれ、何やら同情めいた視線をラクザレスから投げかけられながら、紗和は混乱していた。


 今の自分の身体は、あの時ジョンダイルに貰った依代。

 何故死なずに自分はこの世界に留まっているのか。




 

「あ、リョク、ここでいいわ」


 紗和の合図で、空を飛行していた三匹は開けた草原に降り立つ。

 辺りには人の姿は一つもなく、ただ広い野原が広がっているだけ。

 そうして降り立って少しすれば、少し遠くに見えた一つの馬車。


「来た来た」


 ゆっくりと近づいてきたそれは、まるで紗和達を迎えにきたと云わんばかりの様子で、彼らの傍に辿り着くとすぐに止まった。


「兄さん」


 エイダが馬車の御者台に座っていた背の高い青年に声をかけた。

 彼女に一瞥を向けた彼は、言葉を発することなく地面に降りると、慣れた手つきで馬車の扉を開ける。


「まったく、少し出かけるといって、こんな所にまで迎えに来させるとは、いい度胸ですわね」

「ごめんって。ちょっと急用だったのよ」

「………クリスティアナ達は、無事でしたの?」

「うん、大丈夫」


 馬車の中に座ったまま、首だけをだして、デイジーが非難の声を漏らした。

 彼女を振り回した自覚のある紗和は、肩を竦めながら謝罪の言葉を重ねる。もちろん、彼女が本気で怒っていない事、そして、クリスティアナの事を心配していたのは、ここの一年の彼女と過ごした日々の中で承知済みだ。


『なー、ルーク、遊ぼうぜぇ』

「あ、ラン!って、兄さんも何を!」

「今は時間がない。早くこの中に」


 デイジーと紗和が会話をするその後ろで、ルークがランにじゃれ付かれていた。しかし慣れた様子で、ルークは隠し持っていた猫じゃらしをランの鼻元に当て大人しくさせる。

 その様子を見ていたエイダが少し疲れたような声を出すものの、すぐに諦めた様子でもう二匹のモンスターを、馬車の後ろに取り付けてある小型の荷台に誘導していた。


 これらも、ここ一年でかなり見慣れた風景になりつつあった。


「さ、わたくし達も早く行きますよ」


 デイジーに急かされて、紗和は馬車に乗り込むために、手を馬車の扉に、そして足を車輪の横についている鉄鋼に掛ける。こうして軽い動作で、デイジーの隣に飛び乗った。


 心得たように、デイジーもまた隣の席を空けるように移動していた。


 三匹のモンスターを荷台の中に隠したデイジーも馬車に乗り、ルークは再び御者台に飛び乗った。そうして、ゆっくりと歩みだす馬車。


「まー、びっくりだわねー。まさかルークがエイダの兄。ってか、シェーシアのもう一つの天使とは」

「一応近くのどこかに居るとは把握してはいたのですけれど、まさかデイジー様の傍に居たとは思いませんでした」 

「デイジーが天使の主とはねぇ」


 紗和がしみじみと当時の驚きを回想する。その前に座っていたエイダも、同調するようす頷いて見せた。

 少しずれた感性をしているらしい、自分より年嵩の二人の女性を胡乱気に見ていたデイジーは、持っていた扇で口元を隠しながら溜息をつく。


「あなた、自分も中立天使の主であることをお忘れでなくって?そのせいで厄介な役目を押し付けられていますのに、なんですのその余裕綽々な態度は。というか、わたくしを隠れ蓑にしているのですから、少しは責任感をお持ちになってはいかが?」


 頷きながら視線を外に逸らしていた紗和だったが、デイジーの丁寧すぎる状況説明に、その余裕の笑みを崩した。まるで油の切れた人形のような動作で、顔を馬車の中へ向ける。

 エイダのキラキラ輝いている瞳と、扇で口元を隠しつつも、その冷めた目は隠すつもりはないらしいデイジー。


 己の状況を嫌でも思い出さなくてはいけなくなったその場の雰囲気に、紗和は悲しみの声を漏らす。


「私だってビックリよ!!まさか、エイダの主が私になってるなんて!」


 ―――あの森の中の言葉が、まさかそのまんまの意味だったなんて誰が思うわけ!?天使って神様が主人じゃないの!?


「ルークとエイダに限っては、中立の立場故、その限りではないそうですわ」

 わたくしも最初は戸惑いました。

 と、まったく戸惑った様子のない少女は、まるで紗和の心を読み取るように言った。


「紗和様、シェーシアを纏める新たな天使として、これから忙しくなるとは思いますが、わたしも一生懸命頑張りますのでよろしくお願いいたしますね!」


 すべての原因といってもいい天使の止めを刺すような一言に、今度こそ紗和は崩れ落ちたのだった。


 そんな彼女を見ていたデイジーは、堪らずと言ったように声をだして笑い始めた。


 馬車から聞こえてきた笑い声に、御者台に座っていたルークは、人知れず笑顔を零していた。

 そして、荷台の中に行儀よく並んで寝そべっていた三匹のモンスターもまた、その口元に穏やかな笑みを浮かべて、目を瞑った。





『紗和、君はエイダの主となったんだ。天使の主になる、どういうことかわかる?』


 ジョンダイルの鏡越しではない出現に、紗和は面喰う。

 その顔に仮面はなく、今の自分と似た紫の瞳が爛々と喜びに輝いていた。すでに麗人恐怖症を克服していた紗和は幼馴染の天使の顔を見ても、もう悲鳴を上げることはない。

 しかし、彼の言葉には動揺していた。


『え、どういうこと?』

『でね、実はもう一つのシェーシアも人間を主にしてしまっていて、このままだと伝達役が不在になってしまう危険があるんだよ』

『おーい』


 興奮しているらしいジョンダイルは、紗和の質問を完全無視するつもりのようだ。

 傍に立っているはずのラクザレスは知らぬ存ぜぬの体制で顔を背け、エイダはジョンダイルの言葉になにやら感動したように頷いている。


 嫌な予感しかしなかった。


『だからね、異例の処置として、紗和の魂を新たなシェーシアとして昇格させることにしたから、エイダともう一つのシェーシアと協力して、この地上を見守ってね。やったね、これで僕とずっと一緒だね』

『はぁぁぁぁぁ!?』

 

 ―――紗和の数奇に満ちた二度目の運命は、まだ、始まったばかり。














●  ●  ●  ●  ●


こぼれ話


「本当に、どうしてわたくしはこうもおかしな拾いモノばかりしてしまうのかしら?」


 デイジーの住む離れの屋敷に着いた一行は、馬車の前に並び立っていた。

 彼らを見回して、デイジーは溜息をつく。


「デイジー様、彼らが不必要ならば、私が捨ててきましょうか」

「兄さん!!!紗和様を不必要とはなんですか!」


 ルークの無表情かつ失礼な言葉に、己の主を侮辱されたと受け取ったエイダが噛みつく。二人が並んでいるところを見て始めて気がついたことだが、彼らはあまり馬が合うわけではないようである。


「まぁまぁ、いいじゃないの。デイジーちゃん、どうせ身の回りの世話をする人居ないんだし。新しい使用人が増えたと思って」

「そうですわね、一人二人変人が増えた所で、そんなに変わりはありませんわね」


 そういって、再び小さく溜息をついたデイジーは、そのまま己の屋敷へ向かって歩き出した。

 彼女の背中を唖然と見送っていた紗和は思わず呟いていた。


「ルークが変態ってのには、気づいてたんだ、やっぱ」


 自分の言葉が聞こえたのだろう。己の主を追うために紗和の横を通り過ぎたルークから、ものすごい殺気が飛んできた。


 紗和はその視線を華麗にスルーして、エイダと三匹のモンスターと共に自分の新しい住みかに歩き出したのだった。

 




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