第十話.温かい飯と無言の説教
銀さん、ある意味無双です。(笑)
食事を乗せたおぼんを持って僕は銀の眠る部屋に入った。
すると、ちょうど銀が体を起こして、寝惚け眼でぼーっとしている所だった。
嬉しくて、嬉しくて、僕は机に食事を置くなり、寝台の上で気が付いた銀に抱きついた。
「しろがね!」
「!?……あー、……う?(なんだおまえか抱き枕。イイ匂いのソレ、なんだ?)」
「あ、これ? 僕が作った兎鍋のスープ。ダシは兎の骨と肉からとって、薬草を刻んで山菜と一緒に煮込んでみました~! ふっふ~ん、すごいでしょ?」
銀の前で胸を張る。銀は首を傾げて、ちょうだい、と腕を僕に差し出した。
「………う?(……うさぎ? とりあえず寄越せ)」
はい、と木を小刀で彫って作ったしゃもじ(スプーン)と器を差し出した。
「………。(………食べれないことは……なさそうだ)」
にこにこ見守っていると、銀はスープ(兎鍋汁。正式名称はない適当なごった煮。ただし、味見した時点で、味はそこそこ良かった。温め直しもして、湯気がたちほくほく美味しそう。味付けは何故かあった岩塩の塩を削って入れただけ。素材そのままの味スープ鍋)のニオイを嗅ぎ、しゃもじで中身の具材を転がして、おそるおそるといった風体で、一口口に運んだ。
「……!!(なんだこれ。美味いじゃねえかっ)」
途端、あまりの美味しさに感動したのか一瞬、動作が固まった。次いでがつがつとがっつく様にお椀を仰ぎ、お代わりを要求してくる。
「ああーーっ!!(お前の分も寄越せ。もっと食べる)」
君の場合はこれまでの食生活が酷過ぎたようだからね。さもありなん。
「しょうがないね。ほら、どうぞ」
その様子が嬉しくて、口元がゆるんでしまった。心からの満面の笑みで僕は自分の分の食事の入ったお椀を手渡す。
うん? 一瞬、手を伸ばした銀が固まったような気がしたが、気のせいか? うんうん、気のせい。だって変わらずガツガツ食べてるもん。嬉しいなぁ。自分の作った食事を食べてくれる人がいるのって嬉しいなぁ。
「………。(やっべ、一瞬抱き枕が綺麗に見えた。だけど幻、あれは幻、気のせい。抱き枕如きがきれいに見える訳がない。このメシうっめ~♪ もっとないのか?)」
銀から微妙に伝わってくる心の声というか、思念が失礼なこと考えてきた気がするけれど、気のせいか? ま、いいか。美味しそうに食べてるし。今はそれで僕、満足!
「え、お代わり?」
コクリと頷く銀。
にへら~っと顔がゆるむ僕。
「そんなに気に入ったのか?」
御椀の底で殴られた。何故だ!?
グイッと無言で差し出される器。
「ほへ?」
受け取ったら、背中をどつかれて行って来い、と入口を眼線で指された。
「うぃ~。(100数える間に行って戻ってこい。いーち、)」
なんかよくわからんが、急いだほうがいい気がして、僕は全速力で厨房まで戻った。もう一度同じことがないとは限らないので、鍋ごと担いで同じ部屋に戻るのであった。あれ? なんか数数えてない? 気のせい? 気のせいか!? なんかこの後、罰ゲームとか待ってたりしないよな。なあ!?
「ひゃ~……チッ。(意外に早いじゃねぇか。)」
し、舌打ちぃぃ!? しかもなんか百って言いかけてねえ!? あ、危なかった……と心底胸を撫で下ろしたくなるのは何故だ? 恐るべし、銀兄貴!
「……ぅん。(つげ。おかわり)」
僕から受け取るというか、奪い取った器を差し出して、上から目線で命令してきている気がするのは、気のせいでしょうか銀さん。亭主関白の暴君と化してきているのはキノセイデショウカ?
「つか僕、なんか良いように使われてない?」
「あ~。(気のせいだ。それよりおかわり)」
んんっ? 目ぇそらした。眼ぇ逸らしたよこの人!
「い゛―。(は、や、く、し、ろ!)」
「いだだだだだだっ、噛まないで?! 腕噛まないで! わかったわかった、注ぐから。お代わり入れるからっ」
「……だー。(よし。わかればいいんだ。わかれば。早くしろ)」
「はいはい。僕の分、一杯分くらい残しておいてよ?」
鍋から直接お椀にお汁を注いで手渡すと、銀はフイッと顔をそらした。
要約すると「(善処はするが最終的には知らん。自分でなんとかしろ)」ってとこ? 気に入って貰えてなによりだけど、僕も今の内に食べとくか。
つい先ほど銀に渡したのとは別の御椀に兎鍋汁を入れて。
それでは手を合わせて。
「いただきます」
といって僕は頭を垂れ、まだ物足りない様子の銀に食べられる前に、自分の食事を済ますのであった。
食事が終わり、銀も僕も人心地ついた頃。
今までの事情と三日間、なにやってたかを話したら、危機的状況勃発!
あっれれ~? 僕ら仲良かったよね!? 抱き枕にして擦り寄ってくれてたよね? なのに、なんだこの状況の変化は。
おいちゃん、悲しくて前が見えない。な、泣いてなんかいないんだから! まだ!!
「………。(おいこら、聞いてんのか? あ゛?)」
ただいま、銀様に上から目線で睨みつけられております。アハ、ハハハハハ。
「………。(てめーなにやってんだよ。俺が気絶してる間になにしてくれちゃってるわけ。ええ、おい。ああ゛?)」
というような視線を貰いましたが、気にしません。
底冷えのするジト目を貰って、気まずさに冷や汗をかいたりなんかしてないからね!? いじけてなんかないんだから!!
おいこらやべーよ。これやべーよ。銀様の背後に鬼神が視えるよ? 正直重圧が半端ねえんですケドっ!?
羅刹でも般若でもなく、無口無表情のまま、じーっと迫力度満載な綺麗な顔立ちした幼子(銀)に意味も解らず怒られている幼子(僕)。なにこの構図。めっちゃシュール……でもないけど、なんか恐ええよ!?
せ、せめてなんか喋ってください。お願いします。僕、この重圧に耐えられません。へたれの弱虫臆病者の暗殺者には、この空間、ちっとキツイ。正直今すぐニゲダシタイデス。
銀様曰く、
「………。(おいこらてめー。俺の手足を勝手に減らしているんじゃねえぞコラ。俺が上でオマエが下なんだよわかったか!?)」
という無言の圧力を、起きて早々の銀にかけられているような気がしないでもありません。あれ? なんで僕、正座なんかしているのだろうか。なんで銀兄貴は、西洋寝台の上で胡坐をかいて、腕組みなんかしてイラッシャルノデショウカ? 睨まれています。思いっきり睨まれております。あっれれ~? 僕、なにかしたかなぁ……?
「………バカ。(とりあえず謝れや俺に。話はそれからだ)」
ば、バカって言われた。心底見下げ果てた眼で『バカ』って……しくしくしくしく。
悲しくて、泣けてきそう。
「………あ゛~。(謝罪は?)」
ビクッ!!
体を震わせて、ガクガクと怯えながら、僕は本能と目の前の人物から聞こえる気がスル幻聴に大人しく従った。
「す、スイマセンでしたぁぁぁぁああああッ!!!!」
土下座である。
銀は大仰に頷き、なにか満足した顔で寝台に寝転がった。
「え、寝るの? 寝ちゃうの? そこで寝ちゃうの!? ご飯とか食べたり、探したり、外出ていったりしないの!?」
チラッと僕に視線を向けた銀。なんでそんなにうっとうしそうに見るの? なんで興味なさげなの? 死活問題でしょ。いや、欠伸なんかしてる場合じゃなくて、生きる為に行動しないと……。
「ふあ~あぁ……あー。(うるせえ黙れ。俺は眠いんだ。てかおまえがやればいいだろが。生活管理とか勝手にしてくれ。俺は寝る。任せた)」
シッシと追い払うように手で合図されて、僕は愕然とした。銀はそのまま、健やかな寝息を立てて、本当に眠ってしまう。
「どうすりゃいいんだよ。やれってか? この僕にやれってか?」
つか、思ってることが八割方わかるのは、双子補正なのでしょうか? 目と雰囲気と仕草からだいたい何が言いたいか、読み取っているけれど、彼、人の言葉はまだ『バカ』と『眠い。まだ寝る』くらいしか喋ってないからね!? というか銀、成長速度が異様に早い気がスルのは僕サマの気のせいか? 気のせいなのか!?
「あーっもー!! しゃあねえなァ! やったろうじゃねェか!! 目指せ、まともな食卓! 一般人レベルの生活向上!!」
僕はあたまを掻きむしり、銀が眠る部屋で、誰にともなく声たかだかに吠えたのだった。
そのすぐ後に、寝台脇にあった桶を、銀に投げつけられたのは言うまでもない。
カッコーン!
「あうっ!?」
いい音がして、おでこになにか堅いものがあたってふら付いた。
銀を見れば、彼はド迫力の美麗なご尊顔に物言わせて、無言で「(うるさい)」と眼が語っていた。これに僕が怯えて縮こまってしまったのも、いうまでもない話。
……涙が滲んで、かなり痛かった。なにこれ、理不尽です。暴力反たーい!
うそ嘘うそウソっ、ごめんなさい。桶投げないでそれ日用雑貨! おうわっ!? きゅ~………りふ、じん、だ……ガクッ。
銀さん強い。(確信)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




