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30冊目~雫~

「ただいま戻りました。すいません、アイリスにサインしてもらいたい書類が……。あ」


 取りに来るようにと言われていた書類を受け取り、フレドリックが書庫へ戻ると、カウンターに備えられた椅子に座り、こっくりこっくりと舟を漕ぐ彼女がいた。



 少し前から、彼女宛ての書類がよく届き、詳しくは知らないが呪書に関する仕事も増えているらしい。


 お陰で当然、お茶の時間なんてとれる筈も無く、最低限の業務連絡以外彼女の顔を見ることが出来なくなった。

 そこに多少の寂しさを感じるのだから、いつの間にか本当にこの場所で護衛騎士なんて仕事をしていることが自分の生活の一部になっていることを自覚する。

 そして、せっかく話をするようになったこの関係がまた以前のような他人行儀な冷たいものに戻ってしまうそんな気がしていた。


 が、その予感は良い意味で裏切られることとなった。


 相変わらず外には出ない為に護衛騎士としてやることが無いフレドリックのために、彼女が今まで通り本を一冊、メモ書きを添えて渡してくれるようになったからだ。




『以前読んでいただいた物語に近いものなので楽しんで頂けると思います』


『今日は雨ですから、雨の詩を集めたものです』


『竜についての伝説を題材にした話です。読み応えがあるかと』




 フレドリックの趣味に合う本を選び、それに短くもそっと一言添える、彼女のまめなそれに、感心し温かい気持ちになるような気がする。

 いくら彼女が忙しくなろうとも、それは今も続いている。



 ###


 すうすうと寝息を立てる彼女はいつもの凛とした雰囲気ではなく、もっと年相応のいつかフレドリックよりも年下だと言っていたことが納得できるような幼さを持っている。



「こんなところで寝ていたら風邪をひきますよー」

 カウンターの高さまで少し背をかがめてフレドリックは声をかける。


「マジで寝てるっぽいな、これ……」


 久しぶりに見た彼女の顔は心なしか、以前より青白く、よほど疲れているのか、声をかけても一向に目覚める気配がない。



 そんな彼女を無理に起こすのも忍びない。

 とはいっても、このまま放っておくわけにもいかないので、仕方なくせめて体を冷やして風邪をひかないように何か掛けるものでも探そうと立ち上がったフレドリックの耳に小さな声が聞こえてきた。




「兄さん…姉さん……行か、ないで」




 雫がひとつ、目尻から真珠の様にコロリと転がって、音もなく染み込んでいった。

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