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29冊目~紅茶~

「フレドリックどの、休憩にしましょうか。」


 呼びかけられた声に、フレドリックは読んでいた本から顔を上げ、近くの壁際に置いてある古い柱時計に目を向ける。




 ちょうど昼下がりであるようだ。




「ああ、もうそんな時間ですね」


 手元の本に栞を挟み、机の上に広げたままだった書類のインクが乾いているのを一通り確認して重ね、机の上を片付け終えるのを確認すると、応接用のソファーのいつもの席に移動する。


 その時、パタンと扉を閉める音がして、ちょうど準備を終えてきたらしいアイリスが、ティーセットの乗ったトレイを手に書庫に戻ってきた。


 ふわりと漂う紅茶の優しい香りが近づいてくる。


 アイリスはフレドリックの座っているソファーの前のローテーブルに一度トレイを置くと、カップに中に琥珀色の液体を注ぎ、ソーサーに乗せて渡してくれる。


「どうぞ」

「いつもありがとうございます。」

「いえ。」


 ここまでがいつものやり取りである。




 アイリスが向かいに座って。

 ずっと何を話すわけでもない。

 ただ穏やかで静かな、温かいお茶の時間を過ごす。




 それがいつものはずだった。



「?」

「どうかしましたか?」


 自分で入れた紅茶を一口飲んだアイリスが訝しげに眉をひそめた。


「あっ、いえ。ちょっと味が違うような気がしまして。」

「え?そうですか?」


 そう言われて、フレドリックは自分に配膳されたカップに口をつける。

 しかし、口の中に広がった風味はいつもと何ら変わりのない、彼女の淹れてくれる紅茶の優しい味だった。


「特に変わりはないように思いますよ」

「そう…ですか。」

「ああ、でも。俺はそこまで味の利きができるわけじゃないですし、宿舎で男どもの雑多な『紅茶』とも言えない代物を飲まされているから、わからなくなっているだけかもしれないですけど。」


 アイリスの無表情に影が差したような気がして、フレドリックはそう少しおどけた口調でそこからしばらく、いやな空気を振り払うようにヨハネスをネタにして、男所帯ゆえの笑い話を語る。

 すると、アイリスは目を瞬かせ。

 少し、ほんの少し笑った。



「いえ、私の気のせいかもしれませんし。用意してもらっているものなので。もしかしたら、ここ最近、茶葉が変わっていたのかもしれませんね。……フレドリックどの?」


「あっ、ああ。そうかもしれませんね。」


 ははは、と笑って、返事が遅れたことを誤魔化すとフレドリックはまた紅茶を飲む。



 自分には分からないだけだろうか。





 しかし、どれだけ違いを見つけようとしてもやはり、フレドリックにはその琥珀色が香りも味もいつもと全く同じもののように思えてならなかった。






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