最終日-2
「楽しいですね」
「………………あ、うん。そうだね」
「?」
映画を楽しんだ後、ショッピングモールをうろついていたのだが、皐月は十の反応がよくないことに気がついた。
反応がよくないというよりは、皐月の言葉が頭に入ってこないという感じだ。
皐月と会話(皐月が一方的に離しかけて十が頷く)を繰り返している間にも、しきりにそわそわと顔を動かしていて、なんだか様子がおかしかった。
もしかして、と皐月は思ってこのあとに何か用事があるのかと聞いてみたところ。
「幼児? うん、かわいいよね」
だそうだ。
確かに小さい子供はかわいいのだが、話を聞いていないことは明らかだった。
どんどんと沈んでいく気持ちを抑えながら、商品棚に並んでいるぬいぐるみの一つを手に取った。
現在、皐月と十がいるのはファンシーなキャラクターグッズ専門店だった。
興味がなくてもどこかで一回は見たことがあるというキャラクターたちがメモ帳やぬいぐるみ、アクセサリーになって店内に窮屈に配置されていた。
「ふむ」
皐月は一つ頷くと、ぬいぐるみを両手に構えて十のところへと歩いていく。
十はやはり何か思案にふけっているようだったが、皐月はできるだけ気にせずに十に声をかける。
「やあ! 僕はぬいぐるゲホゲホッ!」
「無理に裏声を使うから……」
腹話術が出来るなら、裏声なんて使わないやい。
それからもいろいろな店を廻って、皐月の両手には手提げ袋がたくさんぶらさがっていた。
一つの店で多くのものを買うことはなかったのだが、多くの店で商品を購入して廻っているといつの間にかこんなにたまっていたのだ。
これには皐月も予想外だった。
持ってきていたバックにつめていくも、なかなか全部入りきらない。
ここからは匠の技の見せ所である。
どうやってこのバックに全ての荷物をつめようか……。
「よし。新しいバックを買ってきましょうか」
「ちょっと待って」
踵を返し、店を探そうとする皐月の手を十ががしっとつかんだ。
とても力がこめられているので、皐月は歩き出すことが出来ない。
「どうしたんですか?」
「根本的な解決になっていないよねって思って」
「ふふふ。それを決めるのは私なのです。……あっ、あっちに可愛らしい洋服が」
「まだ荷物を増やす気なのか!?」
「で、でも! 今日を逃すと、明日にはなくなっている可能性も……!」
「なにその脅迫概念!? あるよ! きっとあるよ! そのうちセールで安売りされるかもしれないじゃん!」
「…………お客様?」
「あっ」
店員さんに怒られました。
皐月と十は起こられてしまった手前、それからのんきにぶらりとウィンドウショッピングもしずらくなってしまったので、早々と退散することになった。
たくさんあった荷物は両者の協力でなんとかバックに入れ込むことが出来て、皐月も一安心だ。
自動ドアをくぐって外に出ると、空はきれいな真っ赤に染まっていた。
住宅街であるのが残念だったが、そうでないなら日が沈んでいくところも見ることができたのかもしれない。
「だいぶ空も暗くなってきたね」
「そうですね」
皐月はちょっと驚きながら返答した。
ここ数時間の間、十のほうから話しかけてくることがなかったからだ。
心の中の整理が終わって、気分が晴れたのかなと皐月は予想して十の顔を盗み見るが、確かに十の顔は晴れ晴れとしていてやりきった感じが溢れていた。
一体、何をやりきったのだろうか。
ちょっと気になったが、皐月は何も言わずに十の横を歩いていく。
無言だ。
ちょっとだけ、哀愁に浸っているのだろうか。
ショッピングモールを後にした皐月と十はお互いにないも発することがなく、ただ歩いているだけだった。
皐月も道中、何度か口を開こうとしたのだが、そのたびに十の表情を見てその気が霧散してしまっていた。
(どこか、違うところを見ている気がするんだよね)
それが何を意味しているのかが分からないのが、皐月をむずかゆい気持ちにさせていた。
(やっぱり聞いてみたほうがいいのかなあ)
今日、会ってばかりのときは皐月と面向かって話していた感じがあったのだが、移動してからというもの十は別のものに意識をからめとられていた。
これは勘違いではないと皐月は自信を持って断言できる。
皐月がばっと駆け出そうとするときはさすがに慌てて止めにかかっていたようだったが、それ以外でまったりしているときに話しかけても上の空なことが多かった。
(気になるなー。……よし、聞いてみよう)
こんな浮かない気持ちのままだと、気分がよくないだろう。
楽しかった!
そうはっきりといえる気持ちで、今日という日を終わりにしたいのだ。
皐月は顔を引き締めて、十に顔を向ける。
「ねえ、今日ってなん――」
「今からマジックを見せてあげるよ」
皐月が意気込んで発した言葉は、唐突にさえぎられてしまった。
そのことに驚きながらも、皐月は十が言った台詞の意味を噛み砕こうとする。
しかし、混乱が先走ってしまって、うまく考えがまとまらない。
「えっ、えっと……どういう……」
皐月がそんな意味のない言葉しか口に出さないのも十は気にしないようで、そのまま続きを口に出していた。
「人がこれまでに夢見てきた、魔法のような現象だ」
「なにをいっ――」
「テレポートだ」
何を言っているの?
その皐月の言葉は最後まで発せられることはなかった。
(あれ? なんか頭が……)
なにが理由かは分からないが、ぐにゃりと皐月の視界がゆがみ始める。
まぶたも急に重くなって、開いていることさえも難しくなってきた。
何も出来ずに、体の軸が歪んでいくのを感じながら、皐月は十を見極めようとするが、その足から上に視線を上げていって胸まで届いたところで皐月の意識は――。
――闇へと落ちていった。




